バラバラだったスキル情報を一元化。
個人の成長が実感できる環境づくりと全社横通しの人財マネジメントの実現へ。
ジャパン マリンユナイテッド株式会社
同社は100年以上の歴史を持つ4つの会社の造船部門を再編し、2013年に誕生した造船会社です。歴史に裏付けられた高い技術と知見を持つ一方、異なるルーツを持つがゆえに、これまで人財育成は事業所(製造拠点)ごとに委ねられていました。そこで同社は、生産に関する全社横断的な組織「生産センター」において、技能系社員に対する共通技能評価基準の作成と技能レベルの可視化に着手。その一環として、1年前から「Skillnote」を活用した人財データの一元管理をスタートしています。生産センターのご担当者ならびに、熊本県・有明事業所の管理責任者の皆様にお話をうかがいました。
- 導入前の期待
- 全事業所の製造部門で共通の指標を用いたスキル評価制度の実施
- 人財データの一元管理
- 個人のスキルの可視化と全社的な人財マネジメントの展開
- 導入後の効果
- 現場の職長(指揮監督者)による技能評価や資格・人事データの取り込みにより人財データの一元管理がスタートできた
- 製造現場における課題解決への期待感が高まり、活用の下準備が整った段階にある
事業所ごとにバラバラの人財データを一元管理し、全社的な人財マネジメントの実現へ
ー「Skillnote」導入の背景にある、造船業の課題について教えてください 。
栁さん(以下、敬称略):造船業の特徴は、圧倒的な労働集約型産業であることです。自動車や家電メーカーはオートメーション化が進んでいますが、造船は現場で働く社員の技能に依存する産業であり、作業者のスキルアップが品質、コスト、現場の安全性につながり、企業の生産力と直結しています。
従って、現在の技能レベルを正確かつ定量的に把握し、それに対して適した育成方法を計画・実施できるかが、造船業の喫緊の課題となっています。
荒見さん(以下、敬称略):これまでの製造現場では、資格やスキル管理のフォーマットや方法が事業所ごとにバラバラでした。さらに、一つの事業所の造船部門の中だけでも船殻(船体の製造・組立)、艤装(船の装備)、塗装などの専門領域があり、その中に取付、溶接、配管、配線などスキルの異なる多様な専門職があり、横通しの人財マネジメントが困難でした。
結果として、社員のスキル評価や人財育成は事業所や現場の職長に委ねられている状況でした。
全社共通のフォーマットで各事業所の人財情報を一元管理し、本社と共有して当社の総合力を正しく把握すること。さらに、スキル情報に紐づいた人財マネジメントを全社的に行い、事業所ごとに適正なスキル人財の配置と、個々の社員が納得できる評価、成長を実感できる職場づくりをすることが課題でした。そこで、共通技能評価の仕組みをつくるとともに、現場で使いやすい全社共通の管理ツールを求めていたのです。
力量マップの見易さが導入の決め手
ー「Skillnote」を選んだ理由を教えてください。
荒見:当初、eラーニングシステムや総合的な人財マネジメントシステムを探す過程で「Skillnote」を知り、製造業に特化した設計に興味を持ちました。導入企業の中に、当社と関連の深い会社様があるのを見て、直接ヒアリングに伺いました。そこで正直な評価を伺えて、使用感をイメージできたことは大きいですね。
また、「Skillnote」の中でもメインで使うことになる「力量マップ」は、エクセルに近い見た目ですよね。各事業所ではエクセルベースで技能評価をしていたので、新しいシステムでも現場の心理的な負担が少ないのではないかと考えました。
ー「Skillnote」の導入プロセスはどのように進めましたか?
荒見:まずは、2022年1月から横浜事業所で1年間テスト導入を行い、実際に評価を行う職長が使用する際の問題点を洗い出しました。そのうえで、2023年1月より各事業所への展開をスタート。ITリテラシーも多様ですから、生産センターのメンバーが有明、呉、津の各事業所に行き、PCを持って集まってもらった各職長に、その場で操作を一緒に行ってもらい、操作方法を伝授していきました。
「Skillnote」は人財配置や育成計画の支援もでき、すべてを利用できればさらに現場の力になると思います。しかし、まずは「共通技能評価」のための力量マップの入力と操作を滞りなく行えることを最優先としました。
ー現場では、新しいシステムへの心理的な抵抗はありませんでしたか?
栁:「Skillnote」の全事業所展開の前に、そもそも「共通技能評価」の導入があり、その目的を伝えたことが功を奏しました。スキル評価が上長のさじ加減でブレてしまう危機感、そして公正な評価方法の必要性を各現場の職長も強く感じていたからです。
新たな技能評価では、項目ごとに10段階のレベルを設け、各レベルの達成要件を言語化して設定したので、上長が迷いなく評価ができるようになりました。その仕組みが、実際に現場で運用でき、従業員に貢献するかどうか。これが一番重要なことです。
荒見:「Skillnote」の機能の一つである「レベルアップ条件」にその達成要件を記載することができたのも、評価をしやすかったのではと思います。
そもそもの最も大きな「目的」は、全社的な人財データの一元管理とスキル評価による個人と組織の能力の向上、人財育成です。「Skillnote」は、その「目的」を実現するための有効な「手段=ツール」という位置づけなのです。その点をきちんと伝えたから、前向きに取り組んでもらえたのだと感じています。
人財データの「見える化」と一元管理に期待
ー実際に製造現場で作業者を管理するみなさんは、「Skillnote」を使ってみていかがでしたか? 使用上の課題などあれば教えてください。
中村さん(以下、敬称略):私は外業チーム長をしています。スキル評価は専門職の班を束ねる「職長」が行うのですが、「Skillnote」では一回入力すればあとは更新作業となります。より作業を効率化していくための余地はありそうです。
國料さん(以下、敬称略):渠中(艤装ドック)で溶接の職長をしていますが、私の下に班がいくつかあり、40人分の評価をしています。今後は作業員を近くで見ている各班長と相談しながら進めて、スキルをより厳密に管理できたり、負荷軽減できたりするといいですね。
ー逆に、「Skillnote」を実際に使ってみて、今後の活用で期待できる点はありますか?
森さん(以下、敬称略):私は栁、荒見と同じ生産センター所属、生産現場でのDXを担当し、有明事業所での「Skillnote」などのシステム運用をサポートしています。「Skillnote」はシステム自体の使用感がいいですし、期待できる点は多いと思います。
現在は、共通技能評価を力量マップに落とし込んだ「データベース」の状態です。今後はレーダーチャートやグラフなども活用し、スキル情報の「見える化」を図っていくことが現場活用におけるカギになるかと思います。さらに、現場では共通技能評価だけでなく、溶接職の専門技能評価も進めています。
ー溶接職のスキル評価について、詳しく教えてください。
岩下さん(以下、敬称略):総組(船体の組み立て)部門で溶接の職長をしています。これまでは外業チーム独自で技量評価表を作成しており、溶接職の専門スキルとして、「TIG溶接」や「自動溶接機」などの機材の違いと、「下向き」「横向き」「縦向き」といった技術の違いをスキル項目にして、S・A・B・C・Dの5段階で技量を評価していました。
三渡さん(以下、敬称略):総組で取付の職長をしています。私たちの仕事は、週ごとに各セクションに求められる業務量がまったく異なります。そのため、他の班から人を借りて対応することが常です。同じ事業所の作業員の溶接スキルや技量なら、職長や班長が把握しています。だけど、他の事業所からの応援作業員のスキルや技量はまったくのブラックボックスだったんです。
「応援に来る人が求めているスキルや技量を持っているか?」「持っていないなら何を手伝ってもらうか?」を今までのシステムでは事前に把握して準備していました。今後はこれらの情報も「Skillnote」で一元管理できるので、現場としてはありがたいですね。
「Skillnote」で若手のモチベーションを高め、スキルアップにつなげたい
ー「Skillnote」で溶接スキルを管理するメリットや可能性を教えてください。
國料:「Skillnote」で溶接スキルのレーダーチャートを試験的に作ってもらいましたが、パッとスキルがわかって良かったです。今後さらにデータベース化が進んでいくのなら、作業員個人だけでなく「班単位」「職単位」「事業所単位」の総合力がカルテのような形で「見える化」されてほしい。そうするともっと面白くなると思います。
三渡:班の総合力がわかると、生産体制の安定化につながると思います。溶接スキルに限らず、専門職のスキルや技量が各班でバランスよく構成されれば、班ごとの製造スピードのバラツキを無くせますから。計画に対して遅れている班があれば、「どの力量」が低いから遅れるのか判然とします。そうすれば教育計画も明確になりますよね。
ー「Skillnote」の活用が、製造現場の人財育成にも貢献できるということですね。
中村:今は職長以上が管理するためのツールとして使っていますが、今後は一般作業員も「ほかの従業員と比べて自分が今どれくらいの位置にいるか」を把握できるようにしたいですね。レーダーチャートで従業員の技量を「見える化」することは、若手の教育にも良いと思うんです。現場の教育課題って実はモチベーション管理なんですよ。
造船の担い手が減り、現場ではベテランが不足して平均年齢は下がっています。教える側の人手も足りない。だからこそ、スキルの「見える化」によって、若手従業員が自分の技術レベルを客観的に認識して、自分から積極的に情報や技術を学び取っていける環境を作りたいと思います。
岩下:グラフやレーダーチャートを見て、ゲーム感覚で「スキルが上がった!」と視覚的にわかると、従業員のモチベーションも上がると思います。どんなに不器用な従業員も、20代半ばの頃に急激にスキルが伸びて一気に戦力化するときが来ます。しかし、その成長も、従業員に成長へのモチベーションがあってこそのものです。「Skillnote」によるスキル情報の「見える化」はそのきっかけになり得ると思います。
栁:生産センターも同じ気持ちです。加えるなら、生産センターのミッションは、公正な評価を行ったうえで、処遇に反映していくことです。それを実現させてはじめて、従業員に達成感や次の目標に向かう意欲が生まれて、成長サイクルがスパイラルアップしていきます。だからこそまずは「Skillnote」を活用して、現場従業員のスキル向上へとつなげていきたいですね。
荒見:健康診断のように、毎年、客観的に自身の技能などを把握できるカルテをつくりたいと考えています。経年変化で前年に比べてどう変わったのか? そういうことを自分で把握することができ、次にどこを目指すのかといったことがわかるようにしたいと思います。その結果ジャパン マリンユナイテッドの社員一人ひとりが活き活きと活躍できる環境をつくっていきたいと考えています。
- 社名
- ジャパン マリンユナイテッド株式会社
- 業種
- 造船業
- 従業員数
- 4,200人(2023年3月現在)
- 企業URL
- https://www.jmuc.co.jp/
- 利用用途
- データの一元管理
スキルと教育の一元化