グローバルでのスキル一元管理が「Skillnote」で実現。アフターサービスの品質向上でソリューションプロバイダへ
株式会社ミツトヨ
創業1934年、当時から現在まで一貫して「測る」ためのものづくりに特化し、現在では製造業の品質管理において欠かせない「精密測定機器」で、同社は世界トップシェアを誇ります。早期から海外に現地法人を設立し、世界中のものづくりを支えてきた同社ですが、現地法人ごとに独自のスキル管理が行われ、本部によるハンドリングが難しい状態だったそう。これまでもスキルの一元管理を試みるも、現地法人と管理手法の折り合いがつかず頓挫。
しかし、2019年よりスタートした「Skillnote」の導入により、グローバルでのスキル管理体制の共通化が今まさに実現しようとしています。どのような取り組みと、「Skillnote」の特徴が功を奏しているのか、同社のグローバルマーケティング本部の皆様にお話を伺いました。
- 導入前の期待
- 海外各地の現地法人でスキル管理がバラバラ。一元管理を実現したい
- サービスエンジニアのスキル管理を適正化し、サービス品質を向上させたい
- 導入後の効果
- 海外現地法人の販売戦略・アフターサービス体制をハンドリングする基盤ができた
- スキルデータが「見える化」され、社内でデータ活用の機運が高まった
アフターサービスの品質向上による、競合との差別化。そのために「スキル管理」が重要
ー貴社が製造する「精密測定機器」とは、どのようなものなのでしょう?
橋本さん(以下、敬称略):当社は2024年に90周年を迎えた「精密測定機器」のメーカーです。現在、世界30カ国に現地法人を持ち、80の国と地域に製品を提供しています。 精密測定機器は、製造業の品質管理において必要不可欠な製品です。取引先からの納品物や自社の製造品が図面どおりの寸法になっているかを検査するために用います。
精密測定機器とひとことで言っても、ノギスのような手動で測る工具もあれば、三次元測定機のように対象物を立体的かつ精密に自動計測する大型の機器もあります。 これらの測定機器は、計測の精度を維持するために「キャリブレーション(校正)」などの定期的なメンテナンスを必要とします。
精密測定機器に故障や精度の狂いが生じれば、不良品を生産してしまうことになりかねません。 また、10年、15年とお客様に長くご利用いただく機器もあります。 そのため、当社事業においては、販売と同等、もしくはそれ以上に、サービスエンジニアが担う「アフターサービス」の役割を重要視しています。
ー貴社が「Skillnote」の導入を検討した背景を教えてください。
黒﨑さん(以下、敬称略):2034年の創業100周年に向けて、当社は、ただ製品を販売するだけではなく、お客様の課題解決に貢献する「ソリューションプロバイダ」へと進化しようとしています。 「Skillnote」の導入によるスキル管理体制の刷新は、いわばその地盤づくりの一環です。
現在、精密測定機器の領域で世界トップシェアを得ていますが、今後も拡販を進めていくためには、競合他社との差別化は必須です。 しかし、性能や価格、納期の遵守などに注力しているだけでは、競合との差別化は図れません。お客様が本当に「このメーカーを選んでよかった」と満足し、当社に深い信頼を寄せていただけるようになるのは、5年、10年とお付き合いしてからです。 つまり、長期的な視点に立ってアフターサービスの品質を向上させることが、競合優位性を確保することに寄与するのです。
そこで、2019年から、「サービス品質の向上」に向けたワーキンググループを立ち上げ、サービスエンジニアのスキルアップを目指しています。 その意味でも、 国内外のサービスエンジニアのスキル状況を一元管理して「見える化」することは、悲願でした。
グローバルでスキル基準を統一できていないことが、サービス品質向上を難しくしていた
ー「Skillnote」導入以前は、どのようなスキル管理の課題がありましたか?
黒崎:表計算ソフトを使ったスキル管理ではグループ全体のスキルの一元管理が難しく、その結果、サービスエンジニアのスキル基準がグローバルで統一できないことが課題でした。 当社は早期から海外に現地法人を置いて拠点ごとの独立性を重んじて運営してきました。 しかし、一方でそのために、各拠点が独自の判定基準、独自の方法での管理を進めることとなり、事業戦略や人事戦略を実行する際に必須となるスキル情報を正確に把握できなくなっていたこともたしかなのです。
地域ごとに多少のばらつきはありますが、約5,500種類ある製品のうちサービスエンジニアがお客様先に出向してメンテナンスやキャリブレーション、操作説明が必要になる製品は約500種類に絞られます。 当然、現地法人のサービスエンジニアは、その500種類についてメンテナンスやキャリブレーションなどのスキルに習熟していることが求められます。
現地法人でもサービスエンジニアのスキル認定は、OJTの実施を通して自律的に行われてきました。しかし、スキルレベルを4段階で評価する拠点もあれば、6段階で評価する拠点もあったのです。 スキル情報を正確に把握できていないために、国・地域を横断したスキル基準の統一とスキルの平準化が進まず、サービス品質の全体的な底上げが進みにくい状態でした。
武田さん(以下、敬称略):サービスエンジニアのアサインにも懸念がありました。顧客に対するサービスエンジニアの人選や日時調整は「スケジューラ」という役職者が行います。 しかし、スキルが平準化できないことで、案件と人材のマッチングがスケジューラ任せになり、適切な判断がなされているか客観的にチェックすることが難しくなっていました。
たとえば、製品の検査についてOJTを実施して有資格者として認定していても、熟練度によってはお客様に満足いただけるほどのサービスを提供できない場合もありえます。 その「できる」「できない」の判断を、スケジューラの経験に委ねるのではなく、保有スキルを基準に据えて明確にしたい。 そうでないと、スケジューラが異動になれば、その勘所を一から作り直さなければならず、十分な対応ができない人間を派遣してしまうことにもなりかねません。 現地法人の文化や独立性を重んじながら、同時に、グローバルにスキル基準を統一する必要があったのです。
製造業に特化したスキル管理ができる点が好評価。インタフェースも親しみやすい・使いやすい
ーグローバルでのスキル情報の一元化を図るにあたり、「Skillnote」を選ばれた理由を教えてください
黒﨑:新しいシステムやフォーマットでスキル管理を進めようと思っても、第一印象で「使いにくそう」と思われてしまっては、プロジェクトは進みません。
その点、「Skillnote」は、世界に広く普及している表計算ソフトに見た目が近しく、操作性も良い。機能もスキル管理に特化していて、何を目的とするツールかが直感的にわかりやすい。 これなら国と地域に関わらず、忌避感なく受け入れられると思いました。実際に、どの国や地域でも少し説明するだけで操作方法はしっかりと伝わり、プロジェクトの推進に貢献してくれました。
髙橋さん(以下、敬称略):黒﨑の言うように、私も1度レクチャー動画を見ただけで後は操作に困ることはほとんどありませんでした。 導入初期に、国内外からCSVをもらってスキル情報の入力などを行ったのですが、トラブルもなくスムーズに進められました。
橋本:人事でタレントマネジメントシステムも導入しており、そちらにもスキル管理機能はありました。 しかし、それは付加価値的な機能でしかなく、サービス部門の現場で使うには物足りなかったのです。 その点、「Skillnote」は、製造業の複雑なスキル管理に特化しており、サービスエンジニアのスキルを緻密かつ的確に管理でき、一覧性にも優れています。 さらに、「『Skillnote』を導入すれば、従業員の成長機会を均等にできそうだ」と感じたことも、導入を後押しした理由の一つです。
先ほどスケジューラの話をお伝えしましたが、彼らはお客様と折衝する立場でもあります。そのため、修理の依頼や難しい設備の検査では、熟練のエンジニアをどうしても優先的に起用しがちです。 十分なスキルを持っていても、経験の浅い若手に対して「ミスをするかもしれない」と不安に感じてしまうわけです。しかし、それでは業務量に偏りが生じますし、若手は成長機会を得にくくなってしまいます。
この問題の根幹は、スケジューラに案件と人材のマッチングの責任を負わせてしまうことにあります。 そうであれば、グローバルで共通のスキル基準を設けて、従業員のスキルを「Skillnote」のスキルマップで適切に管理できれば、スケジューラも案件と人をマッチングしやすくなります。
また、教育管理の機能もあり、従業員のスキル教育に有用だと思いました。 「Skillnote」であれば、現地法人と本部が一体となってスキルをベースにした人材マネジメントを進めて、アフターサービスの品質向上につなげられると感じました。
「Skillnote」の導入に合わせて、グローバルでのスキル基準の統一を進める
ー「Skillnote」導入にあたってのプロセスを教えてください。
武田:2021年9月に「Skillnote」を契約後、国内拠点のサービスエンジニア約200名を対象にトライアル運用を開始しました。 国内拠点については、スキルのレベル基準は統一されているものの、管理するフォーマットがバラバラな状態だったため、データを集めた後に多少の混乱がありました。 それもSkillnoteスタッフのサポートがあり、半年で統一フォーマットを定め、管理体制を整備できました。
それから1年半ほど運用した段階で、当初の目的であるグローバル導入に向けて動き出しました。先のとおり、現地法人とはスキルレベルの基準からしてバラバラだったため、協議とすり合わせに十分な時間をかけました。
黒﨑:現地法人からは「製品ごとにスキルレベルの認定試験を作ってほしい」という声も上がりましたが、 先ほどお話ししたサービスエンジニアによる作業が必要な約500種類の製品一つひとつにレベル評価の認定試験を設けるのは現実的ではありません。 結論としては、それらを大きく5つの製品群に分け、メンテナンスを含むキャリブレーションで12種類、 それ以外の操作説明と合わせて計18種類にまで集約し、スキルの認定試験を作成しました。 また、段階的なレベル評価をやめてスケジューラが最も知りたいサービスエンジニアの作業可否を明確化するとともに、管理が煩雑になることによる形骸化を防ぐため、「できる」「できない」の2段階の基準にまとめました。
個々の製品のスキルに関しては従来の現地法人の上長による承認に加え、今回作成したスキル認定試験に合格した者だけが作業を行えるようにしました。それらを「Skillnote」で管理します。
2024年の4月から5月にかけて、全ての現地法人の技術責任者と主任クラスを日本に集め、作成したスキル認定試験の実施方法についてトレーニングを実施するとともに、各現地法人でどのようにすればこの試験制度を継続できるかを討議しました。 現在は、2025年1月の全社本格運用を目標に、現地法人でもトライアル運用を進めている最中です。
スキルデータの「見える化」と活用で、ソリューションプロバイダへ
ーグローバルでの本格運用に向けての課題や、今後計画している活用方法を教えてください。
橋本:「Skillnote」がスキル管理のグループ共通のシステムとして各拠点で受け入れられてスキルレベルが標準化でき、スキル情報が一元管理というかたちで「見える化」できた意義は大きいと考えています。
これにより、現地法人のスキル教育に本部がコミットできますし、スキルの成長性や取得率を責任者の評価指標とすることもできます。 また、本部による新製品の投入や販売戦略に合わせて、その製品に対応できるサービスエンジニアが不足する拠点があれば、ピンポイントでトレーニングプログラムを提供することができます。 「Skillnote」の導入をきっかけに現地法人とのコミュニケーション機会が増え、グローバルにアクションを起こす地盤ができたと感じています。
武田:スキルデータを蓄積する基盤ができたことで、それを活用するアイデアも次々に生まれていくと思います。 実際に、各部長職や企画部などから「『Skillnote』のデータを使いたい」という声も出始めている他、人材活用に関するワーキンググループが独自に 「Skillnote」のデータを基にして、サービスエンジニアの適材適所を実現する施策を検討しています。
黒崎:近い将来における目標は、「オートスケジューラ」の実装です。 「Skillnote」に登録したサービスエンジニアのスキルデータと、外部のスケジューリングシステムを連携させることで、お客様のメンテナンスやキャリブレーションの要望に対して自動で対応可能な人選を行い、業務スケジュール作成を自動化できます。これが実現すれば、スケジューリングにかかる人的・時間的コストの大幅な縮小が可能です。
さらに発展させれば、お客様がサービスエンジニアの空き状況を見てメンテナンスやキャリブレーション等の依頼をする「ブッキングシステム」を開設することもできるでしょう。 お客様は当社の対応可能日を聞き出す手間が省け、先々まで定期メンテナンスの予約を取ることができます。こうした利便性を向上させる仕組みを構築することも、ソリューションプロバイダを目指す当社のサービス向上につながるはずだと考えています。
- 社名
- 株式会社ミツトヨ
- 業種
- 精密測定機器メーカー
- 従業員数
- 3,147名(単独)/5,557名(連結)
- 企業URL
- https://www.mitutoyo.co.jp/
- 利用用途
-
スキルと教育の一元化
サービス品質の向上
人的資源の最適化