ナレッジ
2024.9.5
ISO45001は、労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格です。ISO45001の認証取得には、職場環境の改善をはじめ、さまざまなメリットがあります。
この記事では、ISO45001の概要や認証取得によるメリットとデメリット、要求事項、認証取得の流れなどを紹介します。
ISO45001は、国際的な標準規格を発行する組織であるISOによって発行された「労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格」です。
近年、労働力人口の減少や働き方の多様化により、人手不足が深刻化しています。人材を確保するためにも、労働環境の改善や労働者の安全性の確保に取り組む企業が増えています。
関連記事:ISO(国際標準化機構)とは? 概要やJISとの違い、マネジメント規格の種類、認証取得の流れを分かりやすく解説
労働安全衛生の国際規格であるISO45001を取得する代表的な目的は、「安全で健康的な職場の提供」をアピールすることです。
また、労働災害や疫病の防止、労働安全衛生のパフォーマンス向上などもISO45001を取得する目的に挙げられます。
ISO45001の認証取得は、従業員の満足度向上や顧客からの信頼獲得、競争力の強化などにつながります。
労働安全衛生マネジメント(OSHMS)は、「Occupational Safety and Health Management System」の頭文字を取った用語です。ISO45001の前身とも言えます。
厚生労働省の「職場あんぜんサイト」において、OHSMSは、以下のように記載されています。
OHSMSは、事業者が労働者の協力の下に「計画(Plan)-実施(Do)-評価(Check)-改善(Act)」(「PDCAサイクル」といわれます)という一連の過程を定めて、継続的な安全衛生管理を自主的に進めることにより、労働災害の防止と労働者の健康増進、さらに進んで快適な職場環境を形成し、事業場の安全衛生水準の向上を図ることを目的とした安全衛生管理の仕組みです。
出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
2018年に発行されたISO45001は、比較的新しいISO規格です。とはいえ、労働安全衛生に関する議論はISO45001の発行以前の、1990年代には始まっていました。
1990年代の検討当初は、「将来的には必要になるが現時点では規格として設定するほど重要ではない」という判断から、規格化が見送られていました。労働安全衛生に関するニーズが高まったのは、1996年にイギリスで労働安全衛生に関する規格であるBS8800が発行されたことがきっかけです。
その後、1999年に公開されたOHSAS18001をガイドラインとして、世界中の多くの国で労働安全衛生マネジメントシステムに関する認証制度が誕生しました。
労働安全衛生に対するニーズの高まりを受けて、ISOは2013年からISO45001の策定に向けた検討を始め、2018年にISO45001が発行しました。
ISO45001を認証取得することで、以下のメリットが期待できます。
ISO45001の認証取得に必要な労働安全衛生マネジメントシステムは、労働安全衛生に関する管理体制を構築できるシステムです。汎用的な管理体制を構築することで、企業は問題点を見つけやすくなるため、自社に適した対策を進められます。
労働安全衛生に関する業務は多岐にわたり、複数の部署が関わることも珍しくありません。そのため、部署間における業務の重複や業務プロセスの非効率化といった課題が生じやすくなります。
労働安全衛生マネジメントシステムを構築する過程で、業務配置や責任分担、業務プロセスを可視化できます。
これにより、重複業務の解消や業務プロセスの効率化が期待でき、労働安全衛生に関するコストを削減できます。
少子高齢化が深刻化する現在、多くの企業が人材獲得に苦戦しています。また、売り手市場であることから、求職者は「その企業が就職するのにふさわしい企業かどうか」を厳しく判断しています。
業務内容や休暇・給与などの待遇はもちろん、労働安全衛生に配慮された働きやすい職場であることも、求職者が就職先を選ぶ重要な判断材料です。そのため、ISO45001の認証取得は、求職者に対して自社を「働きやすい職場」としてアピールできます。
また、労働安全衛生への配慮は、業務上の負傷・疾病等による従業員の休職の低減に加えて、離職率の低下にもつながります。離職率は求職者も確認する指標のため、低い離職率は、採用に良い影響を与えます。
関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策
ISO45001による労働安全衛生マネジメントシステムの構築によって、職場の安全性や働きやすさを確保し、職場環境の改善を実現できます。
快適な職場で働けるかどうかは、仕事をする上で重要な要素であり、従業員の満足度向上や業務の効率化にも寄与します。
「業務や製品に関連するISO認証を取得していること」を取引先選定の判断基準にしている企業もあります。その意味で、ISO45001の認証取得は、競合他社との差別化を促すものです。
また、SDGsの目標である持続可能な社会を実現するには、安心して働ける職場環境の構築が必須です。経済産業省では優先8分野の一部に、以下の①②を掲げています。
①あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現 ②健康長寿の達成
出典:経済産業省「SDGs」
これらを実現するためにも、労働安全衛生マネジメントシステムの構築は効果的です。
ISO45001の認証取得には、以下のデメリットがあることも考慮しましょう。
ISO45001の認証を取得する際には、さまざまな費用がかかります。
これら想定されるコストと、ISO45001の認証取得することで得られるメリットを天秤にかけた上で、認証取得するかどうかを検討しましょう。
ISO45001の認証取得には、ISO45001に準拠した労働安全衛生マネジメントシステムの構築が必要です。決められた申請プロセスに沿った文書の準備や申請対応を行わなくてはいけません。
これまでの業務プロセスを変更することで、現場従業員からの反発も想定されます。新たな文書やマニュアルなどの作成には多くの時間を要し、また申請へ向けた文書の準備・審査対応と担当する従業員には大きな負担がかかります。
担当者に適宜ヒアリングして、必要に応じて業務負担の軽減などの対応も積極的に行いましょう。
関連記事:ISO審査とは? 審査の種類、準備、流れについて解説
ISO45001には、以下の要求事項が記載されています。
1.適用範囲
2.引用規格
3.用語及び定義
4.組織の状況
4.1組織及びその状況の理解
4.2働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解
4.3労働安全衛生マネジメントシステム適用範囲の決定
4.4労働安全衛生マネジメントシステム
5.リーダーシップ及び働く人の参加
5.1リーダーシップ及びコミットメント
5.2労働安全衛生方針
5.3組織の役割,責任及び権限
5.4働く人の協議及び参加
6.計画
6.1リスク及び機会への取組み
6.2労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定
7.支援
7.1資源
7.2力量
7.3認識
7.4コミュニケーション
7.5文書化した情報
8.運用
8.1運用の計画及び管理
8.2緊急事態への準備及び対応
9.パフォーマンス評価
9.1モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価
9.2内部監査
9.3マネジメントレビュー
10.改善
10.1一般
10.2インシデント,不適合及び是正処置
10.3継続的改善
関連記事:ISO45001における「力量」の要求事項とは?|スキル体系、評価基準、スキルの棚卸など
ISO45001の要求事項で、重要なポイントは以下です。
ISO45001における労働安全衛生マネジメントシステムの構築には、トップマネジメントの主導が重要です。
とくに、業務プロセスやルールを従来のものから変更したり、新たに定義したりする場合には、現場からの反発も予想されます。反発が生じた場合には、トップマネジメントが自ら柔軟に調整しましょう。
労働安全衛生マネジメントシステムの構築に際して、複数の部署が協力して取り組まなければならない場面も多くあります。トップマネジメントが主導して、部署間の調整がスムーズに進むように心がけましょう。
ISO45001に特徴的な要求事項として、「働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解」があります。ここで言う「働く人」とは、自社に所属する従業員だけではなく、請負業者やボランティアなど、自社に関わって働く全ての人を指します。
職場の労働安全衛生を維持・改善するためには、働く人が活動に積極的に参加して、それぞれのニーズや期待を示すことが重要です。積極参加を促すためにも、ISO45001の認証取得に取り組む目的やメリットを周知して、理解を深めましょう。
ISO45001では、PDCAサイクルを回して、継続的な改善を目指します。
PDCAのなかでも、とくに「チェック(C)」と「アクション(A)」をおろそかにしないことを意識して、ISO45001を形骸化させないように運用しましょう。
ISO45001を認証取得する流れは以下です。
まずは、要求事項の全体概要や、審査に向けた対応事項を把握します。
次に、要求事項を満たすために実施すべき取り組みを明らかにして、スケジュールを立てて、取得計画を策定します。
「活動を誰が主導して進めるのか」「年度ごとの目標」などを決定して、具体的な計画を立案しましょう。
計画を実行に移します。事業所や作業現場における危険事項の洗い出しや、洗い出した項目に対するリスク評価、法令・要求事項の把握・評価などを行います。
対象業務におけるマニュアル・管理帳票の作成、承認プロセスの整備などを済ませて、具体的な運用に移行します。
関連記事:製造業にとって効果的なマニュアル作成とは? 作成の手順とポイントを解説
労働安全衛生マネジメントシステムの運用開始後、一定の期間が経過したら、内部監査によってこれまでの取り組みを評価し、評価結果に基づいた改善を行います。改善が進んだら、ISO45001審査員による第一段階審査、第二段階審査を受けましょう。
審査で不備が指摘された場合には、指摘箇所を修正・改善します。
認証取得後も、維持審査や更新審査があります。マネジメントシステムが形骸化していないかを確認する内部監査は、定期的に行いましょう。
「Skillnote」でISO力量管理業務を圧倒的に効率化!
●バラバラだったスキルや教育訓練記録をシステムで一元管理
●ペーパーレス化の実現によって共有もラクラク
●スキルと教育が紐づいて運用の手間がなくなる
ナレッジ
2024.4.24
ナレッジ
2024.6.5
ナレッジ
2024.8.6
ナレッジ
2024.4.24
ナレッジ
2024.4.18
ナレッジ
2024.7.5