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2024.4.24
製造業を中心に、さまざまな業界で人材不足の課題が顕在化しています。少子高齢化が加速していく日本では、人手不足は今後さらに深刻な課題となることが予想されており、中長期的な解決が必要です。
人材不足を解消する効果的な取り組みの一つとして、省人化が注目を集めています。この記事では、省人化の概要や目的、具体的な実現方法と実践する際の注意点を解説します。
省人化とは、「業務上必要となる作業を、できる限り少ない人数で実現できるようにすること」です。
例えば、従来は5人の従業員で丸1日かけて行っていた作業を、何らかの対策を立てたことで、4人で対応できるようになれば、省人化に成功したと言えます。
省人化の類似の用語として、「省力化」や「少人化」があります。下記ではこれらの用語についても、その意味を紹介します。
企業によっては、まとめて一つのこととして理解していたり、意味を入れ替えて理解していたりしている場合もあるため、注意が必要です。
省力化とは、省人化を実現するために必要なプロセスのひとつのこと。つまり、「ある作業を、従来よりも少ない作業時間で実現できるようにすること」を意味します。
例えば、従来は3人の従業員がそれぞれ8時間ずつ、合計24時間かけて行っていた作業が、3人で7時間ずつ、合計21時間の作業量で完了できるようになれば、省力化に成功したと言えます。
省力化を実現するためには、対象業務のプロセスを明確にして無駄な作業を省くことが重要です。そのうえで、効率の良い作業プロセスを再定義しましょう。また、作業者の作業スキルを向上させることも大切です。
少人化は、「省人化」の発展版と考えられることも多く、「しょうにんか」と読みます。
「業務量が大きく変動する複数の作業を行う際に必要な人数の合計を、可能な限り少なくすること」を意味しています。
例として、AとBの2つの業務がある状況を考えてみましょう。このとき、AとBの各担当者が片一方の業務しかできなければ、たとえ業務量が変動しても互いの業務を助け合うことはできません。その結果、繁忙期には多くの人員が必要になってしまいます。
そこで少人化では、業務内容を分解し、分担できる仕組みを構築したり、多能工化を推進したりすることで、現状よりも少ない人員でも助け合える状況を実現できるように努めます。
その結果、業務量が変動した場合でも業務を行う人員を増やしすぎることなく、対応できるようになります。
省人化を進める最大の目的は、人手不足の解消ですが、省人化の取り組みは人手不足以外のさまざまな目的を実現することが可能です。
省人化の目的で代表的なものは、人手不足の解消です。多くの企業では、必要な業務をできる限り少ない人員で実現できるように、省人化に取り組んでいます。
省人化が必要な状況とは、従業員が大きな負荷を抱えながら働いている状態です。不満を抱えながらも、業務をこなしている従業員も少なくないでしょう。その状態が続けば、休職や退職が増えてしまう恐れもあります。
省人化によって人手不足の解消をすることで、従業員の働き甲斐や満足度向上にもつながります。
関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策
省人化は、人件費の抑制や限られた人員で成果を創出することにもつながります。
従来よりも少ない人員で必要な業務を完了できれば、その分、人件費を浮かせることが可能です。減らすことのできた人的リソースを新たな取り組みに充てることで成果創出につながります。省人化は企業の利益向上にも貢献する取り組みと言えるでしょう。
省人化では、より少ない労力で業務を完遂させるために、さまざまな工夫や取り組みを行う必要があります。
省人化のプロセスにおいて蓄積されたノウハウは、類似の業務にどんどん展開・共有していきましょう。そうすることで、省人化した業務と同様に、他の業務における生産性も向上するでしょう。
近年は働き方が多様化しており、必要な人材の確保も難易度が増しています。
省人化による労働時間の削減や残業時間の低減は、働き方改革の実現につながります。また、特定の場所で行う必要がある業務を省人化できれば、製造業であっても柔軟な働き方を実現することに貢献するでしょう。
例えば、現場作業の必要のない日は在宅勤務を許可したり、部分的なフレックス制度の導入によって始業・終業時間を調整したりする制度が導入できるでしょう。
省人化による働き方改革や柔軟な働き方の実現は、人材採用の際のアピールポイントとなります。
企業が安定的に成長を続けていくためには、技術や技能を適切に継承していく必要があります。しかし、技術・技能継承は一筋縄ではいかない、難しい取り組みです。
省人化の過程でロボットの活用や標準化を進めれば、熟練の技術に依存することなく業務を行うことができます。その結果、技術・技能伝承にかかわる課題は生じにくくなるでしょう。
関連記事:技術伝承とは? 暗黙知と形式知、技能伝承との違い、行わない場合のリスクと成功させるコツ
省人化を実現するためには、以下のような取り組みが効果的です。
省人化を実現するために最初に取り組むべきことは、省人化したい業務の現状分析です。
既存業務ではどのような作業を行っているのか分解し、それぞれの作業がどのような目的で、どのような順番で行われているかをわかりやすく整理します。
整理した情報の中から、成果につながらない作業や無駄の多い業務を抽出し、作業の洗い出しと見直しを行います。
特定の業務を効率よく、誰でも行えるようにするためには、業務の標準化や文書化が必要です。
業務の標準化・文書化を進めるためには、作業手順や取り組む際のポイントなどを抽出し、それをマニュアルや作業標準資料などの文書にまとめておくと良いでしょう。
標準化や文書化は、成果がわかりにくく、評価されにくい業務です。しかし、これを適切に行うことで確実に業務の効率化や生産性の向上につながります。そのため、重点的に取り組み、適切に評価する体制を整えましょう。
関連記事:業務標準化とは?業務標準化のメリットと進める手順を解説
省人化を実現するためには、生産ラインにおける配置や業務分担の見直しも効果的です。この見直しは、個々の業務整理及び、省人化への各種取り組みを行った後に検討するといいでしょう。
省人化の過程で業務内容の整理と再構成ができれば、どの作業者がどの業務を効率的に行えるかが明瞭になります。効率的な作業者と業務の組み合わせ実現し、無理なく作業を進めていける作業分担を実現させましょう。
生産ラインの場合には、省人化によって作業ごとのタクトタイムが変わっている可能性もあります。最新の情報に基づいて業務配置・組み合わせを検討することで、効果を最大化できるでしょう。
省人化の取り組みにおいて多くの企業で導入されているのが、ロボットやIoTなどの新しい技術です。
ロボット導入が大きな成果生むのは、単純作業や多大な力が必要な業務です。このような業務では、人が行うよりもロボットに任せた方が効率的に行える傾向にあります。
また、IoTやAI技術を導入することで、従来必要だった作業を省略したり、現場作業以外の事務作業やデータ処理を効率化したりすることにもつながります。
関連記事:スマートファクトリーとは? 意味や目的、メリットを解説
省力化の実現に向けては、新たな設備の導入や仕組みの改善だけでなく、従業員それぞれのスキルを向上させることも効果的です。特に、省人化を少人化に発展させるには、多能工の育成が必要となります。
多能工を育成するのは簡単ではなく、時間がかかります。しかし、あらかじめ取得すべきスキルや資格に関するノウハウを標準化・文書化できていれば、多能工育成に必要な時間を短縮できるでしょう。
無理に多能工化を目指すのではなく、省人化の活動全体を参考にしながら多能工化に向いた業務を洗い出し、検討していくと良いでしょう。
関連記事:多能工とは?製造業における多能工化のメリットや取組み事例をご紹介
省人化には大きな成果をもたらす可能性がありますが、取り組み方次第では悪い面も出てしまいます。以下のような注意点を踏まえて取り組むことが重要です。
これまで紹介してきたような省人化に向けた取り組みを行うためには、通常業務以外の人的コストや設備導入コストが必要となります。
人的コストには、現状業務の分析や整理、標準化や文書化、また教育に関する工数(コスト)が含まれます。
また、設備導入コストとしては、ロボットやIoTに関する設備、業務配置やラインの変更に伴うコストなどがあります。
必要な人的・設備導入コストに対して、得られる効果が十分でないケースもあります。そのような場合には、「取り組むべきでない」と冷静に判断することも重要です。
なお、省人化の効果を検討する際には、省人化の過程全体で得られるノウハウの活用によって見込まれる効果も考慮すると良いでしょう。
省人化を実現するための取り組みの多くは、現場従業員への影響が大きいものです。たとえ想定されるメリットが多くても、省人化を優先して従業員が働きにくくなっては本末転倒と言えます。そのため、現場とは密にコミュニケーションを取りながら進める必要があります。
特に業務プロセスの変更や配置換えは、現場からの反発が生じやすい取組みと言えます。そのため、できるだけ早い段階から現場と情報を共有し、うまく現場の意見を取り入れながら進めて、現場の理解や納得を得られるように努めましょう。
期待を込めて開始した新たな取り組みは、早く効果が出ることを期待してしまいます。しかし、目に見える効果を急いでしまっては、失敗するリスクが高まります。これは、省人化の取り組みも同様です。
省人化の取り組みは、大きな成果を十分に期待できるものです。しかし、通常業務を行いながら慎重に進めていくものであるという性質上、すぐに効果が得られるものではありません。
成果を焦った結果、成果を得られる前に取り組み自体をやめてしまっては、成果を得られないばかりか、省人化にかけた時間も無駄になってしまいます。
目に見える成果が出るまでには時間がかかることを理解し、中長期的な視点でゆとりを持って進めていくと良いでしょう。
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