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2024.6.18
日本製の製品は高い品質を有していることから、世界的に知名度が高く人気があります。しかし、近年ではそのイメージを覆してしまいかねないほど、さまざまなジャンルの製品でリコールが多く発生しています。
このような状況を改善するために、品質を高めるための手法の1つであるタグチメソッド(品質工学)に注目が集まっています。また、多くの製造業企業がタグチメソッドに注目し、実際に導入を進めています。
この記事では、タグチメソッドの概要や具体的な手法、導入するメリットや流れについて解説します。
タグチメソッドの由来や概要についてご紹介します。
タグチメソッドは、故・田口玄一博士が考案した工学手法で、「品質工学」とも呼ばれます。
田口博士は品質管理や統計に関するさまざまな功績を残しており、それらの功績は1940年代〜1960年代にかけての「実験計画法」と、1970年代から2000年代にかけての「タグチメソッド」の大きく2つに分けられます。
田口博士は、1980年代にアメリカ合衆国における技術開発に大きく貢献し、「アメリカを蘇らせた男」と呼ばれました。国内ではトヨタ自動車株式会社や株式会社デンソーなどの指導を行い、大きな実績を残しています。
海外では、1940年代から2000年代のすべての功績をタグチメソッドとして扱う傾向もありますが、これは田口博士自身が否定しており、正確ではありません。本記事では1970年代から2000年代にかけての田口博士の功績をタグチメソッドとして扱います。
タグチメソッドとは、特定の手法のみを表す用語ではありません。品質管理に貢献する複数の手法を複合して、タグチメソッドと呼んでいます。
具体的には、ロバスト設計(パラメータ設計)、MTシステム、ソフトウェアテスト、オンライン品質工学などが挙げられます。
製品ばらつきの要因となるさまざまな因子に注目し、ばらつきの低減と狙い値の達成の両立を目指します。また、回避にコストがかかるばらつき要因・環境など回避できない要因を対策します。
良品に分類される製品が持つ性質、特性に注目し、高い頻度で不良品を抽出・分離します。
一般的な進め方では膨大に行う必要があるシステム試験を、効率よく実現します。
9つの損失算出法を活用することで、製品コストの最小化を実現します。
これらの手法の中でも、特に「ロバスト設計(パラメータ設計)」を指してタグチメソッドとして扱う場合があります。「タグチメソッド」という用語が品質管理に貢献する手法すべての総称のことなのか、あるいは、「ロバスト設計(パラメータ設計)」のように何か特定の手法のみを示しているのかは、共通認識を持って理解しておく必要があります。
関連記事:品質保証と品質管理の違いとは? 仕事内容、連携、スキルアップ方法について解説
製造業においてタグチメソッドは、以下の理由から注目を集めています。
製造工程で行われている検査などの品質管理、品質の作り込みが優れていることが、日本製の製品が安定して高い品質を維持できている理由の1つです。
しかし、品質を管理するために万全な検査を継続的に行っていても、市場で不具合が生じてリコールが発生する場合があります。実際に、検査は問題なく行われていたとしても、リコールが生まれる状況に陥っています。
また、新たに開発する製品には高い品質が求められるものです。小型化や高性能化などさらなる性能向上も求められます。求められる技術と品質が、高レベル化かつ広範囲化することで、従来の品質管理手法では対応しきれないケースが当然出てきます。
これらの理由から、従来のように製造工程における品質管理を厳しくするだけでは、リコールや不具合の解消にはつながらなくなってきています。
タグチメソッドでは、製造工程における品質だけではなく、出荷後の市場における品質も重要視します。
市場における品質を高めるためには、製造時の作業精度を高めたり、出荷する製品が品質基準に合致しているかどうかを検査したりするだけでは不十分だと言えます。製造工程における生産技術や設計開発に関わる技術も、品質管理の対象として考える必要があるのです。
タグチメソッドで特徴的なのが、出荷する製品の品質の安定性(ロバスト性/「まったく品質にばらつきのない理想状態(にどの程度近いか)」)を定量化して尺度として用いる点です。
これは、仮に製品の品質にばらつきがあったときに、そのばらつきがあらかじめ設定しておいたばらつきの規格内に収まっているかどうかを確認する製造工程を対象とする従来型の品質管理の考え方とは大きく異なるものです。
タグチメソッドが提唱する品質の安定性(ロバスト性)を実現するためには、上流工程である設計開発の段階から品質を念頭に置いて製品開発を進めることが大切になります。このようなことから、タグチメソッドは設計開発段階における「技術」も管理対象としていると言えるのです。
タグチメソッドでは、品質を高めるための「技術」も鑑みたうえで製造工程における品質基準が定められます。そのため、製造工程において定められた品質基準が守られるように作業を進めれば、出荷後の品質不良のリスクも大きく低減できます。
タグチメソッドの最大の目的は、「市場で発生しうる製品の不具合を設計段階で防ぐこと」にあります。
もし、設計段階で不具合が生じていたのなら、いくら製造工程で厳しい出荷検査を行っていても、リコールにつながるような重大な不具合は防げません。
製品が使われる環境やユーザーの使い方の変化など、リコールへとつながる不具合へとつながる要素はさまざまな観点から検討することができます。そして、これらの懸念要素を排除するために、タグチメソッドでは複数の手法を組み合わせて設計品質を高めているのです。
タグチメソッドでは、製品の設計開発に用いる技術だけではなく、技術を扱う人材の育成や組織の変革なども管理の対象にします。さまざまな観点で「設計品質」を向上させることで、設計段階から市場で発生する製品の不具合を未然に防ぐのです。
ここでは、タグチメソッドで中心となる手法「パラメータ設計(ロバスト設計)」について、覚えておくべき用語や設計を進める際の流れをご紹介します。
タグチメソッドのパラメータ設計では、以下の3つの因子を用います。
誤差因子において、ユーザーが製品を使用する環境や使われ方を限定することは困難です。仮に、誤差因子が大きくばらついたとしても、信号因子に対して狙った出力を得られるように制御因子を調整することで、誤差因子の影響を受けにくい安定的(ロバスト)な設計が可能となります。
「SN比」は、安定性を表す指標です。Sは「Signal」、Nは「Noise」の頭文字です。SN比が大きいほど、ばらつきが小さく安定しています。
「感度」は、システムに対する入力値と出力値の関係を示す際に、入力値がどの程度出力値に対して影響を与えているかを表す用語です。
SN比や感度の計算式は、動特性か静特性か、また、どのような出力値が望ましいか(望目特性、望小特性、望大特性など)によって異なるため、使い分ける必要があります。
SN比を算出する際には、扱うシステムを「動特性」と「静特性」のいずれかに分類します。
最初に紹介した3つの因子のうち、誤差因子と制御因子は静特性と動特性の双方に対して用いられます。一方で、信号因子は静特性にはなく、動特性にのみ存在します。
さまざまな因子の条件でSN比を算出する出力値を正しく求めるためには、扱うシステムが動特性か静特性のどちらなのかを分類し、その特性に応じた計算式と因子を用いる必要があります。
複数の制御因子が出力値に影響するようなシステムにおいて、制御因子のすべての組み合わせを確認(実験)することは、現実的ではありません。膨大な時間とコストがかかってしまいます。
直交表は、膨大なサンプリングを行うことなく、最小限のサンプリングで必要とする結果を得るために用いられます。システムに影響するすべての制御因子に対して、各制御因子の水準を振った組み合わせで同回数ずつ実験を行います。
直交表をバランスよく構築することができれば、時間やコストを抑えながら、各因子がシステムに対してどのような影響を与えるのかを確認できます。
田口博士は、誰もがタグチメソッドにおけるパラメータ設計を進められるように、テンプレート化を行いました。特に動特性のパラメータ設計は、以下の流れで進められます。
上記の流れにおいて、4番目の手順で直交表を用います。また、6番目から8番目の手順では、要因効果図やデータ構造モデルなどの実験計画法を活用します。この流れに沿うことでパラメータ設計は進められます。
タグチメソッドを導入することで、以下のようなメリットが得られます。
タグチメソッドでは、設計開発の段階でさまざまな環境で使用した場合を考慮した理想状態(ばらつきがまったくない状態)を追及することで、環境変化に対しても安定的(ロバスト)な製品の設計が可能です。
これまでも行われてきた従来の品質管理(製造工程における厳しい検査など)と、タグチメソッドを組み合わせることで、より高い品質の製品を市場に送り出すことができます。製造工程の検査だけでは防げなかった市場での不具合を減らすことができれば、クレームの大幅な低減にもつながります。
また、高い品質を維持することで市場での製品の評判が向上すれば、「ブランド」を確立することにもつながるでしょう。
設計段階から安定的(ロバスト)な設計を行えれば、市場での不具合品を減らして製品回収の費用や補償費用を低減できます。もちろんコスト削減にもつながります。
不具合が生じると製品の回収や代替品の用意が必要となります。また、リコールに至るような状況では、さまざまな補償費用が必要となるでしょう。
さらに、不具合によりブランド価値が低下すると、価格競争に巻き込まれたり、販売促進のためにキャンペーンを打ったりと、販売コストが増加してしまいます。
高い品質を維持してブランド力を担保できれば、これらの不具合に伴う費用を大きく低減できます。
設計段階で高い品質を保つために、タグチメソッドにおける直交表などのツールを使わずに、総当たりで確認することもできます。
しかし、複雑な製品になるほど影響を与える制御因子が増え、制御因子が増えれば増えるほど評価すべき組み合わせの数も増加します。すべての組み合わせで結果を確認するための評価を行っていては、開発期間が大幅に長引いてしまいます。
タグチメソッドを導入してサンプリング対象を用いることで、短い開発期間でも必要な品質確認を進めることができるようになります。高い品質を確保しながらも開発期間を大幅に短縮できる可能性があります。
また、不具合を減らすことで発生した不具合への対応に設計者の工数を割かれずに済みます。その結果、その分の工数を製品開発にあてることができ、開発期間の短縮へとつなげられます。
関連記事:QCDSとは? QCDSの意味と各項目の詳細、改善方法について解説
あらためて、タグチメソッドと従来の品質管理の手法の違いについて整理します。
タグチメソッドは、主にパラメータ設計やそれに伴うSN比、直交表などを中心とした手法のことです。設計開発段階を対象として、市場品質の向上を目指します。
一方で、品質管理は、なぜなぜ分析やQC7つ道具などを用い、製造品質を確保するために行います。製造部門を対象として、製造段階での品質向上を目指します。
タグチメソッドと従来の品質管理のどちらが優れているかと問うことにあまり意味はありません。双方をうまく組み合わせて高い市場品質を実現することが大切です。
関連記事:QCサークル活動とは? メリットと進め方、時代遅れと呼ばれる理由を解説
タグチメソッドと混同されやすい用語として、実験計画法があります。タグチメソッドと実験計画法の違いについても、あらためて確認しておきましょう。なお、タグチメソッドも実験計画法も、田口博士の功績によって普及した品質管理に関する手法です。
実験計画法は、統計学を用いて実験回数を減らしつつ、狙った結果を得るための「直交表」を活用する手法です。一方、タグチメソッドのパラメータ設計は、直交表を活用して製品の設計開発段階において高い品質の達成を目指します。
このことから、実験計画法は、タグチメソッドの手段・ツールの1つと考えることができます。
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