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2024.6.5
製造業では高品質の商品製造を実現するために、さまざまな種類の検査が行われています。数ある検査の中でも、製造業で採用される機会の多い検査方法のひとつに、官能検査があります。
官能検査は、製造工程における製品の出荷前の最終チェックとして品質評価を下すことはもちろん、設計・開発段階において顧客評価の想定に役立てることもできます。 一方で、感覚的な基準に重きを置く官能検査は、他の検査と比べて判断基準の設定などが難しいことが知られています。この記事では、官能検査の概要や特徴、種類に加え、メリットやデメリット、実際に官能検査を行う際の注意点などについて解説します。
官能検査とは、視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚といった人間の五感を用いて製品の品質を確認し、品質を判断する検査方法のことです。あらかじめ準備された見本や判断基準と検査対象の製品を比較して、狙い通りの品質が確保できているかどうかを判定します。
官能検査以外の製造業における検査には、寸法の測定や破壊検査など設備や機器を用いて明確に良し悪しを判断できる検査が行われます。これらの検査では、設備の導入コストが必要です。また、検査に時間がかかるため、タクトタイムを満足できないなどの課題も想定されます。
官能検査では、ほとんどの場合で特別な設備を導入する必要なく短時間で検査を行えるため、さまざまな企業で行われています。また、官能検査を単独で行うだけでなく、設備を用いた検査と組み合わせて行うことも可能です。
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官能検査において、人間の五感それぞれを用いた検査の対象として代表的なものは以下です。
官能検査は、五感による分類以外にもさまざまな観点からの分類が可能です。以下に挙げる分類は、分類の切り口によって同じ官能検査でも複数の見方がありうることを示しています。
サンプル数による官能検査の分類には、以下のような検査方法があります。
二点識別法は、差のある2つのサンプルを用意して、「甘い・苦い」「硬い・柔らかい」などの指定された特性についてサンプルを確認・判断させる試験方法のことです。二点識別法で判定する特性は目的によって任意に設定できます。例えば、先述の「甘い・苦い」「硬い・柔らかい」の他にも「音が大きい・小さい」「滑らか・粗い」などさまざまな特性があります。
三点識別法では、製品やサービスに対して3種類のサンプルを用意して試験を行います。用意する3種類のサンプルのうち2種類は同じものを用意し、残りの1種類は他の2種類と異なるサンプルを用意します。
同じはずの2種類のサンプルに差を感じないかといった確認や、検査を行う従業員が同じサンプル・違うサンプルを正しく判断できるのかなどを確認することが、三点識別法で試験を行う際の目的です。
二点識別法と同じように三点識別法によってサンプル同士を比較する場合、二点識別法よりも扱うサンプル数が多いことで高い精度の検査が実現できるとされています。
一対比較試験法は、複数のサンプルを比較する際に採用される試験方法です。複数のサンプルの中から2つのサンプルを選定し、選定したサンプルの比較を行います。それをすべてのサンプルの比較が終わるまで繰り返すという手順で行われます。
一般的に、複数のサンプルを同時に比較するような検査では検査員の負荷が大きく、検査員の集中力や疲労が検査結果に影響を与えることが課題とされています。しかし一対比較試験法では、1対1の比較を繰り返すことから比較的検査員の負荷は少なく済み、その結果検査精度向上と検査時間の短縮が期待できます。
官能試験は、以下のように分析型と嗜好型に分類することが可能です。
分析型官能検査は、比較対象とする製品の特徴や品質の差を検査員の主観ではなく客観的に評価する方法です。
分析型官能検査では、さまざまな機器を用いて行う検査と類似の役割を検査員が担うため、検査員には高い識別能力が求められます。検査の目的や検査精度によっては、専門的な教育が必要となるため属人化しがちでもあります。
分析型官能検査は製造業でも多く行われている検査方法であり、製品の出荷時や工程能力の確認時などに加えて、製品開発中の品評会などさまざまな場面で採用されています。
嗜好型官能検査は、分析型のように客観的な検査方法ではなく検査員の嗜好、好みに基づいて検査を行う方法です。
分析型官能検査では客観的に検査するため検査員に高い検査能力が必要とされますが、嗜好型の場合には個人の嗜好で判断するため特別な検査能力や専門的な教育は必要ありません。
ただし、消費者行動調査などで用いられるため、狙い通りの結果を得るためには検査の目的に応じた属性(性別、年齢、生活環境など)の検査員を選定することが重要になります。
ここまで紹介したもの以外にも、以下のような官能検査があります。
記述試験において、検査員は製品の特性や特徴をできるだけ詳細に検査員自身の言葉で文章にします。このことで製品の特性を評価します。
記述試験は、嗜好型官能検査のように主観的な要素を幅広く確認する際に用いられる検査であり、抽出される要素は検査員の感性や表現力に依存します。また、得られる結果も感覚的な表現になるため、客観的な検査を行いたい場合には向いていません。
製品開発に適用できる検査結果を得るためには、対象分野に対する専門知識や高い表現力が求められる場合があります。また、記述試験を行う場合には、検査員もその属性に関して注意して選ぶ必要があります。
等級検査は、検査結果を分類する等級をあらかじめ設定しておき、検査対象となる製品の特性がどの等級に該当するかを判断する官能検査方法です。
等級検査には主観的な要素も一部含んでいますが、検査結果の等級をあらかじめ準備しているため、検査結果は数値データとして整理することができます。数値化した検査結果は、他の官能検査や製品開発、またマーケティング活動などへの活用も期待できます。
差別検査は、製品の状態や製品が駆動した際の現象における差異・相違点などを検出するための官能検査方法です。検査を行う目的に応じた比較要素や検査条件を明確に設定し、そのうえで検査対象の製品や現象にどのような差が生じるのかを統計的に分析します。
統計的に分析した検査結果はデータ化し、そのデータの分布や関連性を分析することでどの製品に統計的な優位性があるのかを確認できます。一方で、検査条件の設定やデータ分析時の統計的な手法の選択が難しく、専門家のアドバイスや高い専門知識が必要な試験方法であると言えます。
官能検査を行うことで、以下のようなメリットが期待できます。
破壊検査や非破壊検査などの製造業で行われる検査の多くは、検査目的に合わせた検査設備や工具、治具などが必要であり、検査を行うための初期投資が必要です。官能検査では、これらの設備や工具が必要ないため、短期間でコストを抑えた検査ができる点がメリットです。
ただし、検査の目的や選択する手法次第では、官能検査でも検査員の新規採用や時間をかけた教育が必要となるため、目的に合わせた手法を選択する必要があります。
官能検査の中には、嗜好型官能検査や記述検査などのように検査員の主観によって製品やサービスの特徴を判断する検査方法があります。これらの検査は、製品やサービスに関する調査や開発において重要な材料となる顧客からの評価に近い情報を得られます。
一方で、製品やサービスのターゲットではない属性の検査員を選定してしまうと、本来の狙いとは異なる結果が生じてしまうリスクがあるため、注意が必要です。
人間の五感で評価される特性は数値で表現することが難しく、客観的な情報として扱うのは困難です。官能検査の中でも一対比較試験法や等級検査では、検査結果を数値情報として扱えるように整理するため客観的な情報として扱いやすくなります。
検査設備などに用いられる技術の進化や測定精度の向上により、官能要素の数値化は少しずつできるようになっています。しかし、設備導入によるコストや表現範囲の広さなどを考慮すると、いまだ多くのケースで新たな設備を導入するよりも官能検査を実施する方が優位と言えるでしょう。
官能検査には以下のようなデメリットがあります。あらかじめ把握しておきましょう。
官能検査は、主観的な検査でも分析的な検査でも属人性が高い検査です。
主観的な結果を得る検査は、検査員の判断基準が人によって異なることから、結果の再現性を確保することは難しいでしょう。また、分析的な検査の場合には、検査対象に関する専門知識や高い判別精度が必要であり、誰でも検査員をできるわけではありません。
官能検査で用いられる人間の五感は、同じ検査員が同じ検査対象を検査していたとしても、検査タイミングや検査環境が異なれば安定した結果を出すことは困難です。
例えば、検査員の体調次第で感じ方が変わりますし、温度や湿度、場所などの外部環境の変化によっても感じ方は変わります。これらの影響を受けることを織り込んだうえで、検査の設計や検査結果の確認を行う必要があります。
官能検査における大きな課題の1つとして、検査の客観性を保つための検査基準の設定が難しいという点が挙げられます。また、一度に検査を行う際のサンプリング数が多すぎると、疲労の蓄積や集中力の低下により、検査の途中で検査員の判断基準が変わってしまう可能性がある点には注意が必要です。
あらかじめ客観的に評価しやすい評価項目を選定し、一度に検査するサンプリング数は対象となる製品や検査内容に応じて、疲労や集中力の影響を受けない数に設定することが重要です。
官能検査において狙い通りの結果を得るためには、以下のような点に注意する必要があります。
官能検査を行う際には、検査対象とする製品の見本を用意する必要があります。
製品の出来栄えを確認するような官能検査においては、検査員が製品を検査してもすぐに結果の判断ができないことがあります。そのような場合には、準備した見本と比較することで結果を判断します。
完成品の見本を準備できない場合には、検査を行う目的に応じて製品との比較が可能な見本の準備を行えば、適切な検査を行うことは可能です。
官能検査は、他の検査と比較して主観的な要素が含まれるため、検査の目的に応じた判断基準を設けておくことが重要です。また、判断基準と各検査員の感覚を合わせこむための教育が必要となる場合もあります。
特に、客観的な情報を得るために行う官能検査では、明確な判断基準を設け、検査員に十分な教育を行うことで判断基準を徹底する必要があります。
官能検査を行う際には、目的に応じて評価結果の主観性、もしくは客観性を保つために、官能検査を行う際の作業プロセスを整備することが重要です。
プロセスが明確に定義されていない状態で検査を行うと、プロセスの違いによって検査結果に影響を及ぼしてしまうリスクが生じます。例えば、検査員の属性の確認、感度の確認、表現力の確認、実施手順や表現に用いる言葉の教育などは、プロセス整備が必要な要素です。
官能検査は人間の感覚に依存するため、検査員本人もしくは外部環境の変化から影響を受けることで、検査結果が変わってしまう可能性があります。
そこで、官能検査の目的に応じて「騒音が聞こえないようにする」「検査対象以外の匂いが生じないようにする」などの環境整備を行うことが重要です。
また、単純な検査を長時間継続して行うことによる疲労や集中力の低下、また検査対象の製品を照らす照明の状態なども検査結果に影響を与えるため、継続して検査を行える時間を設定して、適切に時間管理する必要があります。
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