ナレッジ
2024.12.4
ナレッジマネジメントとは、個人に蓄積されたナレッジ(知識や技術、情報)を企業全体で共有し、生産性や業務効率を向上させていく取り組みです。言語化の難しいベテランの従業員が持つコツやノウハウを、他の従業員に共有しようとする際に効果を発揮します。
この記事では、ナレッジマネジメントの重要性や導入の課題、SECIモデル、導入の流れや具体例を解説します。
ナレッジマネジメントとは、企業内に存在するナレッジを戦略的に管理・活用するプロセスです。個人や部門が持つ専門知識、経験、ノウハウを企業全体の資産として捉え、効果的に共有・活用して、業務効率の向上や競争力の強化を図ります。
単なる情報管理に留まらず、ナレッジを従業員同士で共有化することで新たなナレッジを創造する活動も含む包括的な取り組みです。
ナレッジマネジメントでは、まず企業内のナレッジを特定し体系化します。その上で、次にそのナレッジを効果的に共有・活用できる仕組みを構築します。具体的には、データベースの整備、社内SNSの導入、定期的な勉強会の開催などが挙げられます。
ナレッジマネジメントが注目を集める理由として、高齢化や雇用の流動化にともなう退職者や転職者の増加が挙げられます。退職にともなうナレッジの喪失や、転職者への効率的な教育が求められています。
実際、総務省統計局の2023年の調査結果によると、就業者のうち転職者(前職のある者で、過去1年間に離職を経験した者)は325万人で前年より増加、また転職等希望者は1,035万人で過去最多の人数となっています(出典:総務省統計局労働⼒⼈⼝統計室「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」)。
このように、たとえば転職してきた人材の早期戦力化ニーズを解決するためにも、ナレッジマネジメントの重要性が高まっています。
製造業ではナレッジマネジメントを導入することで、多くのメリットが得られます。
製造業では、今後、人手不足の深刻化が予想されています。「2023年版ものづくり白書」によると、2002年から2021年までの20年間で日本の総労働人口は増加しているにも関わらず、製造業においては157万人も減少しています。
少ない人数でも高い生産性を維持するための有効な施策の一つがナレッジマネジメントです。ナレッジマネジメントでは、社内のナレッジを体系化し効率的に共有して、在籍している社員の戦力強化を図り、新人の教育・育成にかかる時間を短縮できるため早期戦力化も実現します。
関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策
製造業は、各職種において広範な知識や複雑な技術が求められるため、技術・技能伝承が難しい業界です。エンジニアであれば材料や製造工程、顧客や市場の情報が必要です。製造部門でもベテラン社員の勘や経験、技術といった言語化しにくい技能伝承が求められます。
ナレッジマネジメントでは、このような技術・技能伝承の難しい情報を若手社員が学びやすい形で共有して、技術の継承をスムーズに行う効果があります。
さらに現在では、デジタルツールを活用した教育コンテンツの作成や、VR・AR技術を用いた実践的な訓練により、効率的かつ効果的な技術・技能伝承が促進されます。
関連記事:【事例アリ/成功パターン解説】技術伝承とは? 暗黙知と形式知、技能伝承との違い、行わないリスクと成功させるコツ、デジタル技術活用
過去の不具合事例や解決策、ベストプラクティス(最善の方法)を体系的に蓄積・共有することで、品質問題の再発防止や早期発見が可能になります。また、製造プロセスの各段階で得られたナレッジを他のプロセスに展開して継続的な品質改善も期待できます。
関連記事:品質管理とは? 重要性、5つの基本的な考え方、業務内容、基本的な5つの手法、TQC・TQM・SQCについて解説
ナレッジマネジメントは、製造業におけるイノベーションを促進します。異なる部門や専門分野の知識を融合させて、新たな発想や技術の誕生が期待できるでしょう。過去の成功事例や失敗経験を分析・活用し、効率的な研究開発や製品改良が可能です。
さらに、顧客ニーズや市場トレンドに関する情報を企業全体で共有して、市場ニーズに合致した革新的な製品やサービスの開発につながります。これにより、企業の持続的成長と競争優位性の確立が実現します。
ナレッジマネジメントを活用すれば、生産プロセスの最適化と作業効率の大幅な向上も期待できます。ベストプラクティスや改善事例の共有と他の工程への水平展開は、ムダの削減や作業時間の短縮につながります。
また、問題発生時の対応ノウハウを蓄積することで、トラブルシューティングの迅速化が図れます。
ナレッジマネジメントの導入は、人材の流動性が高まる現代において、企業力を強化する有効な手段にもなります。個人に依存しない知識基盤を構築して、社員の退職や部署異動による影響を最小限に抑えられます。
また、全社的な知識の共有により、部門間の連携が強化され、柔軟な人材配置を実行できる環境が構築できます。人材配置の自由度が高まれば、適材適所の人材活用と効果的なキャリア開発が実現し、企業全体の競争力向上につながるでしょう。
ナレッジマネジメントを効果的に行うには下記の課題を解決する必要があります。
ナレッジマネジメントを進めたくても、社員の協力なくしてはナレッジは集まりません。
ナレッジが集まらない原因として、
などの理由が挙げられます。
ナレッジを提供する側のベテラン社員は、日々の業務に追われています。マネジメント層からの継続的なメリットの説明や、提供社員へのインセンティブ、ナレッジ共有が簡単に行える仕組みの検討が必要です。
必要なナレッジにアクセスできずナレッジマネジメントがうまく機能しないという課題もしばしば発生します。この原因には、以下が考えられます。
これらの課題を解決するには、使いやすいナレッジマネジメントのシステム設計と継続的なナレッジの管理が重要です。
ナレッジマネジメントの効果を適切に評価するのは難しいため、導入や継続的な取り組みの障害となるケースも散見されます。ナレッジマネジメントの真価は長期的に発揮されることが多いため、短期的な効果が見えにくい点も活動が評価しにくい一因です。
使用者へのアンケート調査などを行い、ナレッジマネジメントの効果を多面に評価する必要があります。
ナレッジマネジメントには何種類かの「理論」があります。これらの理論を学ぶことで、ナレッジマネジメントへの理解が深まります。
ナレッジマネジメントのベースには、「形式知」と「暗黙知」の考え方があります。形式知と暗黙知の意味は以下です。
ナレッジマネジメントを効果的に進めるには、暗黙知を形式知に変換し、企業全体で共有する相互変換を促進することが重要です。これにより、個人の経験やノウハウを企業の資産として活用できます。
また、個人が形式知を得て新たな暗黙知を生み出すサイクルを促進することで、企業の知的資産を継続的に拡大できます。もちろん、暗黙知に拠るところの多い「技能」を更新に継承する「技術・技能伝承」の促進も期待できます。
関連記事:暗黙知と形式知の違いを解説。課題と実践方法をご紹介
SECIモデルは、 経営学者の野中郁次郎氏が提唱したナレッジマネジメントの基本理論で、暗黙知と形式知の相互変換を4つのプロセスで説明しています。
共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、 内面化(Internalization)の頭文字をとってSECIモデルと呼ばれています。
知識を企業全体で共有化する際に、人づてで伝えていくには限界があります。効果的に多くの人数に伝達するには、暗黙知と形式知の相互変換を進めることが非常に重要です。
SECIモデルの4つのプロセスが効果的に作用するには、それぞれが行われる場を用意する必要があります。それぞれのプロセスの意味と相当する場は以下のようになります。
共同化は暗黙知から暗黙知に変換するプロセスです。人から人へ直接体験を通じて勘や感覚を共有し、相互理解を図ります。この共同化の場としては作業者同士の共同作業やOJTなどが挙げられます。広い意味では、業務時間外の雑談なども含まれます。
表出化は暗黙知を形式知へ変換するプロセスです。作業標準書やマニュアルなどにまとめる作業、上司や同僚へ口頭や書面で報告する作業があります。この表出化のプロセスでは、しっかりと暗黙知を他人に伝わる形式知に変換できるように対話の場を設けることが重要です。対話の場としては、会議全般やマニュアルの作成、作成したマニュアルの承認や教育の場が挙げられます。
関連記事:製造業にとって効果的なマニュアル作成とは? 作成の手順とポイントを解説
連結化は形式知から形式知へ変換するプロセスです。既存の形式知を組み合わせて新たな知識を創造します。作成したマニュアルをブラッシュアップしたり、新たな方法で業務の効率化を図ったり、新たなアイデアを発見する活動が挙げられます。
内面化は形式知を再び暗黙知に変換するプロセスで、形式知として学んだ新しい業務を個人が実践して体得していく工程です。実践の場としては各個人が業務を行うあらゆる場面が該当します。
実際に作業を行ううちに新たな方法やアイデアを生み出せれば、冒頭の共同化のプロセスに戻ってナレッジのアップデートを行います。
ナレッジマネジメントを効果的に進めるには各段階に対応する「場」を適切に設定する必要があります。
関連記事:SECIモデルとは?ナレッジマネジメントへの活用と具体例
ナレッジマネジメントを効果的に実践するために、どのようなナレッジを収集するのかは非常に重要です。4つの基本的なナレッジの型がありますので、目的に応じてどの型に該当するのか見極めましょう。
ベストプラクティス共有型は、過去の優れた業務手法や成功事例を体系的に収集し、全社で共有・展開する手法です。特定の優秀な社員が持っていたナレッジや現場での改善活動を共有し、会社全体のスキル向上につなげます。
たとえば、生産ラインでの工程改善事例や販売促進の成功例をデータベース化し、他部門や他拠点でも活用して、企業全体の業務品質向上を図ります。
専門知識ネットワーク型は、企業内の専門家や有識者の知識をネットワーク化し、その専門知識を必要な部門や個人が適時活用できる仕組みです。技術開発や研究開発部門など専門知識の必要な部門で重要視されます。
「よくある質問」や「FAQ」のような形式でまとめられたナレッジや社内SNSなどを通じて専門家との連携を促進します。これにより、部門を超えた技術相談や問題解決が可能となり、イノベーションの創出にも貢献します。
顧客知識共有型は、顧客に関するナレッジを蓄積し会社全体で共有・活用する手法です。営業部門やカスタマーサポート部門で収集された顧客ニーズ、クレーム情報、過去の対応履歴、商品改善要望などを一元管理し、製品開発やサービス改善に活かします。これにより、顧客満足度の向上と市場競争力の強化を実現し、顧客との長期的な関係構築が可能となります。
知的資本集約型は、企業が保有する特許、著作権、ノウハウなどのナレッジを戦略的に管理・活用する手法です。
研究開発の成果や技術革新の知見を体系的に蓄積し、新製品開発や事業展開に活用します。また、知的財産の価値評価や活用戦略の立案を通じて、企業の無形資産を最大限に活用し、持続的な競争優位性の確立を目指します。
ナレッジマネジメント導入する際には、まず目的を明確にしましょう。企業の課題や目標を踏まえ、ナレッジマネジメントで何を達成したいのかを具体的に定義します。
目的を明確にして共有することで、経営層の理解と支援を得やすくなり企業全体にも協力を得やすくなります。目的設定の際は、短期的な成果と長期的なビジョンのバランスを考慮し、定期的な見直しも重要です。
次に、共有するべきナレッジの選定など、ナレッジマネジメントの詳細を決めましょう。決めるべき詳細としては以下が考えられます。
最初から大規模に行うのではなく、優先順位をつけて少しずつ段階を踏むスモールスタートを心がけましょう。
ナレッジマネジメントを日常業務に定着させるため、情報共有を業務プロセスに組み込みましょう。たとえば、プロジェクト終了時の振り返りミーティングや、定期的な勉強会の開催などをとおして、ナレッジの共有を促進します。
また、業務システムにナレッジベースへのリンクを設置するなど、必要な時に即座に情報にアクセスできる環境を整備します。
ナレッジマネジメントを継続的に行うためには、定期的な見直しと改善が不可欠です。アクセス数、ナレッジの提供数、ユーザー満足度などの指標を定期的に評価し、問題点や改善点がないかチェックしましょう。
定期的なワークショップやアンケートをとおして、ナレッジマネジメントの課題や成功事例を共有し、企業全体での共有も重要です。継続的な改善により最適なナレッジマネジメントシステムを構築・維持できます。
省庁でもナレッジマネジメントは活用され、国土交通省では防災対応力強化につながっています。
防災時の対応は、現場にいなければ情報が把握できない、あるいは判断が現場に任されるケースが多く、重要な情報が暗黙知として蓄積されやすい傾向がありました。そこで国土交通省では情報共有ツールを用いてナレッジの収集に努めています。
収集したナレッジを研修教材として使用する取り組みも進められています。
出典:国土交通省「防災対応力の向上に資する知の伝承について」
トヨタ自動車は、グローバルな人材育成を強化するため、LMS(Learning Management System)を全社的に導入しています。このような教育システムもナレッジマネジメントの一種です。
これまで製造現場の技能伝承では集合研修やOJTが中心でしたが、ベテラン社員の作業動画や詳細な手順書をデジタル化し、若手社員がスマートフォンやタブレットで学習できる環境を整備しました。
社員は時間や場所を問わず必要な研修コンテンツにアクセスできるようになり、技術や知識の伝承の効率化に成功しました。
株式会社小松製作所(コマツ)の法務部門では、増加した契約相談を処理するため、ナレッジマネジメントを行いました。過去のシステムに溜まっていた知見や「コマツ流の仕事の仕方」をインプットできるナレッジマネジメントシステムを導入しました。
その結果、契約検討業務(過去データの調査・収集、交渉戦略の検討、契約文言の作成)の作業時間が40%短縮できました。人員を増やすことなく、2008年年間200件だった契約相談が2020年には年間3,000件にまで増加したそうです。
参考記事:ナレッジマネジメントは法務部の「夢」 | 導入事例 | MNTSQ株式会社
近年のナレッジマネジメントでは、様々なデジタルツールが活用されています。これらのツールにより、知識の収集・整理・共有・活用が効率的に行えます。ナレッジマネジメントの導入時には、以下のようなシステムの導入もあわせて検討を行いましょう。
ナレッジマネジメントを促進する知識共有ツールはさまざまな種類があります。文書管理機能や検索機能、チャット機能などを通じて、社内のコミュニケーションと情報共有を促進します。近年は生成AIを活用した知識共有ツールもあります。
スキル管理システムは、従業員の持つスキルや知識、資格を一元管理して人材配置や教育・育成に活用するシステムです。資格・経験・専門性などの体系的なスキル管理にナレッジマネジメントを組み合わせることで、誰がどのナレッジを保有しているのかを明確にできます。
関連記事:【徹底解説】スキル管理システムとは? 導入メリットと効果、活用シーン、システムの種類について
スキルマップは、企業内の人材が持つスキルを可視化して管理するツールです。部門や職種ごとに必要なスキルを整理し、現状と目標のギャップを明確化することで、戦略的な人材育成と企業力強化を実現します。
関連記事:スキル管理とは? 目的・方法とスキルマップの活用
関連記事:スキルマップとは? 目的、メリット、作り方、トヨタの活用例、職種別の項目例を解説【エクセルテンプレートあり】
「Skillnote」でスキルベースの人材マネジメントを実現!
●スキル管理のメリット
●スキル管理がうまくいかない理由
●スキル管理を成功させる3つのポイント
ナレッジマネジメントの4つの手法は?
1. ベストプラクティス共有型
2. 専門知識ネットワーク型
3. 顧客知識共有型
4. 知的資本集約型
製造業におけるナレッジマネジメントとは?
ナレッジマネジメントとは、企業内に存在するナレッジを戦略的に管理・活用するプロセスです。個人や部門が持つ専門知識、経験、ノウハウを企業全体の資産として捉え、効果的に共有・活用して、業務効率の向上や競争力の強化を図ります。
単なる情報管理に留まらず、ナレッジを従業員同士で共有化することで新たなナレッジを創造する活動も含む包括的な取り組みです。
ナレッジマネジメントの難しさは?
ナレッジマネジメントの効果を適切に評価するのは難しいため、導入や継続的な取り組みの障害となるケースも散見されます。ナレッジマネジメントの真価は長期的に発揮されることが多いため、短期的な効果が見えにくい点も活動が評価しにくい一因です。
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