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2024.6.18
厳しい市場環境の中で企業が生き残っていくためには、当然ながら自社製品やサービスを顧客に選択してもらうことが必要です。
しかし、自社製品の品質を向上させ競争力を高めるに「自社製品と競合製品をどのように比較すればいいのか」「自社製品やサービスをどのように評価・改善すればいいのか」を正確に判断するのは、簡単なことではありません。
そこで、製品を評価する指標としてQCDSを用いる企業が多くなっています。この記事では、QCDSの概要や類似用語の紹介、QCDSの改善手法などを紹介します。
QCDSは、「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」「Servise(サービス)」の頭文字をとったものです。
製造業では、製品の競争力を維持して継続的な利益を確保するために、開発・生産活動や製品を評価する指標として「QCD」が用いられてきました。しかし、近年では、市場環境や製品形態の変化により、「QCD」に「S」を加えた「QCDS」が採用されるようになっています。下記では「QCDS」を構成する4つの要素を解説します。
「Quality(品質)」の項目は、顧客が求める品質の基準、製品やサービスの品質を表しています。
顧客に納品する製品や提供するサービスの品質には、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。例えば、設計品質、製造品質、原材料の品質、コミュニケーションの質などがそうです。
顧客から要求される品質を満たすためには、自社で品質に関する基準を設ける必要があります。その上で、設定した基準を満たすために、行うべきことを決定して実際に取り組む必要はあります。
関連記事:品質保証と品質管理の違いとは? 仕事内容、連携、スキルアップ方法について解説
「Cost(コスト)」は、製品やサービスの製造・提供に必要な原価を表しています。
原価は、「原材料費」「人件費」「光熱費」「外注費」などによって構成されており、同じ品質の製品やサービスを提供できるのであれば、できる限り低く抑えることが望ましいと言えます。
利益は、売上から原価を引くことによって算出されます。企業を存続させるためには、原価をできる限り低く抑え、大きな利益を出せる企業体質にすることが大切です。
顧客においては、調達を予定している製品にかかるコストが実際に調達するかどうかを判断するための条件としている場合もあります。顧客の要求に合った提供価格を実現するためには、原価を抑える必要があります。その意味でも「Cost(コスト)」は重要な指標のひとつつと言えます。
「Delivery(納期)」は、顧客が求める製品やサービスが提供される期日のことです。一般的には製品の納入期日を意味しますが、顧客と調整を行う際の情報伝達や支給品の支給日など、さまざまな納期を意識する必要があります。
あらかじめ合意した納期に対して遅れが発生すると、顧客の業務が遅れてしまったり、最終製品の完成が遅れたりします。最悪の場合には、契約を失注してしまう危険性もあるため、リスク管理を適切に行って計画を立て、関係者と綿密に情報共有を行う必要があります。
提示する納期が長すぎれば自社製品を選択してもらえない個ともリスクですが、短すぎる納期を提示して納品が間に合わないことも避けなくてはなりません。競合他社の実力を把握し、バランスをとった納期設定が重要です。
「Service(サービス)」は、顧客に対するサービスやサポートを意味しています。
QCDがよく使われている製造業において、「製品を売ったら終わり」というかつてよくあった状況は減ってきました。製品価値そのものだけでなく、販売以降の顧客体験価値を重視する顧客・企業が増えてきています。
顧客が製品の購入後もよりよい体験をすることは次回以降の自社製品の購入動機向上につながります。そのため現在では、販売以降の積極的なアフターサービスやソリューションの提供が重視されています。
QCDが同等だったとしても、サービス領域の品質如何によって圧倒的な差がついてしまう現在の商習慣において、サービス領域の価値はますます上がっていくでしょう。
QCDSの「S」は「サービス(Service)」であると紹介しました。しかし中には「Safety(安全・安全性)」と捉える人もいることでしょう。実際に、製造業の中にはQCDに対して「安全・安全性(Safety)」を加えている企業もあります。なお、ここで言う「安全・安全性(Safety)」には、下記の二種類があります。
ひとつ目は、従業員の安全や健康を第一優先にするという考え方です。近年は、人材不足が顕著であり、従業員にハードワークを強制する企業には人が集まらない傾向があり、「安全・安全性(Safety)」を「従業員の安全・健康」として捉える場合があります。
ふたつ目は、「提供する製品やサービスにおける安全性」です。いくら品質等が優れていてもそもそも商品・サービスの「安全性」が担保されていなければ顧客は継続して購入・利用しないでしょう。このような意味から「安全・安全性(Safety)」を「提供する製品やサービスにおける安全性」として捉えられる場合があります。
いずれの考え方も重要であることには変わりありませんので「QCDS」の「S」が「安全・安全性(Safety)」を意味しない場合でも「安全・安全性(Safety)」の確保は重視するようにしましょう。
QCDの派生語には、QCDSの他にもさまざまなものがあります。以下のまとめを参考にしてください。
品質・コスト・納期
製造業では、製品を提供するだけでなくサービスやサポートが重要視されるようになっている
業務に取り組む際には、QCDよりも安全性を優先すべきという考え方を明確にする
製造業において、突発的な変更や課題が発生した際に、いかに柔軟に対応できるか?その柔軟性を重要視する
安全性に加えて、従業員のやる気を加えたもの。いかにモチベーションを高く保てるようにするかを項目として取り入れており、経営管理の手法として活用される
安全性に加えて、作業者の安全や天候などの環境に関する項目を追加したもの。特に、建設業界など環境面を重視すべき業界で用いられる
サービスやセールスに加えて、リスクを追加したもの。事前にリスクを把握したうえで、そのリスクを避けるのか、受け入れるのかといったバランスを重視する必要がある
QCDSが「QCDS」の順序で表現されていることには大きな意味があります。先頭から優先順位が高い順に並べられているのです。
ただし、いつもこの順序に応じて画一的に対応すればいいわけではなく、状況に応じて優先順位を変更して対応することも大切です。
QCDSのうち特に「QCD」の関係はトレードオフになることが多く、あらかじめ何を優先すべきか決めておく必要があります。
例えば、高い品質を確保するためには、時間とコストをかける必要がありますし、納期を優先すると、品質が犠牲になる場合があります。また、コストを抑えることで、品質は低下してしまいます。
このようにトレードオフの関係になっているQCDの各項目はそのバランスをどう取るかによって、製品やサービスの特徴が決まります。自社の基準だけでなく、競合や市場の動向も吟味したうえで、どの項目に重きを置くかを考えると良いでしょう。
QCDSの順番は、自社の従業員に対するメッセージにもなります。QCDSの順番を入れ替えて従業員に共有することで、自社が何を優先しているかを従業員に伝えることができます。
例えば、すでに品質を確保できている場合には、品質を維持したうえでコスト削減や納期短縮に取り組むため「CDQS」などと表現できます。また、サービスを重視したい場合には、「SQDC」のように表現するといいでしょう。
Q/C/D/Sそれぞれの観点で改善を行うためには、どのように取り組めばいいのでしょうか。以下では、項目ごとに紹介します。
Qualityの改善に対しては、改善を行う際に注目すべき観点を明確にすることが優先です。特に製造業においては、QC7つ道具のひとつである「特性要因図」で用いる4Mの観点で、現状分析と最適化を行うことが望ましいでしょう。
4Mは、「Man(人)」「Machine(機械)」「Material(材料)「Method(材料)」であり、課題の明確化や問題の解消を行う際に用いられる考え方です。各観点で項目を見える化できたら、それぞれの品質基準を明確にし、基準を突破するための手段を検討していくといいでしょう。
関連記事:製造業・品質管理の4Mとは? 5M+1Mや6Mとの違い、変更管理、効果の出し方について解説
「Cost」の改善において優先すべきは、現場から離れた上流工程です。製品やサービスの設計や開発を見直すことで、現場の改善よりも大きなコスト削減を実現できます。
現場視点に囚われすぎてコスト削減に取り組むと、原材料の質低下や人員削減などによって品質や納期に悪影響を及ぼす可能性があります。十分に注意しましょう。
「Delivery」の改善には、主にふたつの考え方があります。ひとつは急な発注にも対応できる余剰在庫の確保、もうひとつは生産リードタイムの短縮です。
製品やサービスを提供する担当部門の人員を増員することでより多くの依頼に対応できるようになります。また、サービスを提供のプロセスを見直すことで、リードタイムの削減も期待できます。
また、移動時間は製品製造やサービス提供には直接結びつかない時間のため、移動距離を減らすことも重要です。移動時間の削減がどうしても難しい場合には、移動を行いながら他の作業を行うなどの対策を考えましょう。
「Service」は、顧客によって求められる内容や水準がもっとも大きく異なる領域です。
まずは、自社の顧客が「どのようなサービスをどの程度の質で求めているか」を把握する必要があります。アンケートや市場調査の結果からニーズを把握できたら、ニーズを満たすための取り組みを始めましょう。
新サービスの設計はもちろん、従業員の教育や属人化の解消といったこともサービス品質を高め、顧客満足度の向上に貢献するでしょう。
QCDSを改善するためには、以下のようなツールの活用も効果的です。
関連記事:QCサークル活動とは? メリットと進め方、時代遅れと呼ばれる理由を解説
QC7つ道具は、以下の7種類です。それぞれについて、簡単に紹介します。
事象を項目別にまとめ、出現頻度・発生確率の大きい順に並べた棒グラフと累積和を示した折れ線グラフを組み合わせた図
事象の特性と要因の関係を結んで表現した図。魚の骨のように表現されることから、フィッシュボーン図ともよばれる
棒グラフや円グラフなど、データを図形などで可視化することで、データの特徴を理解しやすくする
度数分布表をグラフ化したもの
二つの特性を縦軸と横軸に取り、特性間に関係性があるかどうかを確認するために可視化したもの
連続した測定値を時間順にプロットした折れ線グラフ。中心線と管理限界線を加え、測定値と比較を行う
データ収集時や作業時に、実行すべきことの確認に使用する表
新QC7つ道具は、以下の7種類です。それぞれについて、簡単に紹介します。
複雑な問題に関する言語データを、親和性からグループにし、問題を明確化しやすくするもの。
解決したい課題の因果関係・相互関係を図示したもの。
目的と、その目的を達成する手段を樹形図のような形式で展開するもの。
2つの要素を行と列に配置し、それぞれの関連性を表現したもの。マトリックス・ダイアグラムとも言う。
日程計画を表現するために用いる図で、矢線図などとも呼ばれる。
過程決定計画図ともよばれ、目標を達成するまでの流れをリスクを考慮しつつ可視化した図。
行列に配置した数値データを解析する手法。多変量解析に分類され、新QC7つ道具の中では唯一数値データを扱う。
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