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2024.10.10
少子高齢化の影響もあり、人手不足が慢性化しています。また、DXの推進やAI・IoT技術の発展に企業は対応を求められています。しかし、採用もまた難しさを増しており、人材採用だけで人手不足やデジタルスキルの不足・欠如に対応することは困難です。
このようなことを背景に、現在、企業が必要とするスキルを従業員に身に付けさせる「リスキリング」が注目を集めています。
この記事では、製造業におけるリスキリングの概要、リカレント教育・生涯教育との違い、目的、メリット、導入ステップ、事例を解説します。
リスキリング(Re-Skilling)とは、能力の再開発や再教育を意味します。「学び直し」とも呼ばれます。人手不足の深刻化によって、多くの企業がリスキリングに取り組んでいます。
本来、リスキリングは、対象とするスキルを限定するものではありません。しかし、近年はDX化の推進やAI・IoT技術の発展に伴い、とくに「デジタルスキル」を対象となることもあります。
リスキリングが注目されている主な理由は以下です。
リスキリングが注目される理由の一つに、AIやIoT技術の発展があります。企業には、これら新しい技術を活用することでさらなる成長が求められています。
そのため、デジタル技術に関する専門的な知識やスキル・経験を持つDX人材が必要不可欠です。しかし、DX人材は希少であり、社内に不足(もしくは欠如)していることが多く、需要が高いため採用も難しいのが現状です。
このような状況を背景に、従業員の「リスキリング」によってDX人材の育成に注力する企業が増えています。
関連記事:【解説】ITSS(ITスキル標準)とは? 7段階のレベルと11の職種、スキルマップの活用
経済産業省は、2020年に発表した「人材版伊藤レポート」、2021年に発表した「人材版伊藤レポート2.0」で、リスキリングに言及しました。
また、2022年に岸田文雄首相は、主要政策として掲げる「新しい資本主義」において「リスキリングによる能力支援」を表明し、2023年には「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(経済産業省)」を開始しています。
厳しい状況に置かれている国内企業の状況を改善して経済を活性化させるために、政府が主導して従業員のリスキリングを支援しています。
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リスキリングと混同されやすい用語に「リカレント教育」や「生涯教育」があります。
「リカレント教育」は、従業員が休職・離職して、大学やビジネススクールなどの教育機関で学び直すことです。リスキリングは業務への応用・活用を前提として学習内容を決めますが、リカレント教育の場合には、従業員が学習内容を自発的に選択します。
生涯教育は、学習内容と普段の仕事を連動させることにこだわりません。生涯教育では、豊かで充実した人生を送るために学び、チャレンジすることを重視します。スポーツや文化活動、ボランティア、趣味などが生涯教育の対象となります。生涯教育における学習対象は幅広く、学習者が主体的に学習内容を選択します。
日本の基幹産業である製造業では、リスキリングに取り組むことで以下のメリットが得られます。
経済産業省が公開している「我が国におけるIT人材の動向」によると、日本ではIT人材の大半がIT関連企業に従事する傾向にあることが分かります。つまり、製造業をはじめとするユーザー企業では慢性的にIT人材が不足している、ということです。
また、非IT人材の多くは、先端的なデジタルスキルを保有していません。そのため、IT人材が自社内にいなければ、新しい事業などで当該スキルが必要になったときに、その事業を実行できない状態に陥ります。
リスキリングによって非IT人材がデジタルスキルを獲得してIT人材化すれば、新たな事業にもスムーズに着手できます。
長い期間にわたって同一の業務に従事していると、新しいスキルを獲得する機会は生じにくくなります。それは、さまざまなスキルを身に付けて成長したいと思っている従業員にとってはモチベーションの上がりにくい環境とも言えます。
異動による配置転換が叶いにくい職場では、新しいスキルを獲得できる機会の創出は従業員のモチベーションの維持・向上のために効果的です。エンゲージメント向上と離職防止にもつながります。
人手不足の影響もあり、採用は難しさを増しています。希少価値の高いIT人材の採用であればなおさらです。
従業員のリスキリングによって企業が必要とするスキルを補完できれば、採用コストが削減できます。採用する場合と比較して教育コストを削減できるという利点もあります。
リスキリングによって得たスキルをDXに活かせられれば、生産性向上にもつながります。DXの推進による業務効率化の結果新たに生まれた時間は、ワークライフバランスの改善や新しい事業・業務のために充てられます。
リスキリングには、以下のデメリットがあります。
リスキリングを行う際には、「必要スキルの明確化」「対象人材の選定」「スキル獲得に向けた教育プログラムの構築」などを行います。予算や工数も踏まえてこれらの調整をするため、一定の手間がかかります。
また、リスキリングにかかるコストは、短期的な利益には直結しません。外部の教育プログラムを利用するとさらにコストがかかります。
リスキリングには、これらの手間やコストがかかることを事前に理解した上で取り組みましょう。
通常業務と並行して新しいスキルの獲得を奨励することは、従業員に負担を強いるものです。周囲の協力がなければ、モチベーションも維持できなくなります。リスキリングの対象となった従業員が目的とするスキルを獲得できるよう、協力体制を構築します。
リスキリングは、以下の手順で行います。
はじめに、リスキリングの目的と対象となる従業員を明確にします。また、獲得したスキルをどのように活用するのかも想定しておきます。
目的を明確にしてリスキリングを行うことで、対象となる従業員もモチベーション高くリスキリングに臨めます。そうすることで、余計な手間やコストを省くことができ、リスキリングの効果を高められます。
なお、この段階で「目標とする人物像」も設定しておきましょう。次の段階で行う現状とのギャップ分析に役立ちます。
次に、対象となる従業員が保有しているスキルを可視化して重点スキルを決定します。「目標とする人物像」と「対象従業員の保有スキル」のギャップが、リスキリングで補完を目指すスキルです。
保有スキルを可視化するためにスキルマップを活用することは効果的です。スキルをベースにした人材配置の最適化(スキルマネジメント)やリスキリングの進捗確認に活用できます。
関連記事:【エクセルテンプレートあり】スキルマップとは? 作り方、作成するメリット、手順・項目例、目的、活用方法、テンプレ
重点的に獲得すべきスキルを可視化したら、そのスキルを効率的に獲得するための教育プログラム・コンテンツを決めます。プログラム・コンテンツを考える際には、従業員の学びやすさ・負担の少なさを考慮します。
自社で教育プログラムを用意することが難しい場合には、外部企業の提供する教育コンテンツの活用も検討しましょう。
リスキリングで獲得したスキルは、業務で積極的に活用できるようにします。獲得したスキルを業務で活かして成果につなげるにはスキルを活用できる機会を増やすことが重要です。
獲得したスキルが成果につなげられれば、従業員のモチベーションも高まります
リスキリングを行う際には、以下の点に注意します。
通常業務と並行して行うリスキリングは対象従業員に負担を強いるものです。そのため、対象従業員の業務量を調整します。
対象従業員がモチベーション高くリスキリングに取り組むには、社内で「リスキリング」への認知度を高めて、周囲の従業員が進んで協力する体制の構築が必須です。
リスキリングの成功には、従業員の自主性の尊重が欠かせません。会社によるリスキリングの強制は、対象従業員に過剰なストレスを与えてしまいます。最悪の場合、離職にもつながります。
獲得を目指すスキルや教育プログラム・スケジュールなどは対象従業員の意見を尊重して決めましょう。
リスキリングに欠かせない学習コンテンツを全て自社内で用意するのは現実的ではありません。莫大なコストと手間がかかってしまいます。
また、自社が保有していないスキルの場合には、不十分な学習コンテンツを用意することにもなりかねません。スキルを認定するための教育レベルを適切に把握できないからです。
自社内で学習コンテンツを用意することが難しい場合には、社外リソースの活用も検討します。
製造業におけるリスキリングの事例を紹介します。
日立製作所はグループ会社も含めてリスキリングを推奨しており、デジタル人材を社内で育成するために「日立アカデミー」を設立しました。
日立アカデミーでは、国内の本社及びグループ企業に所属する全従業員を対象に、DXの基礎教育を実施しています。また、講座は、プロジェクトマネジメントや高度なITスキルなど多岐にわたります。なお、日立アカデミーは社外者も利用できます。
富士通は、DX企業となるために企業変革を行うことを明言しており、リスキリングやアップスキリングに注力しています。
「個人のパーパス(存在価値・意義)設定」を行うことが、富士通が実践するリスキリングの特徴です。各従業員はパーパスを設定にすることで、リスキリングへの意欲を高めます。
富士通では、座学で基礎的なDXスキルを学ぶだけではなく、学んだ内容を実践する機会を積極的に設けています。
旭化成は、2020年からDX推進に向けた取組みを開始しています。2024年を「デジタルノーマル期」と位置付けており、従業員の主体的な学びを重視して、獲得したスキルを5段階で認証する「DXオープンバッジ制度」を導入しました。
なお、「DXオープンバッジ制度」のレベル1には、デジタルに苦手意識のある人材も取り組める内容が設定されています。これにより、DX推進のためのリスキリングが、一部の従業員だけではなく全従業員に浸透することを目指しています。
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