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2024.4.19
人手不足が問題となっている製造現場において、産業用ロボットの市場規模が急速に拡大しています。
産業用ロボットの規模の拡大とともに大きな課題として浮上するのが安全面での対策です。産業用ロボットに関わる従業員には特別教育の受講が義務づけられています。
この記事では、産業用ロボットの特別教育について対象者や受講内容、受講方法などを解説します。
厚生労働省が制定している「労働安全衛生規則」では、産業用ロボットは下記のように定義されています。
マニプレータおよび記憶装置(可変シーケンス制御装置および固定シーケンス制御装置を含む。)を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動もしくは旋回の動作またはこられの複合動作を自動的に行うことのできる機械(研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く)
出典:厚生労働省「労働安全衛生規格(第三十六条三十一)」
上記の通り、産業用ロボットとは、組立や塗装、溶接などのさまざまな作業を人に代わって行うロボットのことです。
産業用ロボットの導入は作業の自動化や効率化につながるため、製造業の人手不足を解消する手立てとなります。
関連記事:産業用ロボットとは? 種類・メリット・導入時の注意点・代表的なメーカーについて解説
「特別教育」とは、危険をともなう業務や有害な物質を扱う業務などを行う場合に、それらの業務に関する安全や衛生の知識を学ぶための教育のことです。
労働安全衛生法では、特別教育について下記のように記されています。
第六章 労働者の就業に当たっての措置 第五十九条 3項
事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法(第六章 労働者の就業に当たっての措置)」
危険性の高い業務は、ほんの小さなミスでさえ自分だけでなく周囲の人も危険にさらしてしまう恐れがあります。
安全に作業を行うためには、正しい知識を身に付けなければなりません。そのため、溶接やフォークリフトの運転など労働安全衛生規則第三十六条に規定されている49の業務を行う従業員には、特別教育の受講が義務づけられています。
なお、特別教育が必要な業務については「免許・技能講習等が必要な業務について」を参考にしてください。
関連記事:【修了証エクセルテンプレート付き】特別教育とは?必要な業務の一覧、実施方法、免許や技能講習との違いについて解説
前述のように、特別教育の対象となるのは、「労働安全衛生規則第三十六条」に規定されている49の業務です。その中に産業用ロボットに関わる業務も含まれています。
産業用ロボットは、操作ミスや間違ったメンテナンスによって大きな事故を引き起こす危険性があります。そのため、産業用ロボットに関わる従業員は、産業用ロボットに動作の順番などをプログラミングする教示や、メンテナンスなどを正しく行うためにも別教育を受けなける必要があります。
産業用ロボットを安全に活用するためには、産業用ロボット自体の正しい知識はもちろん、故障やメンテナンスに関する知識や技術もしっかりと身に付けて作業にあたらなくてはいけないのです。
産業用ロボット特別教育の受講対象は、産業用ロボットに関わる全ての従業員です。
「労働安全衛生規則第三十六条」の規定において、主に下記の2つの業務が産業用ロボットに関する業務とされています。
産業用ロボットは力が強く、高速で作業できるため作業効率の大幅な向上を実現します。しかし、正しく使い方を理解しておかなければ重大な事故につながってしまいます。産業用ロボットによる事故を未然に防ぐためには、特別教育を受講して正しい知識で産業用ロボットを扱うことが重要だと言えるでしょう。
産業用ロボットに関係する業務を行う従業員に特別教育を受けさせるのは事業者の義務とされています。万が一特別教育を受けさせずに作業に従事させた場合は、事業者・従業員の双方が罰せられるため、十分な注意が必要です。
特別教育には試験がありません。外部受講の場合には、特別教育を受けたことを証明する修了証が発行されます。
ただし、特別教育の修了証は必ずしも発行しなければならないものではありません。自社で特別教育を受講した場合には修了証の発行はなく、実施記録を保存して終わるケースもあります。
また、修了した特別教育は自身のスキルとして履歴書に記載できます。この点は受講者のメリットと言えるでしょう。
特別教育は、すべての産業用ロボットに対して受講が義務づけられているわけではありません。産業用ロボットの中でも出力が80W未満の協働ロボットについては、特別教育が不要です。
協働ロボットとは、人と協働することを目的として作られた産業用ロボットのこと。出力が低く、万が一人間やモノと接触しても事故が起きにくいように、緊急時の自動停止システムなどの安全対策が充実しています。
これまで産業用ロボットを導入する場合には、産業用ロボットが人間と同じ空間で作業する際には重大な事故を防ぐために安全柵の設置が義務づけられていました。
しかし、平成25年に通達された「産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について」で、人間と同じ空間で作業しても安全だと判断された協働ロボットに関しては、安全柵なしで導入できるようになりました。
参考:厚生労働省「産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について」
参考:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(別紙)」
特別教育は、産業用ロボットに関する業務内容によって受講しなければならない内容が異なります。特別教育の実施内容は、下記2つです。
教示は、産業用ロボットに対して動作の位置や速度、動作の順番などをプログラミングする業務のこと。ロボット業界では「ティーチング」とも言われています。産業用ロボットの教示を行うためには、下記の学科を受講する必要があります。
参考:安全衛生特別教育規程(産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育)第十八条
教示は、産業用ロボットによる溶接やピッキングなどの作業効率を高める業務として欠かせない要素です。基本的に産業用ロボットに近づいて行うものです。安全に教示を行うための知識や技術を身に付ける必要があります。
また、教示の知識が不十分な従業員が産業用ロボットの教示を行うと、ロボットが上手く作動しなかったり、故障したりする恐れが生じます。
産業用ロボットが正常に作動しなければ、ロボットの近くで作業している従業員と接触事故を起こしたり、作業効率を大きく下げたりしてしまいます。事故やトラブルを未然に防ぐためにも、教示に関する特別教育は重要です。
また教示の特別教育では学科以外に実技も学びます。実技では実際に産業用ロボットを動かし、ロボットの基本的な操作方法や教示作業のやり方を習得します。
検査は、産業用ロボットの修理やメンテナンスを行う業務です。産業用ロボットの検査を行うためには、下記の学科を受講する必要があります。
参考:安全衛生特別教育規程(産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育)第十九条
検査は基本的にロボットが停止した状態で作業する場合が多いです。しかし、状況によってはロボットが動いているときにも稼働範囲外から作業しなければならないこともあります。
そのため、産業用ロボットの検査に関わる従業員は、安全に作業するための知識や技術を身に付けなければなりません。
また、検査に関する知識が不十分な従業員が産業用ロボットのメンテナンスを行うと、ロボットが故障する可能性が高まります。修理やメンテナンスに関する正しい知識を身に付けましょう。
検査に関する特別教育においても教示と同様に実技があり、実際に産業用ロボットを動かし、ロボットの操作方法や検査作業の方法を習得します。
特別教育は、全国各地の労働基準協会連合会や一般社団法人HCI-RT協会などで受講ができます。
特別教育にかかる費用や講習の日数は、受講する自治体などによって異なりますのでご注意ください。ここでは特別教育の受験料や日数について、一例をご紹介します。
①群馬労働基準協会連合会(学科のみ)
費用:15,180円(テキスト代・消費税を含む)
日数:2日間
受験資格:特になし
参考:群馬労働基準協会連合会
②静岡県労働基準協会連合会 (学科のみ)
費用:12,000円(テキスト代・消費税を含む)
日数:1日間
受験資格:産業用ロボットの教示等の業務に従事予定の満18歳以上の者
参考:静岡県労働基準協会連合会
③一般社団法人HCI-RT協会
費用:教示コース29,000円(テキスト代含む・税別)、教示・検査コース35,000円(テキスト代含む・税別)
日数:教示コース2日間、教示・検査コース3日間
受験資格:特になし
参考:HCI-RT協会
産業用ロボットの特別教育は、ロボットを製造・販売するロボットメーカーが直接実施している場合もあります。
例えば川崎重工業が開催しているカワサキロボットスクールでは、教示のみの特別教育や検査のみの特別教育、また教示と検査両方の特別教育が受けられる講習を行っています。講座では、主に下記のような講習を受講できます。
また、ファナックでは、産業用ロボットの教示や検査の特別教育に関する講習が多数開催されています。開催されている主なコースは下記のです。
どのコースを選択しても、教示または検査、あるいは両方の特別教育修了証が発行されます。
産業用ロボットの教示・検査に関する特別教育をオンラインで行っているメーカーもあります。
オンラインでの受講は、特別教育の開催場所にわざわざ行く必要がないのが魅力です。パソコンなどの通信機器があればどこでも受講ができますので、特別教育の開催場所が遠方にある場合は利用してみるのもいいでしょう。
下記メーカーではオンライン形式で特別教育を行っていますので、興味のある方は公式HPをご覧ください。
前述の通り、産業用ロボットを導入する際は従業員に特別教育を必ず受講させなければなりません。そのため導入コストとして、ロボット本体にかかる費用だけでなく、従業員の教育コストも考慮する必要があります。
導入を検討する際には、産業用ロボットの導入によって効果が期待できる生産性の向上と、導入コストとをしっかりとシミュレーションしておくことが重要です。
特別教育にかかるコストが負担になる場合は、従業員にインストラクター資格を取得させる方法もあります。
インストラクター資格のある従業員が社内にいれば、自社内で特別教育を行えるため社内教育がスムーズに進むでしょう。
産業用ロボットの特別教育インストラクター資格は特別民間法人中央労働災害防止協会(中災防)が実施している資格です。資格取得には4日間にわたる講義と実技の研修への参加が必要。研修費用は88,000円(テキスト代含む・税込み)となっており、下記のような講義と実技を学びます。
産業用ロボットの需要は国内外ともに年々高まっており、市場規模も今後ますます拡大すると考えられます。
特別教育を修了してさらに産業用ロボットに関する安全対策や知識を身に付けたい方は「ロボット・セーフティアセッサ」の資格取得がおすすめです。
ロボット・セーフティアセッサとは、機械安全に関する知識を元にしながら、リスク軽減のための知識をロボットに特化させた資格です。ただし、ロボット・セーフティアセッサ単体で産業用ロボットの作業を行うことはできず、特別教育の受講は必須。このてんにはくれぐれもご注意ください。
この記事では、産業用ロボットの特別教育について、受講対象者や受講内容などを解説しました。
人間よりも力が強く、高速で作業できる作業用ロボットを安全に最大限活用するために、産業用ロボットに関わる従業員は特別教育の受講が義務づけられています。特別教育を受講し、産業用ロボットの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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