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【解説】IATF16949とは? 定義、ISO9001との違い、3種類の要求事項、メリット、取得までの流れ、スキルマップの活用を解説

IATF16949とは、世界各国の主要な自動車メーカーが導入している、自動車産業特有の品質マネジメント規格です。この記事では、IATF16949の定義、ISO9001との違い、3種類の要求事項、メリット、取得までの流れ、スキルマップの活用法についてお伝えします。

ISO.IATF力量管理

IATF16949とは?

IATF16949は、自動車産業特有の品質マネジメントのために策定された国際規格です。正式名称は「自動車産業品質マネジメントシステム規格-自動車産業の生産部品及び関連するサービス部品の組織に対する品質マネジメントシステム要求事項」であり、IATF(International Automotive Task Force/国際自動車産業特別委員会)がルールを制定し、管理を行っています。

IATF16949が対象とするのは、自動車(一般乗用車、バス、トラック、二輪車/ただし産業用車両は除く)の製造段階で使用される、製品や部品を提供するサプライチェーンです。IATF16949認証制度に基づいて、IATFの監督機関から承認を得た第三者審査機関が、サプライヤーの審査と登録を行います。そしてIATF16949の要求事項を満たしている登録サプライヤーから、各自動車メーカーが製品や部材を調達する仕組みとなっています。

IATF16949が作られた目的と背景

IATF16949の誕生は、1994年にさかのぼります。米国を代表する自動車メーカーであるフォード社、ゼネラルモータース社、クライスラー社の3社が、品質マネジメントにおける国際規格である「ISO9001」を基に、自動車産業特有の規格を加えた「QS-9000」を策定しました。

自動車は、その品質次第で消費者の命を左右するリスクを抱えた製品です。そのため、自動車メーカーにとって最も大切なのが、製品の安全性を保証するための品質マネジメントです。

しかし、自動車業界では、数万点におよぶ部品供給の大半がサプライヤーによって支えられています。製品製造における品質保証を確実なものにするためには、サプライチェーン側の品質マネジメントが不可欠だったのです。

「QS-9000」が公表されて以来、各国の自動車メーカーおよび自動車産業団体から構成される「IATF」によって改訂が重ねられ、2009年には「ISO/TS16949」が策定されました。

そこからさらに、不具合や欠陥の予防、ばらつきや無駄の削減、継続的な改善などを目的とする厳格な規格が加えられ、2016年に「IATF16949 第一版」が発行され、現在に至ります。

IATF16949の適用範囲

IATF16949の適用範囲は、自動車業界に関わる組織です。自動車メーカーだけではなく、自動車向けの部品を製造している企業など、サプライチェーンに関わる組織に適用されます。また、自動車メーカーとの合弁会社が対象になる場合もあります。

IATF16949を導入するメリット

IATF16949を導入することによって、次のような3つの大きなメリットがあります。

①自社製品の品質および生産性の向上につながる

IATF16949は品質マネジメントシステムとして、製品の品質管理を徹底すると同時に、企業にとっての生産性の向上を目指しています。規格としての要求事項をクリアすることにより、業務フローの改善やコストの削減などにもつながるでしょう。

②第三者機関の審査により、重大なリスクを回避

IATF16949を取得すると、第三者である認証機関の審査が定期的に行われることになります。客観的な視点から品質マネジメントシステムの運用方法や体制についてチェックが入ることによって、自社では見落としがちなリスクの回避に役立ちます。

③グローバル市場での信頼と評価を得る

IATF16949はそもそも、米国で“BIG3”と呼ばれるメーカーによって検討がはじまった規格です。現在では、欧米や日本、韓国などをはじめとする主要な自動車メーカーの大半が採用しているため、IATF16949認証を取得することは、グローバル市場での信頼を得る一歩となります。既存クライアントからの信頼も厚くなり、宣伝効果も見込めるでしょう。

ISO力量管理

IATF16949とISO9001の違い

IATF16949では、「IATF16949 の登録組織は、供給者に対してIATF16949 の認証取得を最終目標とした品質マネジメントシステムの構築と、最低でもISO9001の認証取得を要求すること」と記されています。

前述の通りIATF16949は、もともとISO9001をベースとして策定されています 。そのため基本的な要求事項には共通点が多く、定められている力量に関する要求事項もほぼ同じです。しかし自動車産業にとって重要な要求事項が付け足されているため、ISO9001よりも、IATF16949の方が規格としては厳格であるといえるでしょう。

ISO9001の認証を取得し、基本的な品質マネジメントシステムの基盤を構築してから、IATF16949 の要求事項に取り組むのが一般的な進め方になります。

関連記事:ISO 9001とは? 目的、メリット、要求事項、取得の流れを解説

IATF16949の要求事項の構成

IATF16949の要求事項は、次の図のような構成で成り立っています。

 ◆IATF 16949構成図

ISO9001の要求事項をベースに、自動車産業特有の要求事項が追加されたのがIATF16949の規格です。さらに共通規格として定められた要求事項に加えて、顧客が提示する「顧客固有要求事項」に適合しているかどうかもIATF16949認証取得の際の審査対象となります。

顧客固有要求事項は各自動車メーカーが個別に発行するものであり、IATF 16949のより具体的な解釈や、補足すべき項目が付け足されています。

顧客固有要求事項に取り組む際は、「コアツール」と呼ばれる技法の活用が求められるケースもあります。

IATF16949の要求事項

IATF16949を構成する要求事項は、「ISO9001の要求事項」「自動車産業固有要求事項」「顧客固有要求事項」の3層に分かれて構成されています。IATF16949の取得には、これら3層の要求事項を満たすマネジメントシステムの構築・運用が求められています。

ISO9001の要求事項

ISO9001の要求事項は、品質マネジメントシステムに関する基本的なガイドラインです。自動車業界だけではなく、さまざまな製品やサービスに適用されています。品質を適切に管理することで顧客満足度を高めることを目的としており、PDCAサイクルを用いて継続的な改善を目指しています。

関連記事:QMS(品質マネジメントシステム)とは? 目的、規格、ISO 9001要求事項との違いやQMS構築時のポイントを解説

たとえば、以下のような内容が挙げられます。

  • 組織の状況:顧客満足度の向上や強い組織の構築を目的として、自社の組織状況を、SWOT分析などを用いて評価・改善すること
  • リーダーシップ:トップが社内外に向けて取り組みを明確に説明できること/主導して進めること
  • 計画: PDCAサイクルの「P(Plan)」に当たります。QMSの「Plan=計画」を構築すること
  • 支援:PDCAサイクルの「D(Do)=実施」に当たり、QMSを運用するために必要な支援を行うこと。ここでいう「支援」とは、自社資源のことを指します
  • 運用:PDCAサイクルの「D(Do)=実施」に当たり、「必要なプロセスの明確化」や「顧客が求める要求事項の明確化、レビューの実施」などを明確にすること
  • パフォーマンス評価:PDCAサイクルの「C(Check)=評価」に当たり、QMSの運用結果とその有効性を評価すること
  • 改善:PDCAサイクルの「A(Action)=処置」に当たり、「パフォーマンス評価」の評価結果から改善に向けたアクションを行うこと

ISO9001では、組織の従業員の「力量」が定義されています。力量とは、「製品・サービス提供に必要な作業を従業員が実施できるかどうかの能力」を意味します。

従業員の力量の把握や教育計画は、ISO 9001の認証取得には欠かせない要素であり、その管理のためには「スキルマップ」の活用が不可欠です。

関連記事:【テンプレートあり】スキルマップの作り方【スキル体系・評価基準・項目例】

02. スキルマップ入門

自動車産業固有の要求事項

ISO9001の要求事項に加えて、IATFを構成する大手自動車メーカーが要求する、以下の独自項目が追加されています。

  • 製品安全:製品安全関連の製品、および、製造プロセスを運営・管理するために文書化されたプロセスを持つこと
  • 緊急事態対応計画:主要設備の障害や、製品・サービスの中断、情報技術システムに対するサイバー攻撃、労働力不足などが生じた場合に、供給を継続させるための緊急事態対応計画を用意すること
  • 外部試験所:検査・試験・校正サービスに用いる試験所施設は、これらを遂行する能力を含む、明確に規定された試験所適用範囲を持つこと
  • 品質マネジメントシステム監査:3年間の監査サイクルにおいて、自動車産業QMS規格への適合を検証するために、プロセスアプローチを用いて全ての品質マネジメントシステムを監査すること
  • 自動車産業の用語および定義:組込ソフトウェアによって制御される部品は、自動車への適用を目的として開発されたものでなければならない

IATF16949では、サプライチェーン全体を含めた品質マネジメントシステムの構築・運用が求められています。適用除外される企業については厳しく規定されており、設計部門を持たない企業のみが適用対象外です。

顧客固有要求事項

「顧客固有要求事項」は、「CSR(Customer Specific Requirements)」とも呼ばれます。顧客である自動車メーカーが独自に提示した要求事項のことを指します。メーカーごとに補足が加えられていることから、より具体的な要求事項となっています。

顧客志向を掲げているIATF16949では、顧客固有要求事項を重視して審査を行います。顧客固有要求事項を満たすには、以下で紹介するコアツールの活用が効果的です。

IATF16949取得の流れと維持

以下が、IATF16949の認証取得の代表的な流れです。

マネジメントシステムの構築

まずは、IATF16949で要求される各要求事項に沿って品質マネジメントシステムを構築します。トップが主導してプロジェクトチームを結成し、品質管理責任者と品質監査責任者を選任します。

プロジェクト開始にあたっては、トップマネジメントがキックオフ宣言を行います。トップマネジメントが積極的にリーダーシップを執ることで、IATF16949の取得が全社的なプロジェクトであることを周知し、社員のモチベーションを高めます。

その後、コアツールの教育や要求事項に即した現状分析を並行して行います。分析した結果に応じて必要があればマニュアル・手順書を作成しましょう。

マネジメントシステムの運用

マネジメントシステムの構築ができたら、運用を始めます。運用中には運用状況を適宜記録して、改善が必要であれば是正処置を行います。

また、運用後には、内部監査を行います。内部監査員を任命して、マネジメントシステムの有効性や妥当性や継続性を確認します。内部監査で指摘があった項目は、外部審査の前に改善しておきます。

取得審査を受ける

IATF16949の認証取得審査は、以下の2つのステージに分割して行われます。

  • ステージ1:文書審査を中心とし、認証範囲の適切性やステージ2に移行するための審査
  • ステージ2:全要求事項の実施や品質パフォーマンスの有効性などに関する審査

要求事項に適合していない場合には、指摘箇所を修正した上で是正処置報告書を提出します。是正後に登録が可能と判断されたら、3年間を有効期限とする登録証が発行されます。

認証維持に向けた運用

IATF16949を認証維持するには、運用体制を整備しなくてはいけません。IATF16949の有効期間は、ステージ2の初回の審査の最終日から3年間です。3年以内に更新審査を実施しなかったり、審査を受けても通過しなかったりした場合には、初回の認証審査からやり直さなくてはいけません。

なお、承認取得・維持に関して、詳しいルールはIATFによる公式解釈を参考にしてください。

参考:IATF-国際自動車産業特別委員会「IATF承認取得・維持ルール IATFルール第5版 – 公式解釈集」

IATF16949コアツール

APQP(先行製品品質計画)

新製品開発プロジェクトの運営についての規定。顧客ニーズを満たす新しい製品を開発し、営業清算へと移行するプロジェクトの指針を示す。

PPAP(製品部品承認プロセス)

部品調達のための方法についての規定。サプライヤーが生産部品の承認を得るための手順を示す。

FMEA(故障モード影響解析)

製品の製造工程において考えられるあらゆるリスクをあらかじめ分析し、対処するための手法を示す。

関連記事:【解説】FMEA(故障モード影響解析)とは?期待効果と注意点について解説します。

SPC(統計的工程管理)

製造工程の統計データより、品質保証および製造プロセスの改善を行う手法を示す。

MSA(測定システム解析)

製品品質に関する測定を行う際の誤差を定量的に評価する方法を示す。

IATF16949にこそスキルマップを活用する

徹底した品質マネジメントを遂行して、IATF16949の要求事項をクリアするために重要なのが、従業員への「教育」です。

従業員教育の前提になるのが、全ての従業員の「力量」を可視化することです。多くの企業では、可視化された膨大な「力量情報(スキルデータ)」を「スキルマップ(力量表)」を使って管理しています。

「IATF16949の定める力量に対して、従業員の技術や能力は十分なのか?」「業務量に対する人員は確保できているのか?」「数年後を見据えて、スキルを持った従業員が不足しないのか?」。スキルマップを活用すれば、これらの疑問を解消して、常に組織内の状態を把握できます。仮に、スキルや力量に不足がある場合は、計画的な人材教育・訓練を実施することで、不足分のスキルや・力量を補えます。

IATF16949が定める厳格な要求事項を満たすには、スキルマップを適切に運用して、組織内のスキル・力量状況を常にフレッシュな状態に保っておく必要があるのです。

02. スキルマップ入門

まとめ:スキルマップを効率的に作成・運用するには

IATF16949要求事項のように、細分化されたスキルマップを組織内で適切に管理・運用するには、かなりの人的リソースを要します。その労力や工数を大幅に削減するためにも、スキルマップをシステム上で構築・運用できる「スキル管理システム」の利用がおすすめです。

関連記事:【徹底解説】スキル管理システムとは? 導入メリットと効果、活用シーン、システムの種類について

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04. ISO力量管理
スキルノート編集部

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