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2024.10.10
労働者が健康で安全に業務に取り組める環境を提供することは、使用者の務めです。労働災害は起こってはならないことです。現場における事故などの労災は、労働者の心身の健康を脅かします。
労災を未然に防止するために、使用者は「労働安全衛生法」で定められている「安全衛生教育」を実施しなくてはなりません。安全衛生教育は複数の教育内容で構成されており、業務によって実施すべき教育は異なります。
この記事では、「安全衛生教育」が不可欠な理由、安全衛生教育を構成する各教育の概要、教育を行う流れ、受講の際の注意点を解説します。
「安全衛生教育」とは、労働者に対して安全衛生に関する知識を共有するための教育です。「労働災害の防止」を目的として行われます。
安全衛生教育は「労働安全衛生法(安衛法)」で定められた教育です。「受講義務がある教育」と「努力義務である教育」によって構成されています。
受講が義務付けられている教育を受講していない、もしくは、受講時期が不適切だった場合には、6ヶ月以下の懲役や50万円以下の罰金が課せられます。
「労働安全衛生法」は、昭和47年に「労働基準法」から分離・独立することで制定された法律で、以下を目的としています。
労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること
安衛法の目的を実現する手段として、「労働災害防止のための危害防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進の措置」などの安全衛生に関する対策を推進することが求められています。
出典:「労働安全衛生法」
関連記事:【3つの分類で解説】労働安全衛生法で定められている資格・教育
関連記事:【解説】労働安全衛生法で必要な安全管理者などの選任
繰り返しになりますが、事業者が労働者に対して安全衛生教育を行う本来の目的は、「労働災害の防止」にあります。労働災害の発生は、労働者に対して怪我や病気を負わせてしまうリスクを生じさせます。
労働災害の被害を受けた自社に所属する労働者が休職や退職をしてしまうと、業務が停滞します。業務の停滞による「ステークホルダーへの悪影響」や「業務を代替する労働者の負荷増加」も、間違いなく経営上のリスクです。
また、発生した労働災害について報道されることで、「労働者を大事にしない企業」と社会的に認知されてしまう恐れがあります。その結果、取引先からの信頼や評価を失い、採用活動への悪影響も想定できます。
労働災害の発生によるリスクを回避するためには、未然防止の取り組みが重要です。そのため、現場の指揮・監督をする管理者や作業を行う労働者は、安全衛生に関する十分な知識と技能を身に付けている必要があります。
厚生労働省「安全衛生教育等推進要綱」が示すように、安全衛生教育の実施対象者は、以下のように定義されています。
1.1.1. 就業制限業務に従事する者
1.1.2. 特別教育を必要とする危険有害業務に従事する者
1.1.3. その他の危険有害業務に従事する者
このように、安全衛生教育の実施対象者は労働者や管理者だけではありません。経営のトップや技術者など、危険業務に従事しない人も含めて多岐にわたります。それぞれの役割によって、安全衛生教育における受講すべき教育は異なるため、目的に合った教育の選定が必要です。
安全衛生教育の指導者には、法令等に基づく要件を満たすことに加えて、教育対象である業務に関する専門的な知識や経験を有することが求められています。具体的には、以下のような人物が「指導者」として定義されています。
また、安全衛生教育の指導者には教育技法に関する知識や経験も必要とされています。
たとえば、指導者は対象となる教育カリキュラムを満たした上で、事例(ケーススタディ)などを、視聴覚機材を活用して教育することが求められます。また、教育の際には、指導者が受講者に対して一方的に講義をするのではなく、受講者が主体性を持って取り組むワークショップなどの双方向な形式での教育が推奨されています。
安全衛生教育の指導者に求められる能力は多岐にわたります。そのため、自社内で安全衛生教育の指導者を確保することは簡単ではありません。社内で指導者を確保するのが難しい場合には、外部コンサルタントへの委託や外部での教育受講も検討しましょう。
安全衛生教育は、主に6種類に分類できます。対象者に対する教育の実施が義務化されているものが3種類、実施に務める必要があるもの(努力義務)が3種類です。
繰り返しになりますが、実施が義務付けられている教育を実施しなければ罰則が課せられます。必ず教育を実施して、受講記録は保管しておきます。
また、努力義務のある教育は、受講目的や業務上の必要性から受講要否を判断します。
労働安全衛生法第59条1項2項により、事業者には、労働者の雇い入れ時や労働者の業務内容変更時に、労働者に対して安全衛生教育を実施する義務があります。
出典:厚生労働省「安全衛生教育の教育内容]
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性およびこれらの取扱い方法に関すること
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能およびこれらの取扱い方法に関すること
- 作業手順に関すること
- 作業開始時の点検に関すること
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること
- 整理、整頓(とん)および清潔の保持に関すること
- 事故時等における応急措置および退避に関すること
- 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
本教育は、実施を義務づけられた教育です。ただし、事務作業などが中心で該当する業務に従事しない労働者には、(1)~(4)の教育を省略できます。
労働安全衛生法第59条3項により、事業者が労働者を一定の危険・有害な業務に就かせる際には、安全または衛生に関する特別の教育(特別教育)を実施する義務があります。
「労働安全衛生規則」第36条で定義されている特別業務が必要な危険有害業務のうち、下記に、いくつか例を記載します。
上記の業務以外にも、さまざまな業務が「特別教育が必要な業務」に該当します。詳細は「労働安全衛生規則第36条」を参考にしてください。
ただし、「労働安全衛生規則第37条」によると、実施対象となる特別教育の内容を全て、もしくは、一部について十分な知識や技能を有している労働者は、該当する特別教育の受講を省略できます。
関連記事:【修了証エクセルテンプレート付き】特別教育とは?必要な業務の一覧、実施方法、免許や技能講習との違いについて解説
「労働安全衛生法第60条」により、建設業や製造業(一部業種を除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業において、事業者は、「新たに職務に就くことになった職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者(作業主任者を除く)」に対して、安全または衛生のための教育を実施する義務があります。
事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。”
出典:中央労働災害防止協会安全衛生情報センター「労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置(第五十九条-第六十三条)」
職長教育が必要な業種は以下です。
上記に加えて、2023年4月1日から、「食品製造業(うま味調味料製造業及び油脂製造業を除く)」「新聞業」「製本業」「印刷物加工業」が対象業務に追加になりました。
職長教育では、以下のような内容に関する教育が行われます。
12時間の講習でこれらの内容を学ぶことが義務付けられており、時間の短縮は認められていません。主に2日間にわたって教育が行われます。
関連記事:職長教育と安全衛生責任者の違いとは? 講義内容と講習時間、受講方法について
労働安全衛生法第60条の2に基づいて行われる「安全管理者等への能力向上教育」は、安全衛生に関する業務を担当する人材の能力を維持・向上する役割を担う管理者向けの教育です。
実施は努力義務ですが、労働者の能力を十分に発揮してもらうためには、受講が望ましいでしょう。
労働安全衛生法第60条の2第2項に基づいて行われる「危険・有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育」は、各事業所における労働災害の傾向や外部環境の変化に関する知識を得ることで、事業所の安全水準を向上させるために行われます。
労働安全衛生法第69条により、事業者は労働者に対して「健康教育や健康保持増進を図る措置」を継続的かつ計画的に実施するように努める必要があります。
健康教育とは、労働者が健康に目を向けて、健康の維持や増進に努められるようサポートするものです。具体的な取り組みとしては、健康に関する教育や運動指導、メンタルヘルスケアなどが該当します。
本教育は、事業者だけが実施の努力義務を負うものではありません。労働者自身が、事業者が行う措置を積極的に利用して、健康保持や増進に努めるものです。
安全衛生教育を実施する際には、以下の流れで実施します。
社内・部内における安全衛生教育を管理するために、実施責任者を選定します。
実施責任者は、安全衛生計画の実施計画の作成や受講記録の保管・保存など、安全衛生教育関連のとりまとめに関する責任を持ちます。
実施責任者を選定しておかないと、教育が未実施に終わるリスクが生じます。また、教育関連の業務分担に関して揉めやすくなるため、注意が必要です。
次に、実施責任者を中心として教育の実施計画等を作成します。実施が必要な教育ごとに、受講対象者の選定や教育を実施する日時・場所・講師の選定に関する年間計画を作成します。
計画がない状態で実施する教育は、準備が大変になるではなく、受講する労働者にも大きな負担を強いてしまいます。業務調整がしやすくなるように、中長期的な計画を作成しましょう。
各教育の内容が、受講者にとって有益なものになるように教育内容を充実させます。教育内容を充実させるには、以下の点を考慮して教育を実施します。
安全衛生教育の水準向上を目的として、企業・業界団体・公益社団法人などによって「安全衛生教育センター」が全国各地に設置されています。
安全衛生教育センターでは、安全衛生教育の質を高めるために必要不可欠な「講師の養成」や「責任者の資質向上」などに関する講座を開設しています。安全衛生教育を受講する労働者の理解を深めるためにも、安全衛生教育センターを活用して講師を養成したりすることは有効です。
安全衛生教育を行う際には、以下の点に注意します。
安全衛生教育は、事業者ではなく使用者(労働者)の責任で実施することが義務付けられています。しかし、使用者が従事する業務は事業者の指示によって決まるため、原則は所定労働時間内に行わなければなりません。
休日などの所定労働時間外に行う場合には、割増賃金を支払う必要があります。社内ではなく外部での教育を受講する場合には、事業者が費用を負担するべきです。
安全衛生教育は、単に教育の機会を提供するだけのものではありません。労働者が従事する業務に関する理解度を確認する機会にもなります。そのため、安全衛生教育を行う際にはマニュアルを提供するだけではなく、指導者が直接教育を行うことが大切です。
また、日本では多くの外国人労働者が活躍しています。日本語での教育だけではなく外国人労働者の母国語を用いた教育機会を提供しましょう。
安全衛生教育のなかでも「特別教育」に関しては、受講記録の保管が義務付けられています。一方、特別教育以外では、記録保管に関して法的義務はありませんが、保管しておくことでさまざまなメリットが得られます。
受講記録が保管されていれば、受講計画の立案や人員配置の検討に活用できます。また、労働災害が発生した際に、トラブル回避に役に立照られる場合もあります。
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