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安全衛生教育とは? 実施が不可欠な理由、概要、種類・内容、実施の流れ、注意点を解説

安全衛生教育とは?

労働者が健康で安全に業務に取り組める環境を提供することは、使用者の務めです。労働災害は起こってはならないことです。現場における事故などの労災は、労働者の心身の健康を脅かします。

労災を未然に防止するために、使用者は「労働安全衛生法」で定められている「安全衛生教育」を実施しなくてはなりません。安全衛生教育は複数の教育内容で構成されており、業務によって実施すべき教育は異なります。

この記事では、「安全衛生教育」が不可欠な理由、安全衛生教育を構成する各教育の概要、教育を行う流れ、受講の際の注意点を解説します。

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安全衛生教育とは

「安全衛生教育」とは、労働者に対して安全衛生に関する知識を共有するための教育です。「労働災害の防止」を目的として行われます。

安全衛生教育は「労働安全衛生法(安衛法)」で定められた教育です。「受講義務がある教育」と「努力義務である教育」によって構成されています。

受講が義務付けられている教育を受講していない、もしくは、受講時期が不適切だった場合には、6ヶ月以下の懲役や50万円以下の罰金が課せられます。

出典:厚生労働省長野労働局各労働基準監督署

労働安全衛生法とは

「労働安全衛生法」は、昭和47年に「労働基準法」から分離・独立することで制定された法律で、以下を目的としています。

労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること

安衛法の目的を実現する手段として、「労働災害防止のための危害防止基準の確立」「責任体制の明確化」「自主的活動の促進の措置」などの安全衛生に関する対策を推進することが求められています。

出典:「労働安全衛生法

関連記事:【3つの分類で解説】労働安全衛生法で定められている資格・教育

関連記事:【解説】労働安全衛生法で必要な安全管理者などの選任

安全衛生教育を行う目的と重視される理由

繰り返しになりますが、事業者が労働者に対して安全衛生教育を行う本来の目的は、「労働災害の防止」にあります。労働災害の発生は、労働者に対して怪我や病気を負わせてしまうリスクを生じさせます。

労働災害の被害を受けた自社に所属する労働者が休職や退職をしてしまうと、業務が停滞します。業務の停滞による「ステークホルダーへの悪影響」や「業務を代替する労働者の負荷増加」も、間違いなく経営上のリスクです。

また、発生した労働災害について報道されることで、「労働者を大事にしない企業」と社会的に認知されてしまう恐れがあります。その結果、取引先からの信頼や評価を失い、採用活動への悪影響も想定できます。

労働災害の発生によるリスクを回避するためには、未然防止の取り組みが重要です。そのため、現場の指揮・監督をする管理者や作業を行う労働者は、安全衛生に関する十分な知識と技能を身に付けている必要があります。

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安全衛生教育の実施対象者

厚生労働省「安全衛生教育等推進要綱」が示すように、安全衛生教育の実施対象者は、以下のように定義されています。

1作業者

1.1.危険有害業務に従事する者

1.1.1. 就業制限業務に従事する者

1.1.2. 特別教育を必要とする危険有害業務に従事する者

1.1.3. その他の危険有害業務に従事する者

1.2. 1.1以外の業務に従事する者

2. 安全衛生に係る管理者

2.1. 安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者及び安全推進者

2.2. 作業主任者、職長及び作業指揮者

2.3. 元方安全衛生管理者、店社安全衛生管理者

2.4. 救護技術管理者

2.5. 計画参画者

2.6. 安全衛生責任者

2.7. 交通労働災害防止担当管理者

2.8. 荷役災害防止担当者

2.9. 危険性又は有害性等の調査等担当者・労働安全衛生マネジメントシステム担当者

2.10 「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成 27 年危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号)」に定める化学物質管理者

2.11 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(昭和 63 年健康保持増進のための指針公示第1号)」に定める健康保持増進措置を実施するスタッフ

2.12 「労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成 18 年健康保持増進のための指針公示第3号)」に定める事業場内産業保健スタッフ等

3. 経営トップ等

3.1. 事業者

3.2. 統括安全衛生責

3.3. 統括安全衛生責任者及び安全衛生責任者

3.4. 管理職

4. 安全衛生専門家

4.1. 産業医

4.2. 労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタント

4.3. 安全管理士及び衛生管理士(労働災害防止団体法第12条に定める資格者)

4.4. 作業環境測定士

5. 技術者等

5.1. 特定自主検査に従事する者及び定期自主検査に従事する者等

5.2. 生産・施工部門の管理者及び技術者

5.3. 機械設備及び建築物の設計技術者等

6. その他

6.1. 就職予定者

6.2. その他教育等を必要とする者

このように、安全衛生教育の実施対象者は労働者や管理者だけではありません。経営のトップや技術者など、危険業務に従事しない人も含めて多岐にわたります。それぞれの役割によって、安全衛生教育における受講すべき教育は異なるため、目的に合った教育の選定が必要です。

安全衛生教育の指導者

安全衛生教育の指導者には、法令等に基づく要件を満たすことに加えて、教育対象である業務に関する専門的な知識や経験を有することが求められています。具体的には、以下のような人物が「指導者」として定義されています。

  • 当該業務に関する知識・経験を有する者
  • 労働安全コンサルタント
  • 労働衛生コンサルタント
  • 安全管理士
  • 衛生管理士

また、安全衛生教育の指導者には教育技法に関する知識や経験も必要とされています。

たとえば、指導者は対象となる教育カリキュラムを満たした上で、事例(ケーススタディ)などを、視聴覚機材を活用して教育することが求められます。また、教育の際には、指導者が受講者に対して一方的に講義をするのではなく、受講者が主体性を持って取り組むワークショップなどの双方向な形式での教育が推奨されています。

安全衛生教育の指導者に求められる能力は多岐にわたります。そのため、自社内で安全衛生教育の指導者を確保することは簡単ではありません。社内で指導者を確保するのが難しい場合には、外部コンサルタントへの委託や外部での教育受講も検討しましょう。

安全衛生教育の種類

安全衛生教育は、主に6種類に分類できます。対象者に対する教育の実施が義務化されているものが3種類、実施に務める必要があるもの(努力義務)が3種類です。

繰り返しになりますが、実施が義務付けられている教育を実施しなければ罰則が課せられます。必ず教育を実施して、受講記録は保管しておきます。

また、努力義務のある教育は、受講目的や業務上の必要性から受講要否を判断します。

07. テンプレ-教育訓練

【義務】雇入れ時・作業内容変更時の教育

労働安全衛生法第59条1項2項により、事業者には、労働者の雇い入れ時や労働者の業務内容変更時に、労働者に対して安全衛生教育を実施する義務があります。

  1. 機械等、原材料等の危険性又は有害性およびこれらの取扱い方法に関すること
  2. 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能およびこれらの取扱い方法に関すること
  3. 作業手順に関すること
  4. 作業開始時の点検に関すること
  5. 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること
  6. 整理、整頓(とん)および清潔の保持に関すること
  7. 事故時等における応急措置および退避に関すること
  8. 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
出典:厚生労働省「安全衛生教育の教育内容]

本教育は、実施を義務づけられた教育です。ただし、事務作業などが中心で該当する業務に従事しない労働者には、(1)~(4)の教育を省略できます。

【義務】特別の危険有害業務従事者への教育(特別教育)

労働安全衛生法第59条3項により、事業者が労働者を一定の危険・有害な業務に就かせる際には、安全または衛生に関する特別の教育(特別教育)を実施する義務があります。

「労働安全衛生規則」第36条で定義されている特別業務が必要な危険有害業務のうち、下記に、いくつか例を記載します。

  • 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務
  • アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務
  • 対地電圧が50ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自転車の整備の業務
  • 最大荷重一トン未満のフォークリフトの運転
  • 機体重量が三トン未満の機械で、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走できるものの運転の業務
  • 動力により駆動される巻き上げ機の運転の業務
  • ゴンドラの操作の業務
  • 特殊化学設備の取扱い、整備及び修理の業務
  • 粉じん障害防止規則に係る業務
  • 産業用ロボットの可動範囲内において、教示等の業務
  • 自動車用対やの組立てに係る業務のうち、空気圧縮機を用いてタイヤに空気を充てんする業務
  • 高さが二メートル以上の箇所で作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具を用いて、労働者が昇降器具により身体を保持しつつ行う作業に係る業務

上記の業務以外にも、さまざまな業務が「特別教育が必要な業務」に該当します。詳細は「労働安全衛生規則第36条」を参考にしてください。

ただし、「労働安全衛生規則第37条」によると、実施対象となる特別教育の内容を全て、もしくは、一部について十分な知識や技能を有している労働者は、該当する特別教育の受講を省略できます。

関連記事:【修了証エクセルテンプレート付き】特別教育とは?必要な業務の一覧、実施方法、免許や技能講習との違いについて解説

08. テンプレ-特別教育

【義務】職長等に対する教育

「労働安全衛生法第60条」により、建設業や製造業(一部業種を除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業において、事業者は、「新たに職務に就くことになった職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者(作業主任者を除く)」に対して、安全または衛生のための教育を実施する義務があります。

事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。”

出典:中央労働災害防止協会安全衛生情報センター「労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置(第五十九条-第六十三条)

職長教育が必要な業種

職長教育が必要な業種は以下です。

  • 建設業
  • 製造業
  • 電気業
  • ガス業
  • 自動車整備業
  • 機械修理業

上記に加えて、2023年4月1日から、「食品製造業(うま味調味料製造業及び油脂製造業を除く)」「新聞業」「製本業」「印刷物加工業」が対象業務に追加になりました。

職長教育の内容

職長教育では、以下のような内容に関する教育が行われます。

  • 作業手順の定め方、労働者の適正な配置の方法
  • 作業中における監督及び指示の方法
  • 危険性又は有害性等の調査の方法、危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置、設備・作業等の具体的な改善の方法
  • 異常時における措置
  • 災害発生時における措置作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法、労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法

12時間の講習でこれらの内容を学ぶことが義務付けられており、時間の短縮は認められていません。主に2日間にわたって教育が行われます。

関連記事:職長教育と安全衛生責任者の違いとは? 講義内容と講習時間、受講方法について

【努力義務】安全管理者等への能力向上教育

労働安全衛生法第60条の2に基づいて行われる「安全管理者等への能力向上教育」は、安全衛生に関する業務を担当する人材の能力を維持・向上する役割を担う管理者向けの教育です。

実施は努力義務ですが、労働者の能力を十分に発揮してもらうためには、受講が望ましいでしょう。

  • 受講対象者:安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、作業主任者など
  • 種類と教育内容:初任時教育(全般的な事項)、定期教育・随時教育(労働災害の動向、社会経済情勢、職場変化等に対応した事項)
  • 受講時間:原則1日

【努力義務】危険・有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育

労働安全衛生法第60条の2第2項に基づいて行われる「危険・有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育」は、各事業所における労働災害の傾向や外部環境の変化に関する知識を得ることで、事業所の安全水準を向上させるために行われます。

  • 受講対象者:就業制限に係る業務に従事する者、特別教育を必要とする業務に従事する者
  • 内容:労働災害の動向、技術革新の進展等に対応した事項
  • 受講時間:原則1日

【努力義務】健康教育・健康保持促進措置

労働安全衛生法第69条により、事業者は労働者に対して「健康教育や健康保持増進を図る措置」を継続的かつ計画的に実施するように努める必要があります。

健康教育とは、労働者が健康に目を向けて、健康の維持や増進に努められるようサポートするものです。具体的な取り組みとしては、健康に関する教育や運動指導、メンタルヘルスケアなどが該当します。

本教育は、事業者だけが実施の努力義務を負うものではありません。労働者自身が、事業者が行う措置を積極的に利用して、健康保持や増進に努めるものです。

安全衛生教育の実施方法

安全衛生教育を実施する際には、以下の流れで実施します。

実施責任者の選任

社内・部内における安全衛生教育を管理するために、実施責任者を選定します。

実施責任者は、安全衛生計画の実施計画の作成や受講記録の保管・保存など、安全衛生教育関連のとりまとめに関する責任を持ちます。

実施責任者を選定しておかないと、教育が未実施に終わるリスクが生じます。また、教育関連の業務分担に関して揉めやすくなるため、注意が必要です。

教育の実施計画等の作成

次に、実施責任者を中心として教育の実施計画等を作成します。実施が必要な教育ごとに、受講対象者の選定や教育を実施する日時・場所・講師の選定に関する年間計画を作成します。

計画がない状態で実施する教育は、準備が大変になるではなく、受講する労働者にも大きな負担を強いてしまいます。業務調整がしやすくなるように、中長期的な計画を作成しましょう。

教育内容の充実

各教育の内容が、受講者にとって有益なものになるように教育内容を充実させます。教育内容を充実させるには、以下の点を考慮して教育を実施します。

  • 教育内容に関する知識や経験及び、教育技法に関する知識や経験を十分に有する人材が講師を行う
  • 受講者が理解しやすいように視覚教材などを活用し、労働災害事例等を含めた具体的な内容のカリキュラムを構築する
  • 座学だけでなく、現場での実習や受講者が中心となって進める事例研究など、実務でも活用できるような工夫を行う
  • あえて危険を体感することで、受講者の危険に対する感受性を高める手段も検討する
  • 若年層に対しては、従事する業務特有の危険性や有害性、作業手順などの実践的な受け入れ教育を行う
07. テンプレ-教育訓練

安全衛生教育センターの活用

安全衛生教育の水準向上を目的として、企業・業界団体・公益社団法人などによって「安全衛生教育センター」が全国各地に設置されています。

安全衛生教育センターでは、安全衛生教育の質を高めるために必要不可欠な「講師の養成」や「責任者の資質向上」などに関する講座を開設しています。安全衛生教育を受講する労働者の理解を深めるためにも、安全衛生教育センターを活用して講師を養成したりすることは有効です。

安全衛生教育に関する注意点

安全衛生教育を行う際には、以下の点に注意します。

安全衛生教育受講時の給与など

安全衛生教育は、事業者ではなく使用者(労働者)の責任で実施することが義務付けられています。しかし、使用者が従事する業務は事業者の指示によって決まるため、原則は所定労働時間内に行わなければなりません。

休日などの所定労働時間外に行う場合には、割増賃金を支払う必要があります。社内ではなく外部での教育を受講する場合には、事業者が費用を負担するべきです。

教育時間の確保と日本語以外を扱う労働者の教育

安全衛生教育は、単に教育の機会を提供するだけのものではありません。労働者が従事する業務に関する理解度を確認する機会にもなります。そのため、安全衛生教育を行う際にはマニュアルを提供するだけではなく、指導者が直接教育を行うことが大切です。

また、日本では多くの外国人労働者が活躍しています。日本語での教育だけではなく外国人労働者の母国語を用いた教育機会を提供しましょう。

安全衛生教育の記録

安全衛生教育のなかでも「特別教育」に関しては、受講記録の保管が義務付けられています。一方、特別教育以外では、記録保管に関して法的義務はありませんが、保管しておくことでさまざまなメリットが得られます。

受講記録が保管されていれば、受講計画の立案や人員配置の検討に活用できます。また、労働災害が発生した際に、トラブル回避に役に立照られる場合もあります。

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