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2024.12.4
少子高齢化の進行にともない、1995年以降、生産年齢人口の減少が進んでいます。国立社会保障・人口問題研究所によれば、生産年齢人口は2020〜2060年の40年間にかけて約2,400万人もの減少すると見込まれており、大きな社会問題となっています(※1)。
また、経済産業省「2023年版 ものづくり白書」では企業(製造業)の約56.3%が、「事業に影響を及ぼす社会情勢の変化」として「人手不足」を挙げました(※2)。
このような課題に対し、「業務平準化」や「業務標準化」などの施策が注目を集めています。「業務平準化」や「業務標準化」を効果的に実施するには、具体的な施策内容や事例を知っておくとよいでしょう。
この記事では、業務の平準化について、その意味や標準化との違い、製造業において重要な理由などを解説します。 (※1)出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2023)改訂版」
(※2)出典:経済産業省「2023年版 ものづくり白書」
業務平準化とは、従業員の作業や業務量、業務における身体的負担やストレスをできるだけ均一にすることを指します。たとえば、特定の従業員やチームが抱える業務量や業務負担が偏っている場合、余力のある従業員やチームに業務を分配することが挙げられます。
業務平準化は、人的リソースの有効活用を促すため、組織全体がムダのない状態で製造業務に取り組めます。
業務平準化と似た言葉に「業務標準化」があります。
業務の標準化とは、従業員の業務方法やプロセスを統一し、どの従業員が行っても業務品質を一定にすることを指します。具体的な施策として、業務内容やプロセスをマニュアル化し、従業員に教育することが挙げられます。
なお、業務の平準化と業務の標準化の定義は、以下のとおりです。
このように、平準化と標準化は全く意味が異なります。意味を理解したうえで、自社の課題や目的に合わせた施策を実行することが大切です。
関連記事:業務標準化とは?業務標準化のメリットと進める手順を解説
少子高齢化によって生産年齢人口が減少しており、どの業界においても人員の確保は大きな課題です。
とくに、多品種少量生産に取り組む製造業においては、人手不足になると既存の生産ラインを継続できなくなるリスクがあります。人手不足の状況においても従来どおりの生産効率を上げるためには、従業員や生産ラインの業務効率を高め、組織全体として生産力を高める施策を打つ必要があります。
業務平準化では、人手不足の解消以外にもさまざまなメリットがあります。ここでは、製造業で業務平準化が求められる理由を解説します。
製造業では、生産ラインを高く維持するための生産力が企業経営の要です。たとえば、業務が特定の従業員に偏っている状況では、その従業員に大きな負荷をかけることになります。その結果、業務効率の低下やミスの発生などで生産力が低下してしまうリスクが高まります。また、生産力が低下すると製品の出荷が遅れてしまい、得意先からの信頼を失います。
業務平準化では、従業員や生産ラインの業務内容の偏りや不公平な労働環境を解消に導く施策を実行できるため、生産ラインの効率化につながります。
製造業が抱える課題に、人員の確保が挙げられます。生産ラインや従業員が抱える業務内容の偏りや不公平な労働環境がある状態では、従業員に過度なストレスを与えてしまい、離職率も高まります。
業務平準化では、業務内容の偏りや不公平な労働環境を改善に導く施策を実行するため、従業員一人ひとりがストレスフリーな環境下で業務に従事できるようになります。その結果、離職の防止だけでなく、生産性や品質の維持・向上も図れます。
組織全体を適正に運営するためには、従業員の個々の能力に依存しない体制づくりが大切です。特定の個人の能力や知識に依存してしまうと、その人が休職・退職した際に業務効率が大幅に低下したり、生産ラインでのミスが多発したりする可能性が高くなります。
業務平準化ではチーム全体で従業員一人ひとりの業務を可視化でき、それぞれが業務方法や業務プロセスを理解できるようになります。ある従業員が不在であっても、他の従業員で業務のカバーができるため、業務の品質や生産性の維持・向上につながります。
製造業における業務平準化の代表例として、トヨタ自動車の「ジャストインタイム方式」が挙げられます。この方式は日本のみならず、世界の製造業にも採用されている生産管理システムです。この方式をひも解くことで「業務平準化」の必要性やポイントを理解することができます。
トヨタ自動車のジャストインタイム方式とは、「必要な部品を必要な時に、必要な量だけ生産する」という考え方に基づく生産管理システムのことを指します。具体的には、製品の完成から逆算し、後工程の担当者が必要な部品だけを前工程へ引き取る方法です。
この方式は在庫管理の適正化を目的としており、従来の方式で生じていた不要な在庫を削減できます。さらに、余剰分の在庫管理のコスト削減にもつながるため、現在ある人的リソースも最大限に活用できるメリットがあります。
ジャストインタイム方式を実現させるためには、「平準化生産」を整えておく必要があります。この「平準化生産」とは、製品に必要な部品の種類や生産量を安定化させることです。
もし、製品に必要な部品の種類や生産量にばらつきがあった場合には、過剰な生産によって在庫の余剰が生まれたり、必要な時に在庫を供給できなくなったりと、ジャストインタイム方式の実現から遠ざかってしまいます。
ジャストインタイム方式が実現できれば、製品の生産に必要な人員や在庫を最小限に抑えることができます。また、従来の方式で発生していた余剰部品の生産や在庫管理などの業務をなくせるため、従業員一人ひとりの負荷を軽減し、生産性や品質の維持・向上につながります。
その他のジャストインタイム方式のメリットとしては、製品の製造から顧客への提供までのリードタイムを短縮できることが挙げられます。
製造業で業務平準化を実現するための重要なポイントは、業務状況の適切な把握や役割分担、また、業務のマニュアル化・システム化です。その一つひとつを丁寧に実行することで、強固な生産ラインを構築でき、長期的に安定した製品の生産体制の構築が可能となります。
なお、業務平準化は、以下の6つの手順を踏むことで実現します。
業務平準化を実現するにあたって、現場が抱える課題を正確に把握しておく必要があります。具体的な課題に対して、適切な施策を実行しなければ大きな効果が得られないためです。
まずは各生産ラインや各従業員が抱えている業務量や業務内容、業務プロセスなどを調査し、課題を可視化するようにしましょう。その際、各従業員が抱えるスキルや保有資格なども把握しておけば、より効果的な施策が展開しやすくなります。
現場で生じる課題の多くは、業務量や業務内容の偏りが原因です。はじめは小さな偏りであったとしても、長時間解消されていない状態が続けば、いずれ大きなトラブルにつながります。
業務量や業務内容などの調査で得られたデータをもとに、このような偏りや違和感が生じていないかを確認することが大切です。業務量や業務内容、業務プロセス以外にも、稼働時間や稼働量、またストレスチェック結果などを分析していけば、より現場の状況を正確に把握できます。
業務平準化を実現するにあたって、業務の属人化を解消する必要があります。
そもそも業務は、ルーティンワークとしてどの従業員も担当できる「定型業務」と、特定の個人が有する経験やノウハウ、情報などに依存する「非定型業務」に分かれています。「非定型業務」は属人化しているケースが多く、これをどの従業員でも担当できるようにすることが重要です。
その方法の一つとして、非定型業務のマニュアル化が挙げられます。対象業務や業務目的の明確化、構成案の作成やマニュアルに必要な素材の収集などの工程を経て、組織全体に特定の個人が抱える経験やノウハウが共有されるようになります。
詳細な方法は別記事でまとめているため、本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:製造業にとって効果的なマニュアル作成とは? 作成の手順とポイントを解説
組織全体の人的リソースを最大限に活用するためには、従業員ごとの適性に応じた役割・業務の分担が必要です。
経歴や勤続年数はもちろん、スキルや保有資格、経験などを確認してそれぞれの従業員の適性にあった役割・業務を決めましょう。決定した役割や業務を明確化することで、従業員一人ひとりの責任感を強めるだけでなく、組織全体で業務の管理がしやすくなります。なお、スキルや資格情報を管理するには、スキルマップの活用も有効です。
関連記事:スキルマップとは? 目的、メリット、作り方、トヨタの活用例、職種別の項目例を解説【エクセルテンプレートあり】
業務平準化をより効果的に進めるためには、業務の遂行に必要な作業を「自動化=システム化」させることも大切です。
具体的には、データを入力する業務はOCR(文字認識システム)やRPA(単純作業の自動化システム)、日程調整やタスク管理にはスケジューラーシステムやガントチャートシステムなどを活用することがよいでしょう。
また、従業員一人ひとりのスキルや保有資格を一元管理して人員配置や教育計画を最適化できる「スキル管理システム」の活用も効果的です。
関連記事:【徹底解説】スキル管理システムとは? 導入メリットと効果、活用シーン、システムの種類について
業務平準化を長期的に継続させるためには、定期的なメンテナンスが必要です。施策を実行してから時間が経つにつれ、社内の状況や周囲の環境は変化していきます。離職による人員の増減や、経験やノウハウを積んだことによる従業員の成長なども当然のように生じます。
そのため、施策を実行してから一定期間ごとに、実行した施策の効果検証や新たな課題の調査などを行うことが大切です。そのためにもスキルマップやスキル管理システムを活用して、日々の変化や記録を定期的に更新して従業員のスキルや資格、経験に関する情報が最新の状態に維持できるようにしておきましょう。
業務平準化の実現には、大規模な対応が求められることも多いです。そのため、あまりにも裾野を広げてしまうと収拾がつかず、効果的に進まないケースもあります。
業務平準化に取り組む際には、以下の2つのポイントを押さえておきましょう。
事業や生産ラインの業務進捗に合わないタイミングで施策を実行した場合、業務平準化による効果を得られないだけでなく、生産業務に支障を来たす恐れがあります。
施策の効果を得やすくするためにも、「施策の対象となる生産ラインを限定する」「小規模な施策から着手する」などのスモールスタートを心がけるようにしましょう。
施策を段階的に進めることにより、現場の負荷を抑えつつ、効果を少しずつ検証しながら無理のない業務平準化を図れます。
事業を安定的に運営していくためには、従業員一人ひとりが業務を円滑に進めるためのスキルを保有しておく必要があります。スキルを最大限に活用できれば、従業員の労力を最小限に抑えながら、最大限の生産性で利益を出せるようになります。これは「スキル管理」の考え方です
「スキル管理」をスタートするには、「スキルマップ」の活用がおすすめです。スキルマップとは「業務で必要なスキルを洗い出し、各従業員の持っているスキルを一覧にした表」を指します。個々のスキルや資格の保有状況をパッと可視化でき、スキルや資格に応じた適材適所の人材配置や、人材の採用、教育・育成に活用できます。
このスキルマップをシステム化して情報の登録や更新を手軽にしたのが「スキル管理システム」です。スキル管理システムでは一元化されたスキル・資格・教育情報をベースに客観的な人員配置や教育計画を立案できます。
スキルや資格の過不足が一元管理されていることで、無駄のない人員配置や教育を実現ため、業務平準化も促します。
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●スキル管理がうまくいかない理由
●スキル管理を成功させる3つのポイント
業務平準化とはどういう意味ですか?
業務平準化とは、従業員の作業や業務量、業務における身体的負担やストレスをできるだけ均一にすることを指します。たとえば、特定の従業員やチームが抱える業務量や業務負担が偏っている場合、余力のある従業員やチームに業務を分配することが挙げられます。
業務標準化と平準化の違いは何ですか?
業務の平準化と業務の標準化の定義は、以下のとおりです。
・平準化:業務で生じる負荷を一定に保つこと
・標準化:業務の品質を一定に保つこと
トヨタの平準化とは?
トヨタ自動車のジャストインタイム方式とは、「必要な部品を必要な時に、必要な量だけ生産する」という考え方に基づく生産管理システムのことを指します。具体的には、製品の完成から逆算し、後工程の担当者が必要な部品だけを前工程へ引き取る方法です。
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