ヒューマンスキルとは? テクニカルスキルやコンセプチュアルスキルとの違い、8つの構成要素、向上させる方法を解説
円滑に仕事をしていくためには、個々の知識や経験などのスキルはもちろんですが、良好な人間関係の構築につながる「ヒューマンスキル」も重要です。一人ひとりのスキルが高くても、コミュニケーションがうまくいかなければトラブルを招きかねません。またヒューマンスキルが高い人材がいることで、業務効率化にもつながるでしょう
ここでは、ヒューマンスキルの定義、テクニカルスキルやコンセプチュアルスキルとの違い、注目される理由、8つの構成要素、向上させる方法などを解説します。
ヒューマンスキルとは
ヒューマンスキルとは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツ(以下、カッツ)が提唱した、ビジネススキルと人材の関係性に関する理論「カッツ理論」の重要な要素の一つです。1955年に提唱されたカッツ理論は、現在でも多くのビジネスパーソンに影響を与えています。
カッツ理論では、各職種に必要なスキルは3種類に分類され、役職などの違いによりスキルの比率が変化すると説いています。それぞれのスキルの特徴を紹介しましょう。
ヒューマンスキル
他人と良好な人間関係を築き上げ、円滑なコミュニケーションを行うために必要なスキルです。対人関係能力とも言い換えられます。どんなに優れたアイデアを持っていても、社内外に伝える能力がなければ仕事につながりません。高いヒューマンスキルを持った社員がいれば、スムーズなコミュニケーションが可能です。仕事の質にも密接につながるスキルといえます。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、業務を行うために必要なスキル「業務遂行能力」です。営業職ならば、交渉力やコミュニケーション力のスキル、デザイナーならばデザインに関する専門知識や、各種デザインツールへの知識力、目的にあわせて表現する技術力なども含まれます。
外国語や正しい敬語など、言語を学び習得する能力、さらに情報収集力なども、テクニカルスキルです。高いテクニカルスキルを持つ人材がいることは、組織の競争力強化にもつながります。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、物事を概念化して本質を的確に把握する力です。概念化とは、個別の物事から共通項を見つけ出し、体系的にまとめ上げることです。コンセプチュアルスキルが高い人材は物事の本質を見抜ける力があるため、トラブルが発生しても根本的な課題に気づきやすく適切な判断が下せます。管理職に求められるスキルの一つです。
ヒューマンスキルは、全社員に求められるスキル
ロバート・L・カッツは、組織における役職を3つの職位層(トップマネジメント層(経営者層)・ミドルマネジメント層(管理者層)・ロワーマネジメント層(監督者層))に分けています。3つのスキルが必要な度合いは、各職位層によって異なります。
コンセプチュアルスキルは
ロワーマネジメント層<ミドルマネジメント層<トップマネジメント層
と、高い職位になるほどスキルの重要度が高まります。一方、テクニカルスキルはその逆で
ロワーマネジメント層>ミドルマネジメント層>トップマネジメント層
と、トップマネジメント層になるほど重要度が下がると言われています。
しかし、ヒューマンスキルだけは、職位に関係なく必要だと考えられています。全社員が、日々向上を目指すことで社内改革にもつながりやすいスキルなのです。
ヒューマンスキルが注目される理由は?
ヒューマンスキルは、組織の競争力向上に必要な要素です。しかし、国家資格のように明確に示せるものではないため、判断が難しいスキルでもあります。ではなぜ、ヒューマンスキルは、注目されているのでしょうか。
グローバル化、価値観の多様化など、時代の流れに適応するため
昨今、ダイバーシティの推進やグローバル化などの背景により、企業ではさまざまな価値観を持つ人材が活躍しています。異なる個性を持つ職員が一丸となりビジネスを成功させるためには、互いに尊重し合いながら、円滑なコミュニケーションを取ることが大切です。高いヒューマンスキルがあれば、たとえ予想不可能な状態に直面しても、周囲の協力を得るなどして適切に対応できるはずです。
また、先進技術の急速な発達により、多くの仕事がAIに置き換わると言われています。機械にはできない、より深い思考が必要な仕事をするためにも、ヒューマンスキルが重要なのです。
チームワークの強化や成長につながるため
ヒューマンスキルの向上には、自分自身の強み・弱みを知ることが大切です。自分を見つめることで、個々の成長にもつながります。
ヒューマンスキルの高い人材が多い組織は、必要な情報が円滑に伝達できるため、ビジョンの共有などもスムーズに行える特徴があります。
人材の定着率向上を目指し、人材育成への意識の高まり
どの企業でも、優秀な人材の獲得に力を入れています。しかし厚生労働省によると、令和2年3月卒業後に就職した人の3年以内の離職率は、中卒50.5% (前年差−2.4P)、高卒38.4% (+1.4P)、短大等卒44.6% (+2.0P)、大卒 34.9% (+2.6P)と、中卒以外では前年度よりも増加。入社しても3年以内に多くの人材が離職している現状があります。
働きやすい制度づくりも重要ですが、モチベーションが高まる風土づくりも大切です。ヒューマンスキルの向上は、定着率アップにも貢献するスキルします。
顧客対応の改善が期待できる
ヒューマンスキルは社内だけではなく、社外との関係性を築くうえでも大切です。顧客とのあいだに問題が発生しても迅速で適切な対応ができるため、顧客との信頼関係の改善も期待できます。
ヒューマンスキルが低い場合
クライアントと直接交渉しない部署や技術職などでは、ヒューマンスキルが低くても問題ないと思う方もいるかもしれません。しかし、ヒューマンスキルが低いと、ビジネスの基本である「報連相」が円滑にいきにくくなり、ミスにつながる可能性もあります。ミスをしてしまうとモチベーションが下がり、生産性の低下を招きかねません。組織にとっても、技術職員にとってもヒューマンスキルの向上は重要な要素なのです。
ヒューマンスキルを構成する8つの要素
ヒューマンスキルは、リーダーシップやコミュニケーションスキルなどを含む8つの要素で成り立っています。
リーダーシップ
組織をまとめ、目標に向かって導いていく「リーダーシップ」です。リーダーシップの種類は、1つではありません。常に強い信念を持ち組織を引っ張るリーダーシップもあれば、メンバーと同じ目線を大切にするタイプなどさまざまです。組織のフェーズやメンバーの特性に合ったリーダーシップの発揮が大切です。
コミュニケーション能力
コミュニケーション能力とは、情報共有や意思の疎通をスムーズに行える力です。コミュニケーション能力の向上を目指す際、多くの人は「伝え方」に意識を向けがちです。
しかし、コミュニケーションは双方向に取るものです。伝達だけではなく、相槌の仕方やヒアリング時の表情など「相手からの情報を、どう受け取るか」にも気を配る必要があります。
外向的な人はコミュニケーション能力が高いと思われがちですが、一概にそうとは言えません。内向的な性格でも、高いコミュニケーション能力を持っている方は多くいます。「私は内向的だから……」とあきらめずにコミュニケーション能力を磨いていけば、ヒューマンスキルもアップし、なりたい姿に近づける可能性はあるのです。
ネゴシエーション能力
日本語で「交渉力」といわれるスキルです。主に、互いの利害や意思を調整し、合意を目指す際に役立ちます。商談時にも有効ですが、社内での合意形成時にも重宝します。互いに納得感のある結果に導くためには、双方の意図を大切にしながら解決の糸口を探る柔軟性も必要です。
プレゼンテーション能力
情報やアイデアを他の人に理解してもらうために必要なスキルです。自社のサービスを他社に営業をかける際や、社内企画を通すときなどに行われます。どんなに素晴らしい内容の提案でも、プレゼンテーションがうまくいかなければ、相手には伝わりません。そのため、プレゼンテーション能力の向上は、ビジネスパーソンにとって大切な要素となります。
コーチング能力
対話や質問などを通して、相手の能力を引き出しながら、課題解決へと導けるようにサポートするスキルです。安易に解決方法を教えてるのではなく、当人が解決方法を模索し、生み出していけるようにサポートしていくため、コーチングを受けた側の社員には主体性が生まれます。のちには自分でも課題解決できるようになります。コーティングを受けた社員は、リーダーにふさわしい人材に成長していく可能性を秘めています。
傾聴力
相手の話をしっかりとヒアリングし、理解するスキルです。こちらが聞きたいことではなく、相手が伝えたいことに集中して傾聴します。しかし、ただ聴くだけではなく、相手の言動の背景まで引き出していくことが大切です。質問力、共感力、フィードバック力など、さまざまなスキルが必要です。
ファシリテーション能力
会議やワークショップで、グループの交流や意見交換、協力などを促して、円滑に進行するためのスキルです。高いファシリテーション能力があると、場を和ませ発言しやすい雰囲気を作れるため、たくさんのアイデアが生まれやすくなります。効率的に会議が進行し業務効率化にもつながります。
向上心
現状に満足せず、より良い方向に向かうために努力する心のことです。常にスキルアップを目指してさまざまなことを学び、挑戦する気持ちが大切です。向上心があると、人からの助言を素直に受け入れられるため、さらなる成長へとつながります。組織のリーダーが前向きにチャレンジしていく姿を見せることは、部下に良い影響を与えます。上層部からも信頼を得て、自身の評価にもつながるでしょう。
ヒューマンスキルを向上させるメリット
職場の環境改善
ヒューマンスキルの高い人材が集まると、情報伝達が円滑になります。職場の上司や部下、同僚などのコミュニケーションもスムーズになり、職場の雰囲気も向上します。業務効率も上がり、ミスの軽減にもつながります。
従業員のモチベーション向上
風通しのいい職場環境づくりがしやすくなれば、従業員の満足感も上がり、個々のモチベーションアップにもつながります。結果的に、従業員の定着率も向上するでしょう。部下がしっかりと育ってくれることで、戦力となる人材が増えていき生産性が高まります。
顧客からの信頼獲得
ヒューマンスキルは、社内だけではなく顧客との関係性構築にも有効です。顧客の要望を丁寧に傾聴して引き出し、スムーズに対応していくことで、顧客との信頼関係が築けます。顧客満足度が高まれば、優良客となっていただける可能性もあります。
なお、ヒューマンスキルは目に見えにくいものですが、マニュアルとして残すことも可能です。マニュアル化することで、改善点が明確になり、より顧客満足度の高い対応が可能となります。
ヒューマンスキルを向上させる方法
ヒューマンスキルは、ビジネスパーソンに必須なスキルです。個人も企業もさらなる成長を目指すため、ヒューマンスキルを高める方法を紹介します。
社内外の研修やセミナーの実施
ヒューマンスキルを学ぶための研修への参加や、専門家を招いて自社開催をして、スキルを高める方法があります。実際の業務を想定した内容を盛り込み、グループディスカッションやロールプレイなどをしていくと、より実践的な内容となります。
評価の指標に取り入れる
「ヒューマンスキルの向上を目指しましょう」と周知しワークショップなどを実施しても、なかなか定着しにくい可能性があります。定着を目指すなら、ヒューマンスキルを評価の指標に取り入れることが有効です。
人事評価項目にヒューマンスキルの項目を追加すれば、会社側の求めていることが共通認識できます。スキルを磨くことで評価に影響があるとなれば、自然とヒューマンスキルを高めようと努力する人が多くなるはずです。
しかし、評価制度が曖昧な場合は、逆効果となりモチベーションの低下につながりかねません。人事評価に加える場合は、客観的な評価基準を設けるといいでしょう。
たとえば、一人のメンバーに対して複数人で評価する「360度評価」を取り入れるなど、より多角的で客観性のある評価制度が理想です。
目標設定、PDCAサイクルを回し、1on1ミーティングを実施
ヒューマンスキルを高めるためには、自分の現状を把握し目標設定をすることが大切です。そのうえで、フィードバックを得られる環境づくりをし、PDCAサイクルを回していくと効果的です。
フィードバックは、上司の部下の1on1ミーティングで行うことで、部下の成長度合いやモチベーションの変化などがわかりやすくなります。上司自身のヒューマンスキル向上にも役立つでしょう。
スキルを可視化するシステムを取り入れる
ヒューマンスキルの向上を目指し研修を取り入れても、効果はわかりにくいものです。自身の特徴やスキルを可視化できるシステムを導入すると促進や管理がしやすくなります。いくつかのシステムを紹介しましょう。
TA PACK SYSTEM®(株式会社ヒューマンスキル開発センター)
TA(Transactional Analysis交流分析)のエゴグラム理論に基づいて開発された、性格分析システムです。コミュニケーションの傾向や人柄の特徴を把握できます。実施する際は、マークシート方式かWeb方式を選択して行います。採用時はもちろんですが、ヒューマンスキル研修時に導入すれば、自分の傾向を理解したうえでの学びにつながります。
HQ Profile(株式会社セゾンパーソナルプラス)
ヒューマンスキルを9つの力と36の詳細項目で可視化できるツールです。パソコンで設問に回答すると、約1分で受診結果がわかります。同時に「ストレス状態」や「中核的自己評価」も測定可能。定期的に測定することで社員の成長が可視化できます。研修後の効果測定やメンタルヘルス対策の指標として活かせる測定システムです。
ヒューマンスキルの高い人材を採用する方法
ヒューマンスキルを見極めるための面接時の質問とは?
面接時にヒューマンスキルを見極めるポイントは、大きく3つあります。それぞれに気を配りつつ、ヒューマンスキルの高い人材を採用し、ビジネスのさらなる発展につなげましょう。
「質問の意図をしっかりと把握しようとしているか」をチェックする
相手がなぜその質問をしたのか、その意図を把握しようとする姿勢は、ヒューマンスキルがあるからこその行為です。面接官の話にわからない点があれば、確認できるスキルがあるかもポイントとなってくるでしょう。
たとえば「学生時代に力を入れたことは何ですか?」という一般的な質問でも、意図を汲めるスキルの有無が判断できます。この質問をする際は、学生時代に熱中したことを軸に、求職者の取り組む姿勢などを見極めたいという面接官側の意図があるはずです。それを汲んだ内容かどうかをしっかりと観察していくといいでしょう。
「わかりやすく伝えられるか」をチェック
面接官からの質問に対して、わかりやすい順序で回答ができているかも、大きなポイントです。たとえスムーズに話ができたとしても、内容が伝わらなければ意味がありません。このチェックは、ヒューマンスキルのプレゼンテーション能力の確認にもなります。
質問内容としては、「自己紹介をお願いします」や「大学での研究内容について詳しく教えてください」などの、オーソドックスな問いで、ある程度把握できるはずです。
ヒューマンスキルを発揮した事例の「背景」を確認する
休職者が過去に、リーダーシップや向上心などの「ヒューマンスキルを構成する8つの要素」を発揮した具体的な実績を、直接聞くことも有効です。その際、「なぜ」「どのように」「どれくらいの期間」「どのような変化があったか」など、事例の具体的な背景をヒアリングしていくことで、ヒューマンスキルの有無が確認できるはずです。
人材育成や採用にヒューマンスキルの観点を取り入れ、企業のさらなる飛躍を目指していきましょう。
人材マネジメントは「スキル」で加速する!
スキル管理の定番システムと言えば「Skillnote」!
●スキルマップのシステム化でスキルをまとめて管理できる
●スキルに紐づいた根拠に基づいた育成計画をつくれる
●資格に関する全てのデータをシステム上で徹底管理
よくある質問
- ヒューマンスキルの例は?
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ヒューマンスキルは、リーダーシップやコミュニケーションスキルなどを含む8つの要素で成り立っています。
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- ネゴシエーション能力
- プレゼンテーション能力
- コーチング能力
- 傾聴力
- ファシリテーション能力
- 向上心
- ヒューマンスキルを高めるには?
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ヒューマンスキルは、ビジネスパーソンに必須なスキルです。下記の方法で高めることができます。
- 社内外の研修やセミナーの実施
- 評価の指標に取り入れる
- 目標設定、PDCAサイクルを回し、1on1ミーティングを実施
- スキルを可視化するシステムを取り入れる
- 「ヒューマンスキル」の言い換えは?
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ヒューマンスキルとは、他人と良好な人間関係を築き上げ、円滑なコミュニケーションを行うために必要なスキルです。対人関係能力とも言い換えられます。