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2024.6.17
ロケットや航空機の開発にとどまらず、人工衛星を活用した事業の拡大など、近年、航空宇宙業界は大きなさらなる盛り上がりを見せています。 そんな宇宙航空業界の品質保証に欠かせないのがJIS Q 9100です。
この記事では、JIS Q 9100の定義や目的、取得のメリット、やISO 9001との関係や違いについて解説します。
JIS Q 9100とは、航空宇宙業界における品質マネジメントシステムの規格のことです。米国のAS9100と欧州のEN9100と並び、航空宇宙業界における世界標準の品質マネジメント規格と言えます。
また、JIS Q 9100のベースになっているものが、国際航空宇宙品質グループ(IAQG)が作成した9100規格。ちなみに、IAQGは世界中の宇宙・防衛企業の代表者で構成されています。
JIS Q 9100を取得するとIAQGのベンダーリストであるIAQG-OASISデータベースに登録されます。
なお、JIS Q 9100の認証は、航空・宇宙・防衛分野の製品を設計・開発・製造する組織だけではなく、商社や修理など関連するサプライチェーン全般で取得できます。日本では700を超える事業所が取得しています。
関連記事:QMS(品質マネジメントシステム)とは? 目的、規格、ISO 9001要求事項との違いやQMS構築時のポイントを解説
JIS Q 9100の目的は、「航空宇宙・防衛産業における顧客および規制要求事項を一貫して満たす製品・サービスの提供」です。
航空宇宙業界において安全性や信頼性の高い製品の提供を目指すための規格であると言えます。
なお、その根本的な考え方はより広い品質マネジメントシステム規格であるISO 9001と同じです。
先述のIAQG-OASISデータベースは世界共通データベースに認証情報が登録、公開されます。
したがって、JIS Q 9100を認証取得すれば世界の航空宇宙メーカーと取引機会が得られます。
JIS Q 9100による品質マネジメントシステムは、安全・信頼性に関するリスクマネジメントに特化した規格です。そのため、高度な品質マネジメントシステムを構築できます。
JIS Q 9100の認証取得で顧客からの監視が免除、もしくは簡略化される場合があります。顧客、認証取得した企業ともに、監査などの費用が軽減されます。そのためコストダウンが可能です。
また品質マネジメントシステムの改善により品質が向上すれば、不良品やリコールを減らせます。ここでもコストダウン効果が期待できます。
JIS Q 9100では、ISO 9001をベースに航空・宇宙・防衛分野固有の要求事項が追加されています。
そのため、JIS Q 9100の要求事項はISO 9001の要求事項+JIS Q 9100の追加要求事項となります。
しかし、JIS Q 9100の審査対象としては、さらに顧客/法令・規制上のQMS要求事項が追加されるため、注意が必要です。
関連記事:ISO 9001とは? 目的、メリット、要求事項、取得の流れを解説
ISO9001からJIS Q 9100に追加された要求事項のうち、代表的な4つを解説します。
JIS Q 9100では、製品の安全性や信頼性を確保するために、設計開発プロセスにおいて適切な品質マネジメントが行われることが求められています。
例えば、設計開発プロセスにおける設計要求の明確化やリスク評価、検証・承認手順の確立などが求められます。
また、設計変更管理プロセスも重要です。変更が適切に承認され、変更後の製品が要件を満たしていることがきちんと確認される必要があります。
特に安全性、性能、形状、取付け、機能、製造性、耐用年数などを左右するアイテムを「クリティカルアイテム(critical items)」として特定し、適切なマネジメントを行います。
また、そのばらつきが製品に重大な影響を与える特性を「キー特性(key characteristic)」と言い、ばらつきを管理するための処置を行います。
航空宇宙製品において安全性は、人命にかかわる重大な問題です。そのため、JIS Q 9100では製品安全に関する品質マネジメントを行います。
具体的には、製品の安全性に関するリスク評価や安全性確保のための対策の策定・実施が求められています。安全性確保のための情報共有や報告体制の確立も重要と言えます。
航空機部品は、航空機全体の安全性や信頼性に大きな影響を与えます。そのため、部品自体に関する要求事項が追加されています。
一例としては、部品の特定や追跡性の確保、部品製造プロセスの管理、部品取引先との情報共有などが求められています。なお、部品取引先の選定基準や評価方法も明確化されています。
また、正規製造業者や承認された製造業者の純正指定品ではなく、それらに故意に偽られた無許可の複製品を「模倣品(counterfeit part)」と呼びます。模倣品の使用を防止するプロセスを持っておく必要があります。
航空機整備は、航空機の安全性や信頼性を確保する上で重要な役割を担っています。そこでJIS Q 9100でも、 航空機整備に関する要求事項が追加されています。
例えば、整備プロセスの管理や整備作業者の資格・能力管理、整備記録の管理などが求められています。また、整備作業者と顧客とのコミュニケーションや情報共有も大切です。
宇宙航空産業は、人類にとって未知の領域であり、高度な技術力が求められる分野です。主な市場は、通信衛星の打ち上げや国際宇宙ステーションへの補給など。これらは今後も拡大が見込まれており、特に衛星通信市場は急速に成長しています。
また、近年では民間企業の参入や、宇宙観光、小型衛星の打ち上げなど、新たな市場も生まれています。これらの市場はまだ開拓途上ではあるものの、今後も成長が見込まれている分野です。
2020年の市場規模は3000億ドル程度ですが、2040年には3倍の1兆ドル規模になると言われており、今後もますます市場拡大が見込まれる注目分野と言えるでしょう。
今後も宇宙航空産業の成長が見込まれることに伴い、関連企業にはより高度な技術力や品質マネジメントシステムが求められます。
また、参入企業が増加すれば他企業との差別化が必要となります。認証取得に大きなメリットのあるJIS Q 9100は、今後ますます航空宇宙業界では重要な規格となっていくでしょう。
市場拡大が見込まれる航空宇宙業界では、市場競争の激化が予想されます。
厳しい競争に勝ち抜くためにもJIS Q 9100の認証取得は今後ますます重要度を増していくことでしょう。関連企業・組織の方は認証取得を検討されてはいかがでしょうか。
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