マスカスタマイゼーションとは?メリット、課題、ポイント、実現するための技術を解説

近年のIT技術の進化やグローバル化にともなって、さまざまなモノが溢れるようになりました。このような影響もあり、顧客が商品に求めるニーズは多様化しており、企業は多様化したニーズへの対応が必要です。
こうした時代背景を踏まえて、製造業では新たな生産方式である「マスカスタマイゼーション」という考え方が注目を浴びています。ただし、実現には大きな手間やコストがかかり、理解せずに進めてしまうと損失が生まれかねないという課題もはらんでいます。
もし「マスカスタマイゼーション」の実現を検討していれば、まずは基本的な知識や必要な技術を理解し、自社の状況にあわせて実現に向けたアクションをおこなう必要があるでしょう。
本記事では、マスカスタマイゼーションについて、メリットや課題、また、ポイントや実現するための技術を解説します。
目次
マスカスタマイゼーションとは、大量生産と受注生産をかけあわせた言葉
「マスカスタマイゼーション」とは、「大量生産(Mass production)」と「受注生産(Customization)」を掛け合わせた言葉です。具体的には、共通する部品はあらかじめ大量に生産しておき、顧客からの受注の際に個別で組み立てる方式となっています。
このマスカスタマイゼーションは、生産における効率性と柔軟性の両立を目的としており、実現できれば生産効率を高めながら顧客別のニーズに対応できます。また、他にも生産にかかるコストの削減やリードタイムの短縮などのメリットも受けることが可能です。
マスカスタマイゼーションは、DELLやナイキなどの世界を代表する企業が実現しています。国内においても総務省が注目している方式であり、2018年の「情報通信白書」において欧米の事例を紹介する際に言及しています。
参考:総務省「平成30年版 情報通信白書|インダストリー4.0とは」
マスカスタマイゼーションが求められる背景
そもそもマスカスタマイゼーションの考え方は、1990年代に登場したとされています。具体的には、経営アドバイザーや講演家として活躍するジョー・パイン氏の著書『マス・カスタマイゼーション革命─リエンジニアリングが目指す革新的経営』によって提唱されました。
この考え方が提唱された当時では、マスカスタマイゼーションを実現できている企業が少なかったと言われています。しかし、今日において、さまざまな背景から重要視されています。ここでは、マスカスタマイゼーションが求められる背景について、解説します。
【消費者側】顧客ニーズの多様化
近年のIT技術の進化やグローバル化にともない、さまざまなモノが溢れるようになりました。また、インターネットの普及によって顧客は自らが望んだ商品を入手することが容易となりました。これらの結果、現在、顧客が求めるニーズは多様化しているのです。
マスカスタマイゼーションは顧客ごとにカスタマイズした商品を提供する生産方式であり、多様化された顧客のニーズと合致します。
【企業側】企業の競争優位性の確保
時代の流れで顧客のニーズが多様化したことによって、企業としてはさまざまな商品を提供しなければなりません。しかし、企業にとって商品の種類を増やすことは、生産ラインや人的リソースの圧迫につながります。
マスカスタマイゼーションは、大量生産と受注生産の融合による生産方式であるため、商品の種類が増えても生産に必要なコストを抑えることが可能です。そのため、マスカスタマイゼーションを実現している企業とそうでない企業との間に大きな差が生まれ、マスカスタマイゼーションを実現した企業は市場において他社よりも優位に立てます。
マスカスタマイゼーションのメリット
マスカスタマイゼーションは、大量生産と受注生産のどちらのメリットも得られる方式です。もし実現できれば、企業にとって市場に対する長期的なアドバンテージとなり得ます。
マスカスタマイゼーションの実現を検討している場合には、実現したうえで得られる具体的なメリットを理解し、実現に向けた仕組みづくりやシステムの導入などを検討しましょう。
ここでは、マスカスタマイゼーションのメリットについて、以下の4点を解説します。
- 製造・生産コストの削減
- 生産・出荷リードタイムの短縮
- 在庫コストの削減
- 顧客満足度の向上
①製造・生産コストの削減
大量生産方式では部品を大量に仕入れられることから、製品一つひとつの原価を抑えられます。しかし、顧客ごとのニーズに対応するためには、ニーズごとに生産ラインや人的リソースが必要となってしまいます。
他方、受注生産方式では生産ライン・人的リソースの仕組み化によって、ニーズごとに生じる生産コストを抑えることが可能です。一方で、顧客のニーズごとに必要な部品の仕入れを行うため、製品一つひとつの原価が高くなってしまいます。
マスカスタマイゼーションは大量生産・受注生産を両立させる方式であることから、それぞれの生産方式と比べても製造・生産コストの削減ができます。
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②生産・出荷リードタイムの短縮
マスカスタマイゼーションでは部品の仕入れから製品の納品までに生じる「リードタイム(所要時間)」を仕組みによって短縮できます。
これは大量生産によって、製品ごとのカスタマイズに必要な部品を一律的に揃えることが可能であるためです。また、カスタマイズ自体も受注された量のみの組み立てで良いため、組み立て時間の短縮もできます。
③在庫コストの削減
マスカスタマイゼーションでは、顧客から受注を受けた量のみで必要な部品を仕入れ、製品ごとにカスタマイズを行います。
このマスカスタマイゼーションでは「必要な分だけを製造する方式」であることから、製品の在庫を大量に抱える必要がなく、在庫に必要な物件や管理に必要なコストを大幅に抑えられます。
④顧客満足度の向上
マスカスタマイゼーションでは顧客のニーズを踏まえて、カスタマイズを行った製品を提供しています。また、仕組み化によってスムーズな対応が可能であり、高品質な製品をスピーディに提供可能です。
このようにマスカスタマイゼーションでは、細かなニーズに応えた製品をスピーディに顧客に提供できることから、顧客からの満足度が高まりやすい傾向にあります。
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マスカスタマイゼーションのデメリット
マスカスタマイゼーションではメリットがある一方で、実現までのプロセスやタイミングなどを誤ってしまうとデメリットを生じさせかねません。とくに、実現までのプロセスにおいて、大きなコストや手間が必要であるため、小規模な事業者では実現しづらい、あるいは実現しても効果が得づらいという恐れがあります。
このようなことから、マスカスタマイゼーションの実現を検討している場合には、自社に影響のあるデメリットも把握しておくべきでしょう。
ここでは、マスカスタマイゼーションのデメリットについて、解説します。
- 製造・生産コストの削減
- 生産・出荷リードタイムの短縮
- 在庫コストの削減
- 顧客満足度の向上
①大量生産と受注生産の見極めが難しい
マスカスタマイゼーションは大量生産と受注生産とのバランスが保たれてこそ実現できる方式です。
そのため、顧客のニーズに応えようと受注生産に力を入れすぎると、大量生産のメリットが受けづらくなる恐れがあります。一方で、大量生産の側面を強くしすぎると、顧客のニーズに応えづらい生産ラインとなってしまいかねません。
このようにマスカスタマイゼーションの実現にともなう、大量生産と受注生産の見極めが難しいという課題があります。
②生産プロセスの再構築が必要
マスカスタマイゼーションの実現には、従来の生産プロセスを変えなければならない可能性が高いと考えられます。
具体的には、大量生産や受注生産に必要なシステム・仕組みを取り入れる必要があり、導入にともなって仕組みやシステムの使い方、マニュアルなどを全て最新の生産プロセスに再構築しなければなりません。
生産プロセスの再構築には大幅なコストだけではなく、従業員への教育・育成などの手間もかかり、マスカスタマイゼーションの実現にともなう大きな弊害と言えるでしょう。
③顧客ニーズへの継続的な対応が必要
マスカスタマイゼーションは顧客からの受注ごとにカスタマイズを行う必要がある生産方式です。
継続的に顧客からのニーズに応える必要があり、その生産にあたってのコストがかかってしまいます。また、顧客満足度の維持に品質の向上が求められる可能性が高く、品質管理のコストもより発生してしまいます。さらに、顧客ニーズの抽出や分析、予測などにかかる高度な対応も求められる点も懸念されるでしょう。
④導入コストがかかる
マスカスタマイゼーションの実現には、さまざまな機器やシステムを導入しなければなりません。また、マニュアルの作成や従業員への研修などの実施も必要です。
このようにマスカスタマイゼーションでは実現に向けたコストが重くなりやすく、大幅な設備投資が求められます。また、導入後も従業員に対して機器やシステム、仕組みなどに関する教育・育成が必要であり、長期的なコストもかかってしまいます。
マスカスタマイゼーションの実現に向けて、大幅な予算をとっておく必要があるでしょう。
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マスカスタマイゼーションを実現するのに必要な技術
近年ではITやAI技術の進歩にともなって、さまざまな技術が生まれています。このような技術を導入することで、マスカスタマイゼーションの実現可能性を高められます。
すでに実現している企業で取り入れている事例もあるため、具体的な技術を理解し、自社に足りないものを検討しましょう。
ここでは、マスカスタマイゼーションを実現するのに必要な技術について、以下の3点を解説します。
- ジェネレーティブデザイン
- デジタルファブリケーション
- デジタルツイン
①ジェネレーティブデザイン
「ジェネレーティブデザイン」とは、製品の製造にあたって顧客が求めるカラーリングやデザインなどを顧客自身が設計できる技術のことです。近年ではITやAI技術の進歩にともなって、顧客自身が製品の設計が可能となりつつあります。
この技術を導入できれば、マスカスタマイゼーションが求める顧客ニーズをより正確に、かつスピーディに捉えることが可能です。将来的には「設計を顧客に依頼し、製造を自社で引き受ける」のような生産モデルの実現もできるでしょう。
②デジタルファブリケーション
「デジタルファブリケーション」とは、デジタルで生成された設計をもとに制作する技術のことです。具体的には、3Dスキャナーや3D CADなどの測定する機器でデザインをデータ化し、3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機器で造形を行う技術を指します。
この技術が製造現場に普及すれば、生産効率は格段に高まるだけでなく、顧客ニーズの忠実な再現も可能となります。
③デジタルツイン
「デジタルツイン」とは、デジタル上の仮想世界で現実と同様のモノを複製する技術のことです。この技術のポイントは、仮想世界によってさまざまなシミュレーションを行える点にあり、生産プロセスにおけるトラブルの早期発見や製品の分析・検証に活用可能です。
とくに、マスカスタマイゼーションにおいては、知見のない顧客からのニーズの実現可能性や事故の発生確率などをあらかじめ確認できるようになります。
マスカスタマイゼーションを実現する上でのポイント
マスカスタマイゼーションの実現は大規模な事業を行う企業においても容易なことではありません。もし、これからマスカスタマイゼーションの実現に注力する場合には、どのようなポイントを押さえて事業運営を行うべきかを知っておく必要があります。
最後に、マスカスタマイゼーションを実現する上でのポイントについて、以下の3点を解説します。
- 生産ラインに柔軟性を持たせる
- システムを有効活用
- デジタル人材の確保
①生産ラインに柔軟性を持たせる
マスカスタマイゼーションでは、顧客からのさまざまなニーズに応える必要があります。そのため、もし生産ラインに柔軟性がなければ、生産コストの増加や品質の低下などのトラブルになりかねません。
このような事態を避けるためにも、たとえば以下のような生産ラインの柔軟性を持たせる施策が必要です。
- 生産ラインごとに対応する品目・業務を単純化する
- ベースの部品生産とカスタマイズのラインをわける
- 定期的な市場トレンドの教育を従業員に実施する
上記のような施策を講じることで、マスカスタマイゼーションの実現可能性が高まります。
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②システムを有効活用
近年では、生産ラインをサポートするシステムがいくつも生まれています。とくに、製造業では生産の受注、製品の設計、部品の仕入れ、生産プロセスの管理、生産状況の確認、製品の品質管理、顧客への提供などを一括してシステムでまとめることが可能です。
マスカスタマイゼーションでは生産プロセスが製品ごとに異なる可能性が高いため、このようなシステムの導入は生産効率の向上やトラブルの防止につながります。
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③デジタル人材の確保
マスカスタマイゼーションではさまざまなデジタル技術の導入が求められ、それぞれの技術を適切に扱える人材の確保が必要です。具体的には顧客からのニーズを適切に抽出・分析できるスキルを有した人材や、複数の生産ラインの状況を一括して管理できるスキルを有した人材などが挙げられます。
このような人材は、社内の教育・育成を従業員におこなって確保できます。ただ、そのためには従業員一人ひとりが有するスキルを自社で把握し、「どのような人材がデジタル技術のスキル取得に適しているか」の判断が必要です。
もし、これから従業員のスキルを把握したい場合には、「スキル管理」の考え方が有効でしょう。
「スキルマップ」を活用すれば、マスカスタマイゼーションで求められるスキルを洗い出し、データとして可視化することが可能です。このスキルマップをもとに、スムーズに社内の教育・育成体制を整えられます。
別記事でスキル管理の考え方やスキルマップの活用方法などをまとめているため、本記事とあわせて参考にしてください。
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- マスカスタマイゼーションとはどういう意味ですか?
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「マスカスタマイゼーション」とは、「大量生産(Mass production)」と「受注生産(Customization)」を掛け合わせた言葉です。具体的には、共通する部品はあらかじめ大量に生産しておき、顧客からの受注の際に個別で組み立てる方式となっています。
- マスカスタマイゼーションとはどのような生産方式ですか?
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マスカスタマイゼーションは、生産における効率性と柔軟性の両立を目的としており、実現できれば生産効率を高めながら顧客別のニーズに対応できます。また、他にも生産にかかるコストの削減やリードタイムの短縮などのメリットも受けることが可能です。
マスカスタマイゼーションは、DELLやナイキなどの世界を代表する企業が実現しています。国内においても総務省が注目している方式であり、2018年の「情報通信白書」において欧米の事例を紹介する際に言及しています。
- マスカスタマイゼーションが推進された背景は?
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近年のIT技術の進化やグローバル化にともない、さまざまなモノが溢れるようになりました。また、インターネットの普及によって顧客は自らが望んだ商品を入手することが容易となりました。これらの結果、現在、顧客が求めるニーズは多様化しているのです。
マスカスタマイゼーションは顧客ごとにカスタマイズした商品を提供する生産方式であり、多様化された顧客のニーズと合致します。