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2024.6.21
ISO9001では、企業で製造される製品の品質向上のため、力量管理についての要求事項が定められています。この記事ではISOの要求事項に基づいて、教育訓練計画の立て方から実行の仕方まで、一般的な流れと運用のポイントをご紹介します。
ISO9001における教育とは、要求事項が示す「7.2力量」のことを意味します。
新人教育はもちろん、入社後のOJT、取得を奨励されている資格取得のための講義の受講、オンライン研修などはすべてISO9001が定める「教育」に当たります。
SO9001における教育の目的は、製品やサービスを提供するにあたって必要な能力・市式を備えることです。ISO9001について学習することではありません。
ISO9001(品質マネジメントシステム)の力量管理における教育訓練計画・教育訓練記録について、I要求事項には次のように記述されています。
7.2 力量
組織は次の事項を行わなければならない。
(1)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を揃えていることを確実にする。
(2)該当する場合には、必ず、必要な力量を身につけるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する。
(3)力量の証拠として、適切な文書化した情報を保持する。
注記 適用される処置には、例えば、現在雇用している人々に対する、教育訓練の提供、指導の実施、配置転換の実施などがあり、また、力量を備えた人々の雇用、そうした人々との契約締結などもあり得る。
つまり、品質目標を達成するために、その業務に必要な力量を明確にし、その力量を得た人が該当する業務に従事できるよう教育訓練計画を立て、力量管理を行った証拠としてそのプロセスを教育訓練記録として保管しておく必要がある、ということです。
では、この要求事項に基づいて教育訓練の計画・実行・運用をしていく場合、どのような流れが一般的なのでしょうか?
教育訓練計画を立てる際に最初に着手したいのは、組織全体で必要な力量(個々の業務に必要な技能、知識、資格、経験などの能力)を洗い出すことです。
製造業であれば、製造を手掛ける全ての製品の製造工程をさらに細分化し、それぞれの仕事を任せるにはどのような力量が必要となるか、リストアップしましょう。このリスト作成が、力量管理を行う第一歩になります。
次に、どの力量の育成から着手すべきかについて、自社の経営戦略に基づき優先順位を決めます。緊急度や重要度の高いものから教育訓練を開始しましょう。
たとえば、定年や異動によって熟練技術を持つ従業員のスキルの喪失が予想できる場合には、そのスキルを確実に社内で受け継いでいくために優先的に教育を行います。
続いて、力量アップのためにはどのような教育訓練が必要かについて、現状に即した計画を立てます。
スキルマップで整理した力量を身につけた理想の状態と現状とのギャップを把握した上で、理想と源治との差を埋めらえるような計画を立てることが重要です。
なお、製造業における教育は、専門的な知識を学ぶための講習以外では、実際に作業を行いながら実務スキルを身に付けるOJTが基本です。
講習や研修の手段は多岐にわたります。人材育成をスムーズに行っていくためには、外部の研修を上手く活用することも有効とされています。
教育訓練を行う際には、「いつ・誰に・どのような内容の訓練を行ったか」「実施した教育・訓練が必要なスキルを取得するのに適切だったか」「従業員が教育・訓練の効果を得たか」など、行った教育の記録を残してその有効性を評価する必要があります。
教育訓練記録の様式は特に定められていませんが、以下の項目を記載するのが一般的です。
教育番号・教育訓練名称・作成日・部門名・承認者・確認者・作成者・開催日・評価者…など
残した記録を基に実行した教育訓練が有効であったかどうかを評価しましょう。
その際には、教育訓練計画書をベースに、どのような訓練が行われ、対象となる人の力量がどの程度アップしたのかを判断していきます。
もし年間単位の教育訓練計画を立てているのであれば、1年の終わりに振り返りと評価を行い、その時点での達成度に応じて翌年の教育訓練計画を立てましょう。
こうしてPDCAサイクルを回すことが、組織全体の力量アップにつながっていきます。
計画書の作成から教育訓練の実施、評価までの一連の力量管理に関する業務は、これまでエクセルなどを使ってスキルマップを作成して行われることが多かったと言えます。
エクセルは確かに手軽に文書や管理表を作成することができまて便利です。しかし、部署・担当者単位での独自の様式での運用がされやすく、組織全体で力量管理を行うことが難しくなります。さらに、力量業務自体が属人化しやすいため、担当者の異動や退職で混乱が生じるリスクもあります。
そこで近年は企業のDX化が進んでおり、力量管理にシステムを活用する企業も増えています。
スキルマップはもちろん、全ての管理業務を全社共通のフォーマットで実施できるため、訓練計画や実施記録も蓄積しやすく、効率的に業務改善を行うことができます。
スキルマップを作る目的を明確にしましょう。従業員数やスキル項目にもよりますがスキルマップの作成は簡単ではありませんので、どのような場面で活かしたいのか目的を明確にすることが重要です。
従業員へのヒアリングや作業マニュアルをもとに業務分析や職務分析を行い、スキルマップに必要なスキルを洗い出します。
スキルマップの評価者や更新頻度などの評価方法を明確に策定しておきます。
スキルマップの評価基準を策定しましょう。評価基準は〇×でも構いませんが、1〜4などのレベル別に評価を行うと習熟度が分かりますし、部署全体の平均値の算出などより踏み込んだスキル評価が可能になります。
スキルマップのスキル項目の分類方法やスキル名、評価基準について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
関連記事:スキル評価とは? 目的とメリット、スキルマップとルーブリック評価の違い、作成手順など
実際にスキルマップを作っていきましょう。スキルマップにはExcelなどのツールを使用することが一般的です。
スキルマップが作れたら早速導入を開始しましょう。導入後、不備があった場合は修正やルールの変更を随時行います。また定期的に更新し、人材育成に役立てていきましょう。
関連記事:【テンプレートあり】スキルマップの作り方【スキル体系・評価基準・項目例】
規格では、教育訓練の記録や評価などの文書化・管理を求めています。この要求は業務にとって必要となる力量を明らかにし、教育記録を証拠として残すことをが目的と言えます。
しかし、教育計画・実施記録・評価記録などが記載される文書には、特に様式の規定はありません。なお、教育実施記録には、下記のような項目を用いると良いでしょう。
記録を保管する期間は、記録した教育に関わる業務が完了してからおよそ5年程度が一般的とされています。
ISO9001に基づく力量管理を最適な形で実行するには、教育訓練計画や教育訓練記録の運用を着実に継続していく必要があります。
管理業務が煩雑であったり、業務が属人化したりしてしまうと、結果的にISO規格の要求事項を満たせず、製品の品質を担保できない状況に陥りかねません。
組織全体で効率的に力量管理を行い、自社製品の品質を維持・向上し続けるためには、運用管理を継続しやすい仕組みを整えることが重要と言えるでしょう。
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