IATF16949とISO9001の違いとは?歴史・関係・要求事項の比較を徹底解説

IATF16949は、ISO9001を基盤に自動車産業向けに策定された品質マネジメントシステム規格です。ISO9001よりも厳格な力量管理や教育訓練が求められ、現場レベルでのOJTや監査員の力量証明など、具体的な運用が重視されます。
本記事では、IATF16949とISO9001の関係や歴史、そして両者で異なる「力量」に関する3つのポイントをわかりやすく解説します。
IATF16949とは?
IATF16949とはIATF(国際自動車産業特別委員会)が策定している品質マネジメント規格です。GMやFordなどのアメリカとヨーロッパの主要自動車メーカーと自動車産業団体から構成されています。
IATF16949は、世界的な自動車産業の中でますます存在感を増しています。なぜならIATF構成メンバーである大手自動車メーカーが、部材の調達先である部品・材料メーカーに対して、IATF16949の認証登録を取引条件として要求しているからです。2025年6月末時点の認証件数(同年7月公表)は世界で101,407件と10万件を超え、日本国内では1,898件と2,000件に迫る勢いです。
IATF16949とISO9001の関係
IATF16949の歴史
IATF16949は、自動車産業向けにISO9001をベースとして策定された品質マネジメント規格です。各国・各メーカーが独自規格(QS-9000、VDA6.1など)を持っていたため、グローバルサプライチェーンでの統一的な品質管理が求められました。
1994年には、フォードやGM、ボルボなど欧米の主要自動車メーカーがTPM(Total Productive Maintenance)を本格導入し始め、世界的な改善手法として注目を集めます。1999年にIATFが設立され、2002年にISO/TS 16949として国際規格化。2016年にはISO9001:2015の構造に合わせて改訂され、現在のIATF16949:2016となりました。
IATF16949とISO9001の関係
IATF16949はISO9001の全要求事項を包含し、さらに自動車産業固有の追加要求(約280項目)を定義しています。言い換えれば、「ISO9001+自動車産業特有要求」の構造で、力量管理や内部監査、OJTなどの教育・評価もより厳格に求められます。
IATF16949とISO9001で要求される力量の3つの違い
自動車産業という人の命を預かる産業に特化しているため、IATF16949の追加要求事項は非常に具体的で細かいのが特徴です。ISO9001の全要求事項は、合計で127件あるのに対し、IATF16949の追加要求事項は約280件で、IATF16949を取得するにはこの両方を満たす必要があります。要求事項の力量についての記載から、IATF16949とISO9001で大きく違いのある3つの要求事項を抜粋してご紹介します。

IATF16949とISO9001で要求される力量の違い①業務を通じた教育訓練(OJT)
ISO9001の力量に関する要求事項はJIS Q 9001に記されており、以下の通りです。
「7.2 力量」 JIS Q 9001:2015一部を引用
7.2 組織は業務を行う人々に必要な力量を明確にし、備えていることを確実にする。
ISO9001では必要な力量の明確化、教育の実施、力量の証拠となる記録の作成・保存を要求しています。この際、力量の評価に役立つものがスキルマップです。スキルマップで明らかになった力量の差異(あるべき姿-現状)を埋めるために教育訓練計画を立案して実施します。
一方、IATF16949では上記の要求事項に加えOJT(On the job training)についても明記されています。
「7.2.2 業務を通じた教育訓練(OJT)」 IATF 16949:2016一部を引用
組織は要求事項への責任を負う従業員に対し、業務を通じた教育訓練(OJT)を提供しなければならない。OJTは従業員が日常業務を実施するのに必要なレベルで行わなければならない。
これには、契約又は派遣の従業員を含めなければならない。
品質に影響を及ぼす仕事に従事する従業員には不適合の因果関係について知らせなければならない。
IATF16949では従業員に対し知識だけではなく、日常業務を実施するための技能教育も必要だと明記されており、技能教育にはOJTの実施が求められています。さらにこのOJTは、契約又は派遣の従業員に対しても確実に行わなければなりません。 このようにISO9001の要求事項では実際の教育内容についての記載はなく、実情として企業に任されていましたが、IATF16949の要求事項ではOJTを含むかどうか等細かく要求されています。


IATF16949とISO9001で要求される力量の違い②内部監査員
ISO9001では品質事故が起こった後の是正処置に重きが置かれています。一方、 IATF16949では品質事故を防ぐための「未然防止活動」への要求が数多くあります。自動車産業は命を預かる産業なので、車両事故を未然に防ぐ、すなわち未然防止が非常に重要です。
この未然防止活動の柱の1つが内部監査です。IATF16949とISO9001では、内部監査の実施内容に大きな違いがあり、IATF16949ではより細かい実施内容を求めています。また、監査員の選定基準においても、厳しい基準が設けられているのが特徴です。
内部監査の実施内容
まずはISO9001の内部監査に関する要求事項です。
「9.2 内部監査」 JIS Q 9001:2015一部を引用
9.2.1 組織は、あらかじめ定めた間隔で内部監査を実施しなければならない。
a) 次の事項に適合している。
1) 品質マネジメントシステムに関して,組織自体が規定した要求事項
2) この規格の要求事項
一方、IATF16949では上記のISO9001の要求事項に加え、以下の3種類の内部監査の実施が要求されています。
「9.2 内部監査」 IATF 16949:2016一部を引用
9.2.2.2 品質マネジメントシステム監査
3年の間に全ての品質マネジメントシステムの全てのプロセスを監査しなければならない。
9.2.2.3 製造工程監査
3年の間に全ての製造工程および全てのシフトを監査しなければならない。
9.2.2.4 製品監査
顧客固有の要求される方法を使用して、製品を監査しなければならない。
上記のように、IATF16949では「全てのプロセス」「全てのシフト」「顧客固有の要求される方法」等、より細かく網羅的に内部監査の実施が求められていることがわかります。また、これら3種類の内部監査では、監査員に求められる力量がそれぞれ異なります。(以下は一例)そのためIATF16949では監査員の人数も多く、管理すべき力量の数も大幅に多くなることが特徴的です。
IATF16949の内部監査ごとに求められる監査員の力量の例 【品質マネジメントシステム監査(QMS監査)】 ・IATF要求事項の知識 ・FMEAなどのコアツールの理解 ・監査計画の作成能力 など

【製造工程監査の内部監査員はこれに加え】
・QMS監査員力量
・製造工程の専門的理解
・社内での業務経験 など
【製品監査の監査員】
・QMS監査員力量
・図面などによる製品要求事項への理解
・製品性能を保証する試験機器を使用できる力量 など
内部監査員の選定基準
続いて、内部監査員を選定に関する要求事項についてみてみます。
「9.2 内部監査」 JIS Q 9001:2015一部を引用
9.2.2 c)監査プロセスの客観性や公平性を確保するために、監査員を選定し監査を実施する。
監査員の選定については、客観性、公平性を確保することが記載されてており、監査員は自身が所属する部署の監査を行うことはできません。しかしそれ以上の要求はなく、実際のところ、内部監査員の選定は各企業に任されています。
一方、IATF16949では、監査員の選定基準として求められる力量を下記のように明確に定めています。
「7.2.3 内部監査員の力量」 IATF 16949:2016一部を引用
内部監査員は全て、最低限以下の力量があることを実証できなければならない。
・自動車産業プロセスアプローチ、顧客固有要求事項、IATF16949要求事項の理解
・監査の実施、報告、所見の完了の仕方の理解 ・組織が定める年間最低回数(通常は年1回以上)の監査の実施
・内部変化(新しい工程など)、外部変化(要求事項の追加など)に関する知識の維持
その他にも、内部・外部環境の変化や新しい情報のインプット、監査の実績など、監査員としての資格の有効性を維持するためにも注意が必要です。
IATF16949とISO9001で要求される力量の違い③第二者監査員
第二者監査とは、材料を購入しているメーカーへの監査です。
例えば、IATF16949の取得を目指しているA社がB社から材料を仕入れて自動車の製造を行っている場合、A社は購入先であるB社への監査をしなければなりません。これが第二者監査です。
「8.2.4.1 第二者監査」 IATF 16949:2016一部を引用
組織は、供給者の管理方法に第二者監査プロセスを含めなければならない。
「7.2.4 第二者監査員の力量」 IATF 16949:2016一部を引用
組織は、第二者監査員の力量を実証できなければならない。
第二者監査はISO9001では必須でありませんでしたが、IATF16949では実施が義務付けられています。実施にあたり監査員の力量実証が必要になるため、ここでもスキルマップの活用が期待されます。
IATF16949の要求事項を満たすスキルマップ
ここまで解説してきた通り、IATF16949とISO9001において要求される力量には、業務を通じた教育訓練(OJT)、内部監査員、第二者監査員の3つの観点で違いがあります。
加えてスキルマップの作成や維持管理にあたりIATF16949の要求事項を満たすためには、以下の3つが重要です。
- スキルマップの種類
ISO9001で必要となるスキルマップの種類は、各部署と内部監査員程度でした。一方IATF16949では各部署に加え、仕事内容や内部監査員、第二者監査員の力量評価が必要になりますので、スキルマップの種類が膨大になります。またISO9001では知識レベルだけを評価するスキルマップでも対応できますが、IATF16949では技能のスキル評価も必要になります。
- 全ての従業員への力量評価とリスト化
IATF16949では契約または派遣の従業員にも力量評価が必要です。さらに通常の従業員リストに加え、監査員としてのリストも別途必要になります。
- 力量の維持
ISO9001でも言えることですが、スキルマップは一度作っただけで終わりではありません。教育や評価を一過性で終わらせないように、スキルマップを維持する必要があります。IATF16949ではスキルマップがISO9001より膨大になりますので、これを維持するには非常に大きな労力が必要になるでしょう。
またIATF16949では規格要求事項に加え、顧客からの固有要求事項(CSR)も遵守しなければなりません。顧客固有要求事項(CSR)とは顧客からサプライヤーに提示される要求事項です。IATF16949の要求事項に加えCSRを満たすことが認証取得の際の審査対象になりますので、CSRに力量に関する要求があれば、追加して行わなければなりません。
まとめ:IATF16949では、より細かく網羅的な力量の管理が必要
IATF16949の取得を目指す企業では、ISO9001を取得済みの企業でも、そのあまりの要求事項の量に驚くことも多いでしょう。その中でも力量評価は従業員数に応じて行うので、煩雑な作業の1つです。IATF16949の要求事項を満たす力量評価を行うには、スキルマップの効果的・効率的な運用が重要になります。
監査の指摘がゼロに!システム化で抜け漏れのないISO/IATF力量管理を実現
「Skillnote」でISO力量管理業務を圧倒的に効率化!
●バラバラだったスキルや教育訓練記録をシステムで一元管理
●ペーパーレス化の実現によって共有もラクラク
●スキルと教育が紐づいて運用の手間がなくなる
→ISO/IATF力量管理を圧倒的に効率化する「Skillnote」のサービス資料を無料ダウンロードする
- IATF16949とISO9001の関係は?
-
IATF16949はISO9001の全要求事項を包含し、さらに自動車産業固有の追加要求(約280項目)を定義しています。言い換えれば、「ISO9001+自動車産業特有要求」の構造で、力量管理や内部監査、OJTなどの教育・評価もより厳格に求められます。
- IATF16949は必須ですか?
-
IATF16949は、世界的な自動車産業の中でますます存在感を増しています。なぜならIATF構成メンバーである大手自動車メーカーが、部材の調達先である部品・材料メーカーに対して、IATF16949の認証登録を取引条件として要求しているからです。2025年6月末時点の認証件数(同年7月公表)は世界で101,407件と10万件を超え、日本国内では1,898件と2,000件に迫る勢いです。














