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人的資本経営とは? 注目を集める理由、実践の方法、メリット

人的資本経営とは?

人材不足の深刻化を背景に、経営目標を実現するための重要な取り組みとして、人的資本経営に注目が集まっています。人的資本経営を実現することは、企業の業績を向上させるだけでなく、従業員の働きやすさやモチベーション向上にもつながります。

この記事では、人的資本経営の概要や人的資本経営が必要とされる背景、実際に取り組む際に考慮すべきポイントなどを解説します。

スキルの見える化

人的資本経営とは

人的資本経営に共通の定義は存在しません。それぞれの企業で意味合いや適用範囲には違いがあるため、人的資本経営に取り組む際には関係者で共通の認識を持つことが重要です。その際、以下の経済産業省の定義を基本とするのがいいでしょう。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

人的資本経営が注目される背景・理由

人的資本経営は、以下のような状況から注目を集めています。

人手不足による人的資本価値の向上

少子高齢化の影響から、さまざまな業界で人手不足が顕著です。また、生産人口も今以上に減少していくことが予想されています。

このような状況で生産性を維持・向上させるためには、従業員の一人ひとりの能力を上げていく必要があります。そのため、従業員に投資を行う人的資本経営の考え方は注目を集めていると言えます。

関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策

人材・働き方の多様化と流動化

働く場所を問わないテレワークの広がりやダイバーシティの推進によって働き方や人材は人時代前に比べて格段に多様化しています。

このような状況下では従来の画一的なマネジメントは通用しません。従業員一人ひとりに適したマネジメントを実施していく必要があります。人材のモチベーションを向上させる配置や評価、育成などが求められていると言えるでしょう。

ESG投資への注目(ステークホルダーの意識変化)

近年は、SDGsやESG投資が注目されており、企業を評価する重要な指標になっています。「従業員に対して働きがいや成長機会を与えられているかどうか」「環境にいい影響を与えているかどうか」などによって企業は評価されると言い換えられます。

SDGsやESG投資を重視するステークホルダーの支持を集めるためには、人的資本経営を考慮した取り組みが必要不可欠です。人的資本経営では、経営目標を実現するために従業員のスキルアップや働きやすい環境構築に取り組みます。

人的資本経営における人材のとらえ方

人的資本を重視した経営では、従業員・人材をどのようにとらえているのでしょうか。従来の経営におけるとらえ方も含めて紹介します。

従来の経営の場合

従来の経営では、人材を「ヒト、モノ、カネ、情報」といった4つの経営資源の一つとして扱ってきました。

資源は消費されるコストであり、効率的かつ可能な限り少ない量で回す必要があります。そこで、人材にかけるコストは可能な限り低く抑えつつ、成果をあげることが求められてきました。

しかし、人材不足が深刻化する現在では、従来の考え方では必要な人材が確保できなくなっています。

人的資本経営の場合

人的資本経営では、人材を利益や価値を生む「資本」として位置付けています。資本であるため、人材に投資対象としての価値が生まれます。

それぞれの人材が持つ能力や個性に企業が投資をして成長させることで、人材には代替不可能な価値が生まれます。人的資本経営とは、その価値を活かすことで、企業価値の向上につながるという考え方です。

関連記事:人的資源とは? 意味と特徴、人的資本との違いを解説

人的資本経営のメリット

人的資本経営を行うことで、以下のようなメリットが得られます。

従業員の能力・スキルの見える化

人的資本経営では、従業員の持つ能力やスキルに注目します。新たな経験や育成を通して、人材を成長させることを目指します。

その過程で、従業員がどのような能力やスキル、経験を持っているか可視化することが可能です。可視化された能力、スキル、経験は、配属や異動を検討する際、また、個人のキャリアをどう構築するか考える際に、重要な役割を担います。

スキルの見える化

生産性の向上

人的資本経営では、従業員に対して適切な投資をすることで、個人の能力を高めることが可能となります。個人の能力が高まることでチームの能力が高まり、それが企業としての生産性向上につながります。

人的資本経営は、人材を資源としてとらえて消費する従来の経営とは大きく異なる考え方です。しかし、中長期的に考えると生産性向上に大きく貢献する考え方であると言えるでしょう。

従業員のエンゲージメント向上

従来の経営では、資源として消費する人材に対して必要以上に大きな負荷をかけたり、適切な教育機会を従業員に必ずしも提供できなかったりする状況がありました。

一方で、人的資本経営では、従業員は大事な資本であり、投資をして育成・価値を高める対象であると考えます。

そのため、従業員は大きすぎる負荷をかけられる必要がなかったり、個人が目指すキャリアを構築できたりするため、従業員のエンゲージメント向上につながります。

企業ブランディング

人的資本経営は、SDGsやESG投資の観点からも注目を集めています。

ステークホルダーである投資家や取引先、自社の従業員に加えて、今後取引先になるかもしれない企業や自社への転職、就職を考えている人材に対するブランディングにつながります。

欧米と日本の人的資本経営

ここで、欧米と日本の人的資本経営に関する取り組みを紹介します。

2018年ごろから欧米で人的資本経営の情報開示が加速

2018年12月に、ISO(国際標準化機構)によってISO30414が策定され、一部の欧州企業による人的資本経営に関する情報開示が始まりました。

2020年8月には、米国証券取引委員会が上場企業に対して、人的資本に関する情報開示を義務化しています。どのような情報を開示するか、その内容は明確に定められてはいませんが、将来的には開示内容の指定と、開示を法律化する審議が進められています。

また、2023年1月には、欧州においてサステナビリティ開示に関する法令が改訂されました。人的資本経営に関する領域では、ジェンダー平等や賃金、従業員のトレーニングやスキル開発に関する情報開示が求められています。

関連記事:ISO30414とは? 注目される背景、取得のメリット、11領域58指標、取得企業や取得の方法

ISO31404の策定

ISO30414では、人材マネジメントの11領域について、データを用いて測定するための58の基準が示されています。このデータを用いることで、人的資本経営に活用できる人材マネジメントを効果的に行うことが可能です。

ISO30414で選定されている11の領域は、以下です。

  • コンプライアンスと倫理
  • コスト
  • ダイバーシティ
  • リーダーシップ
  • 組織文化
  • 健康・安全
  • 生産性
  • 採用・異動・離職
  • スキルと能力
  • 後継者の育成
  • 労働力

欧米では、ISO30414に基づいた取り組みが多くの企業で進められています。一方で日本では速やかに取り組まず、まずは欧米の動きを見ながらどう扱うか検討を進めている状況です。

欧米の動きに追随することになる可能性が高いため、日本の企業も欧米の状況を注視しておく必要があります。

日本では2020年に「人材版伊藤レポート」が公開され注目

欧米がISO30414に基づいて情報開示を進める中で、日本で人材資本経営における情報開示の重要性が広がったのは、2020年に経済産業省が「人材版伊藤レポート」を公表したことがきっかけです。

それ以降は、2021年にコーポレートガバナンスコードが改訂され、人的資本に関する開示・掲示が可能になりました。また、2022年には、人的資本に関する情報を開示する際に参考とすべき指針について、政府によって発表が行われています。

人材版伊藤レポートとは

人材版伊藤レポートは、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会の通称です。企業価値の持続的な向上を実現するために、経営戦略と連動した人材戦略の実践に関してまとめられています。また、人材版伊藤レポートは2.0も公表されており、具体的な事例が追加されています。

人的資本経営における3つの視点(3P)

ここからは、人材版伊藤レポートでまとめられている人材戦略に必要な3つの視点と5つの共通要素について紹介します。

まずは、人材版伊藤レポートでまとめられている人材戦略に必要な3つの視点を説明します。

経営戦略とひもづいた人事戦略

人事戦略は、経営戦略を実現するために行うべきものです。つまり、人事戦略を設定する際には経営戦略とひもづけて考えることが重要であるということです。

優れた経営戦略を立案しても、それを実行・実現できる能力の人材がいなければ、せっかくの経営戦略が無駄になってしまいます。だからこそ、「経営課題を解決するためにはどのような人材が必要なのか」「その人材をいつまでに確保する必要があるのかといったことを人事戦略に落とし込んで実行することが重要でると言えます。

関連記事:タレントマネジメントとは? 目的やメリット、方法について解説

目標と現状のギャップの把握

経営目標を実現するためには、その目標と現状にどの程度のギャップがあるかを把握し、ギャップをどうやって埋めていくかが必要となります。

人的資本経営の観点では、経営目標を実現するために必要な人材スキルと、現時点で自社の従業員が保有するスキルにどの程度のギャップがあるのかをまず把握します。

ギャップを把握できれば、それに基づいて人材採用や育成の方針を決めることが可能となります。そのために、スキルマップなどをうまく活用する必要があります。

企業文化への定着

長期間にわたって人的資本経営を継続するためには、効果が出た取り組みを企業文化として定着させることが必要となります。うまくいった施策も単発で終わってしまっては、企業文化にはなりません。

どの取り組みを定着させるか判断するためには、試作に対して内容や結果を分析し、次につなげるようにPDCAサイクルをまわす必要があります。

人的資本経営における5つの要素(5F)

人材版伊藤レポートでまとめられている、人材戦略に必要な5つの共通要素は以下です。

動的な人材ポートフォリオ

優れた人材を効果的に活用するためには、人材が「どのような能力やスキルを保有しているか」「どのような経験をしているか」を把握しておく必要があります。そのうえで、適切なポジションに配置することが重要です。

さらに、自社の経営目標実現に向けて必要な人材を定義しておくことで育成方針を明確にできます。このように人材のポートフォリオを固定化せずに、適度に流動性をもたせて運用することが重要であると言えます。

知・知識のダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を持った人材同士がお互いに認め合い、企業活動に生かしていくことを意味します。

多様な人材を確保し、多様性のある顧客の要望を満たすためにも、この取り組みは必要不可欠です。多様化を進められれば、人材が一様な状況では出てこないアイディアも生まれてくるでしょう。

リスキル・学びなおし

近年、リスキルやリスキリングが重要なキーワードになっています。これは、企業に所属する従業員が学びなおしをすることで、新たなスキル・技術を得ることです。

特に、多くの企業が取り組んでいる「DX」や「GX」などは、関連するスキルを持っている人材がそもそも少ないため、リスキリングが効果的な施策となります。

従業員に対してリスキリングを推進するためには、その重要性を周知させ、さらに職場環境を整えることが必要となります。

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントを高めるためには、積極的なリスキリング機会の提供などを通して従業員のモチベーションを高めたり、職場環境の改善など離職のリスクを低減させる施策を打っておくことが重要です。

「所属している組織に貢献したい」と従業員が自然に考えるようになれば、経営目標の実現にもつながるでしょう。

時間や場所にとらわれない働き方

テレワーク環境の整備に伴い、時間や場所にとらわれない働き方も重要な要素の一つになっています。テレワークが一般的ではなかった状態では獲得が難しかった優秀な人材の獲得も、テレワーク環境を整備すれば可能となります。

制度や労働環境の差から働き方に不要な制限を設けなくてすむように、業務内容の見直し、デジタル化などを推進するといいでしょう。

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06. 計画的な技能・技術伝承
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