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2024.4.24
企業が経営目標を達成するためには、企業が成長することに貢献するスキルを持った人材を確保し、適切なポジションに配置することが重要です。現在、このような「タレントマネジメント」の考え方が注目を集め、実際に取り組む企業が増えています。
この記事では、タレントマネジメントの定義や概要、取り組むメリットや具体的な進め方について解説します。
タレントマネジメントとは、従業員が持つ「タレント(才能・資質、能力など)」を経営資源として捉え、従業員と所属する組織の成果を最大化することで、経営目標の達成を目指す人事手法のひとつです。
タレントマネジメントにおける具体的なアクションとしては、人材の採用や配置、育成、評価などが挙げられます。将来の見通しや企業の方向性、現在の企業及び個人の状況など、さまざまな情報を複合的に検討することで、大きな成果につなげていきます。
タレントマネジメントを進めるためには膨大な人材情報を収集・処理・分析する必要があります。そのため、タレントマネジメントを進めたくても企業の広い範囲に適用することは困難なのが実情でした。しかし、近年ではさまざまなHRテクノロジーの進化によって実現が現実的になったため、多くの企業が取り組みはじめています。
タレントマネジメントの定義や捉え方は、業界・企業によってさまざまです。そのため、解決したい課題にあわせて取り組むことが重要になります。ここでは、代表的なタレントマネジメントの定義を3つ紹介します。
SHRM(米国の人材マネジメント協会)は、世界最大の会員数を誇るHRMプロフェッショナルのコミュニティです。SHRMでは、タレントマネジメントの定義を以下のように表現しています。
人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性改善や人材の意欲を増進させることにより、優秀な人材の維持や能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムを導入すること
参考:SHRM「Talent management: a key component of HR」
ASTD(米国の人材開発協会)は、多数の会員数を誇る人材開発のプロ集団です。ASTDでは、タレントマネジメントの定義を以下のように表現しています。
目標達成に必要な人材マネジメントを、職場風土、仕事に対する真剣な取り組み、能力開発、人材補強の4つの視点から実現しようとする短期的/長期的、ホリスティックな(全体の、関連した、繋がりを持った)取り組み
参考:米国人材開発協会ASTD『Research report 2008』
リクルートワークスは、株式会社リクルートが運営する人と組織に関する研究機関で、中長期的な人材ビジネスの基礎研究や人材マネジメントにおける情報発信などを行っています。リクルートワークスでは、タレントマネジメントを以下のように定義しています。
タレントマネジメントとは、優秀な個人の能力とリーダーシップを最速で開花させることにより、ビジネスゴールの達成と、組織内におけるリーダーシップの総量を極大化させるための、本人・上位者・人事による成長促進プロセスである
出典:リクルートワークス「タレントマネジメントの本質」
企業がタレントマネジメントに取り組む大きな理由としては、以下の項目が挙げられます。
タレントマネジメントの最大の目標は、人事戦略とその施策によって自社の経営目標を実現することです。
具体的な経営目標としては、市場の拡大、新たな事業領域への進出、売上の拡大などが考えられます。これらを実現するための方策のひとつとして、タレントマネジメントが活用されています。
関連記事:人的資本経営とは? 注目を集める理由、実践の方法、メリット
タレントマネジメントによって経営目標を実現するためには、企業が抱えている人材に関する課題を解決する必要があります。
例えば、人材不足への対応や適切な教育環境の構築、多能工化など。これらの課題解決に取り組む際に、タレントマネジメントは効果を発揮します。
タレントマネジメントが必要とされる背景には、企業が以下のような課題を抱えている点が挙げられます。
少子高齢化によって労働力人口が減少することで、新たな人材の確保が難しくなっています。さらに近年では、働き方の柔軟化や流動化が進行しており、職場を離れる選択をする機会が増えています。そのため、これまで以上に人材採用は難しさを増しています。
また、人材が不足している状況では、新たな人材を獲得できても十分な教育機会を提供する余裕がない場合も多いのが実情です。
タレントマネジメントを進めて必要なスキルを持った人材を重点的に育成することで、人材が不足している状況でも優秀人材が効率的に成果を出すことで企業を成長に導ける可能性があります。
関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策
近年はデジタル技術の開発が進み、多くの企業が活用を進めています。IoTやDXなどがキーワードとして取り上げられており、企業を取り巻く環境には大きく、急激な変化が訪れています。
また、経済のグローバル化が進展したことで、海外企業との競争を勝ち抜く必要もあります。グローバルな市場競争は激化し続けていますが、厳しい競争環境においても成果を出して生き残れる組織を作り上げなければなりません。
そこで必要となるのがグローバル人材の育成です。グローバル人材の育成にはコストと時間を要するため、タレントマネジメントを進めて計画的に人材をプール・育成していくことが重要になります。
市場環境の急激な変化により、企業と従業員に求められるスキルは大きく変化しています。
例えば、グローバル市場で勝ち抜くためには、海外の文化に精通し言語を操る人材が必要です。また、製品の複雑化により、従来とは異なる技術の組み合わせを保有している人材も必要となるでしょう。
このようなことからタレントマネジメントを推進することでこれまではいなかったタイプの人材を計画的に育成することが重要になります。育成計画や教育・研修方法も育成候補者にあわせて柔軟に変更していく必要があります。
近年は、働き方の多様化・柔軟化が進んでいます。例えば、コロナ禍をきっかけに定着したテレワークや男性への育児休暇取得奨励、時短勤務の拡大などがその代表例です。
働き方が多様化・柔軟化した職場では、重要な役割を担っていた人材が急に不在になってしまうことも多くなります。そこで、不在になった人材の仕事をカバーできるような体制をあらかじめ構築しておくことが重要になります。
タレントマネジメントを進めることで必要なスキルを可視化したり、効率的な育成計画を実行したりすることは働き方が多様化・柔軟化する現代の職場において必要不可欠であると言えます。
タレントマネジメントに取り組むことで、以下のようなメリットが得られます。
タレントマネジメントでは企業が必要とする能力やスキルをあらかじめ特定して人材育成に取り組みます。計画的に人材育成を行うため、急に特定のスキルや能力を持った人材が必要になった場合でも速やかに必要人材を確保・アサインすることが可能となります。
そのため市場競争において、必要人材の不足を理由に競合他社に後れを取るリスクを大きく減じることができます。
タレントマネジメントの導入は、従業員の満足度向上にも貢献します。従業員一人ひとりの適性に合わせた育成計画や人材配置を可能にするからです。
このことにより企業と従業員とのエンゲージメントも強化され、結果的に従業員の離職リスクも低減させられます。
タレントマネジメントによってもたらされる従業員の満足度・エンゲージメント向上は人材の流出を防ぎ、経営目標を達成させるための重要な要素となるでしょう。
タレントマネジメントによって必要な能力・スキルを持った人材の効果的な育成は、従業員ンの適材適所な配置を可能にします。
従業員の適材適所な配置を実現することは、従業員一人ひとりの生産性を向上させ、組織全体の能力を向上させることにつながります。
誰を教育・育成の対象者として選定するかは企業によってさまざまです。ここでは大きく2つの例を解説します。
1つ目は、幹部候補や特定人材の育成です。特定人材とは、海外で活躍する人材など企業が戦略上重要視する人材のことを指します。これらの対象に対しては、候補となる人材プールを作り、戦略的に育成を進めることが重要です。
2つ目は、全社員を対象とする育成です。タレントマネジメントシステムを活用することにより、人材情報を一元化、全従業員の人材情報を可視化することができます。これにより、これまでは難しかった全従業員を対象とした育成も進められるようになりました。
タレントマネジメントには時間をかけて取り組む必要があります。以下の一連のサイクルを理解し、繰り返し続けていくことが重要です。
まずは、タレントマネジメントを進めていくことでどのような経営目標を達成したいのか、人材に関するどのような課題を解決したいのかを明確にしましょう。
達成したい目的や解決したい課題は、企業ごとに異なります。他社の取り組みをそのまま真似しても十分な成果が得られないため、自社の状況を分析して目的の精査・明確化することが重要です。
目的を明確にしておくことで、仮にうまくいかないことがあった場合でも、そもそもの目的に戻ってやり直すことが可能となります。
目的が明確にしたら、人材の状況を把握するために人材情報の見える化を進めます。
人材情報の見える化には、タレントマネジメントシステムの活用が効果的です。タレントマネジメントシステムを活用することで、全社的な人材情報の一元管理を実現し、育成計画の立案・実行も効率的に行えます。
なお、タレントマネジメントシステムにはさまざまな特徴を持ったものがあるため、自社の状況と目的に適したものを選定するとよいでしょう。
関連記事:タレントマネジメントシステムとは? 導入のメリットや失敗しない選び方について解説
経営人材や幹部候補などのタレントマネジメントを進める対象人材を、一元化した人材情報の中から特定する作業が必要です。
特定した人材は、目的別に参照できるようにプール化しておくといいでしょう。候補人材の情報にいつでもアクセスできる状態にしておくことで、育成計画や候補人材の変更にも柔軟に対応できます。
目的別のタレントプールを準備できたら、対象者ごとに育成計画を立案します。
タレントマネジメントを進めはじめた時点で目的実現のための適当な人材が社内にいない場合には、新たな育成計画や採用計画の立案も進めていく必要があります。立案した計画を実行するためには、経営層や候補人材との合意形成も事前に行っておく必要があります。
候補人材の育成計画を立案し、関係者との合意が完了したら、計画に基づいて人材採用や人員配置、教育を推進していきます。
採用や教育では、取り組み結果を確認するだけではなく過程を重視することも重要です。実際に育成計画を実行している候補人材に進捗状況を逐一確認するようにしましょう。
もし進行に不都合が生じていたり、当初の予定よりも遅れが生じていたりする場合には、状況に合わせて柔軟に軌道修正を行うことも大切です。
取り組みの結果が出たら、定量・定性の両方の観点で分析することが重要です。分析の際には過程も含めて確認することで、仮に十分な結果が得られなかった場合にも、目的の達成に向けて「何を」どのように」補完していく必要があるのかの示唆を得られます。
結果を分析する際には、短期的な成果に一喜一憂するのではなく、中長期的な観点から判断することを心がけましょう。
一連の取り組みを評価した結果、計画段階で期待していたほどの成果を得られなかった場合にはどこを改善するべきか、検討する必要があります。
一方で満足のいく結果が得られた場合には改善に向けた取り組みは不要です。新たな取り組みに進むといいでしょう。
最後に、タレントマネジメントの成功事例を2つ紹介します。
日産自動車は、グローバル全体での人財最適化や日本人ビジネスリーダーの育成に向けて、
『和魂多才』という人財の定義を行い、新たな育成プログラムを開始しました。
具体的な内容としては、新卒採用の強化、入社後3年以降のタイミングでビジネスリーダー候補の発掘、入社5~7年目でビジネスリーダー候補の選別です。その後も育成を続け、40歳代でビジネスリーダーのポストに着任できる人財の育成を行っています。
候補人財の人選やアセスメント、育成計画、フォロースルーといったサイクルをうまく回していくことで、グローバルに活躍できる日本人ビジネスリーダーの育成を加速させています。
味の素株式会社は、2014年~2016年の中期経営計画で、2020年に世界の食品メーカーの中でトップ10入りを経営目標として設定しました。
これを実現するために、これまで行っていた国内を対象とした職能機軸の人財マネジメントから脱却し、国内外の優秀な人財の選定や育成、適材適所を考慮した配置を推進しました。
具体的には、ポジションごとに求められる成果や要件を明確に定義し、社内の管理職向けに広く公開しています。人財委員会を設置し、アクションプランの検討や育成プログラムの拡充を進めています。
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