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【製造業の新たな航路】造船の未来を創る「デジタル力」と「人間力」の両輪の人財育成

JMU灘社長対談

ジャパン マリンユナイテッド(以下、JMU)では、全国7ヶ所の事業拠点に在籍する技能系社員を中心に人財情報の一元管理を進めています。その基盤となるツールとしてスキルマネジメントシステム「Skillnote」を導入していただいています。

今回は同社の代表取締役社長CEOである灘 信之さんに、グローバルを舞台に戦うことを前提とする造船業ならではの人財課題について伺うべく、当社代表取締役の山川 隆史がインタビューを実施しました。灘社長が語る、製造業全般に共通する「これからのものづくり人財が備えるべきスキル」と「人財戦略」とは?


ジャパン マリンユナイテッド株式会社 代表取締役社長CEO 灘 信之

株式会社Skillnote 代表取締役 山川 隆史


GXをチャンスと捉え、DXを通じた国際競争力の強化を実現する

山川:造船業を取り巻く近年の環境変化と、JMUの抱える課題についてお聞かせください。

灘さん(以下、敬称略):造船業では、カーボンニュートラルの実現に向けたGX(グリーン・トラジション)、人財不足と生産性向上に向けたDX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応が大きな課題です。

カーボンニュートラルの実現において、船舶のCO2排出量は世界の総排出量の約3%を占めています。そのため、燃費効率の追求や新エネルギーの活用など、造船業に求められる環境負荷低減への役割を担うことは優先課題と考えています。

一方で、国内の少子高齢化にともなう人財不足への対応と国際競争力の向上も重要な経営課題です。1990年代には世界の船舶の45%が日本で建造されましたが、2010年代には韓国・中国が35%、日本は20%となり、シェアを奪われているのが現状です。

こうした状況を踏まえると、GXは産業革命以来のエポックメイキングな環境変化であり、事業リスクであると同時に大きなチャンスとも言えます。当社は技術優位性を活かしてGXをリードし、かつ、DXによって生産性向上と人財課題を克服し、国際競争における巻き返しを図っています。

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山川:実際にどのようなDXの取り組みを行っているのでしょうか?

灘:エンジニアリングにおけるDXでは、CADやCAMによる設計データを元にしたバーチャルエンジニアリングが進んでおり、当社が先行している技術です。実体を建造する前に、設計した船体で様々な海域の条件での航行をシミュレーションできるわけです。例えばGXにおいては、新エネルギーによる機関や燃費効率の高い設計の船殻で様々な海域を航行した場合に、どのような負荷があるかを検証することができます。

また、スマートファクトリーも実現したいと考えています。しかし、この領域には業態特性による課題があります。半導体や自動車などとは異なり、造船では材料が大きく重量があります。そのため、ロボットマニピュレーションは難しく、重機を使って人が組み立てる必要があります。

一方で、溶接作業の約60%はロボット溶接等で自動化されていますし、VRゴーグルで作業指示を受けながらベテランの勘所を再現するシステムを導入するなど、現場でのDXはできるところから順次着実に進めています。

デジタルスキルを持つものづくり人財を育てる

山川:造船業に特有の人財課題はありますか?

灘:意外かもしれませんが、造船業のエンジニアは「担い手不足」とは言い難いのです。「ダムを造りたい」「航空機に関わりたい」などと同様に、「船を造りたい」という大型構造物へのロマンを抱く若者は幸いにして多いと言えます。大学にも船舶工学などの専攻があり、そういった学生が当社を目指してくれます。ただし学問は知識にすぎず、造船技術者になるためには経験が必要です。課題は「育成」であり、そこが人財不足につながる要因です。

山川:製造業では、ベテランの知見や技術をOJTによって若手に継承していくことの難しさが課題となっていますね。

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灘:昔であれば従業員数が多く、育成にかけられる時間もあったので、OJTが通用しました。それこそ、ある程度まで教えたら「自分でやってみろ」と無茶振りをして肌感覚を養わせましたが、現代では生産性の観点からも作業安全性の観点からも困難です。

弊社では現在、「JMU」に「X(トランスフォーメーション)」を加えた「JMUX(ジェイマックス)」という取り組みを推進しています。 JMUXの取り組みのひとつに、人財育成領域にデジタル技術を活用することがあります。

先ほどお話しした人財育成に関する課題の解決のために、生産性向上を目的としたシステム導入によるデジタル化だけではなく、デジタルを扱える人財を増やすことも重要だと考えています。 Skillnoteでのスキル管理や評価の適正化もそのひとつの取り組みです。デジタルだけに強い人財を育成するではなく、造船に関わる技術やスキルを持っている人財に付加価値としてデジタルスキルを身につけてもらうのです。

山川:今後、付加価値の高い製品の生産を可能にするものづくりを行うには、ものづくりに関するスキルを持つ人財にデジタルスキルを教育することが不可欠ということですね。

灘:そのとおりです。先にも述べましたが製造技術をフォローするDXは進んでおり、例えば組み立てた船体をカメラで撮影し、点群データにしてAIがCADの設計と照合して違和感を検出するようなことも行っているわけです。

特にマネジメント層では、チームの作業工程をデジタル活用によって分析し、工程の変更をデジタルでシミュレーションして最適解を導き出すようなスキルも必要になってくるでしょう。

ただし、いずれもいざとなったら自ら手を動かせることがベースとして必要でしょう。

「人間力」を育てることが、レガシー産業全般に求められている

山川:正直に申しますが、造船は製造業の中でもロマンがある一方で、かなり泥臭さの残るイメージを持っていました。しかし、想像以上にテクノロジーの進歩した世界であり、この先進性を、製造業を目指す若者にも広く知ってほしいと感じました。

灘:いまも泥臭いのは確かですよ。ですが、昔のように職人気質と労働集約だけではやっていけません。資源もなく、少子高齢化で人口も減少する日本において、造船をはじめとするレガシー産業が、いかにDXによって技術力と生産性を高めていけるかが国際競争のカギとなります。しかし、そのためにはDXの実現だけではなく、「人間力」を育てることも重要だと思っています。

山川:それはJMUにおける今後の人財戦略における課題となるのでしょうか。

灘:私はエンジニアの「T・H・C」の3つのスキルを育てる人財戦略が、当社はもちろんのこと、レガシー産業全般に必要だと考えています。

「T」は、これまで申し上げてきた「テクニカルスキル」です。ハードとデジタルのスキルのほか、タスク管理などのマネジメントスキルもこれに含まれます。

「H」は、「ヒューマンスキル」です。リーダーシップやフォロワーシップなどのマインドや、コミュニケーションスキルもそうですね。ファシリテーション能力、プレゼンテーション能力、交渉力、調整力など、定量的なスキルとして見える化し難い領域です。

最後の「C」は、「コンセプチュアルスキル」です。論理的思考(ロジカルシンキング)や、多角的で柔軟なラテラルシンキングなどがそうですが、リーダー人財としての状況判断や、問題発見、課題設定、課題解決につながるスキルです。

「テクニカルスキル」は、マニュアルに落としたり、デジタル活用で再現性を高めたりすることができますが、「ヒューマンスキル」と「コンセプチュアルスキル」は仕事の中で磨かれていく「暗黙知」であって、計画的な育成が困難です。外部のセミナーやスクールで学んでもらうことはできますが、習得は本人次第であり、効果測定やスキル評価ができません。

この「人間力」とも言い換えられる「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」を意識的に育てていかないと、黙々と作業に徹する職人気質になってしまい、自発的なモチベーションや周囲を巻き込んでいくアクションが起こせません。

逆に、「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」が高ければ、リーダーやマネージャーのポジションでチームの生産性を高め、人財育成やエンゲージメントの向上にも寄与するでしょう。DXの推進とは別に、人財戦略の遂行が生産性向上には欠かせません。

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山川:生産性向上は必ずしも「テクニカルスキル」だけでなく、モチベーションやチームワークなど、「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」に該当する定性的なファクターによっても左右されますね。当社の「Skillnote」は製造業の「テクニカルスキル」の領域で利用される場面が多いのですが、灘社長のおっしゃる「ヒューマンスキル」や「コンセプチュアルスキル」の見える化は、今後強化していくべきだと考えています。

灘:大いに期待しています。というのも、デジタルスキルの育成と、「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の重視は、製造業におけるダイバーシティ・マネジメントや、現場とバックオフィスの相互理解にも有用であると考えているのです。

山川:たいへん興味深いお話です。ぜひ詳しくお聞かせください。

灘:これはJMUとしての理想ではなく私自身の理想なのですが、私はすべてのポジションの人財に可能性を広げる機会を提供したいのです。

事務職が現場のエンジニアリングに参加することは通常なら困難ですが、デジタルスキルの領域で精通しているなら、エンジニアのデジタル活用をサポートすることも可能です。また、「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」に秀でているのなら、現場のマネジメントや人財育成の一旦を担うこともありえるでしょう。

デジタルスキルや「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」も「Skillnote」のようなシステムで可視化できれば、その説得力も高まるのではないでしょうか。流動性が高まることで、男性・女性・外国籍などの属性や年齢にとらわれずにスキルを認め合い、チャンスを与え、活かし合う風土ができれば、それぞれの人財が刺激を受け、現場はさらに活力あふれるものになると考えています。

山川:Skillnoteが掲げる理念は「つくる人が、いきる世界へ」というものです。灘社長の構想の実現、ひいては製造業全般に求められるスキル管理が実現できるよう、一層の進化を遂げていきたいと思います。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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ジャパン マリンユナイテッド株式会社

2013年にユニバーサル造船株式会社と株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドが合併して発足。最先端のデジタルソリューションを活用し、商船から特殊船まで幅広い船舶を建造する造船業界のリーディングカンパニーです。


スキルノート編集部

Skillnote 編集部

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