人材育成とは? 人材開発や能力開発との違い・目的・製造業で重要な理由を解説

人材育成とは、従業員のスキルや知識を体系的に向上させ、企業の競争力を維持・強化するための人材戦略のひとつです。製造業では高度な技術要求や市場の急速な変化に対応するため、効果的な人材育成が不可欠です。複雑なスキル体系を有する製造業においては、スキル管理を通じて従業員の能力を最大限に引き出すことが可能となります。
現在、製造業では人材不足や高齢化、技術・技能伝承の課題が顕在化しており、これらに対応するための効果的な人材育成が求められています。この記事では、製造業における人材育成の現状と直面する課題について概観します。
人材育成とは?
人材育成と人材開発の違い
「人材育成」と「人材開発」は、どちらも組織の人材に関わる重要な概念ですが、目的やアプローチにおいて明確な違いがあります。「人材育成」は主に従業員のスキルや知識を向上させ、業務遂行能力を高めることを重視します。
一方、「人材開発」は将来的な組織のニーズに対応するために、新たなスキルやリーダーシップ能力を育成し、従業員のキャリアパスを支援することを目的としています。
人材育成と能力開発の違い
人材育成と能力開発は、ともに企業の人材戦略において重要な役割を果たします。しかし、それぞれ異なる目的とアプローチを持っています。
先述のように人材育成は、従業員の基礎的なスキルや知識を向上させ、長期的なキャリア成長を支援することを目的としています。一方で、能力開発は、特定の業務やプロジェクトに必要な専門的なスキルや能力を習得することに焦点を当てています。
人材育成の目的
スキルの向上
従業員のスキルの向上は、生産性や業務効率の改善と向上につながります。高度な技能と知識を持つ従業員は、より迅速かつ正確にタスクを遂行できるため、全体の生産プロセスが最適化されます。
スキルの向上は、従業員の満足度の向上やキャリア形成にも影響を与えます。自身の成長を実感できる環境は、従業員のモチベーションを高め、長期的なキャリア形成を支援するため、従業員の定着率やエンゲージメントの向上に寄与し、組織全体の健全な成長を促します。
生産性の向上
人材育成は、従業員のスキルを育成することで生産性の向上に寄与します。とくに製造業において従業員は新しい技術やプロセスを習得することで問題解決能力を高められます。たとえば、現場作業のボトルネックの解消などにおいて効果を発揮します。
なお、生産性の向上は、企業全体の競争力強化にも直結します。生産性向上によって強力な生産体制を確立することができれば、高品質な製品の安定提供へとつながります。これは、顧客満足度の向上およびブランド価値の向上にも寄与します。さらに、リソースの有効活用が可能となり、企業は新たな技術開発や市場拡大に積極的に投資できるようになります。
離職防止
従業員の離職は、あらゆる業界における大きな人事課題ですが、人材育成が従業員の離職率に与える影響は大きいと言えます。人材育成をとおして従業員のスキル向上やキャリア開発を支援することは、従業員の組織へのロイヤルティを高め、長期的な定着を促します。
なお、離職防止に有効な人材育成施策としては、キャリアパスの明確化が挙げられます。従業員が自身の成長や将来のキャリアビジョンを明確に持つことで、組織内での目標達成意欲が高まります。また、定期的なフィードバックの提供も重要です。定期的な評価と建設的なフィードバックをとおして、従業員は自分の成長と課題を実感し、さらなる成長のための指針を得ることができます。
従業員のキャリア開発
従業員のキャリア開発は、人材育成の目的の中でも最も重要なものです。キャリア開発をとおして、従業員は自身のスキルや知識を体系的に向上させることができます。そしてこれにより、企業は組織全体の生産性や技術力の底上げが可能となります。
キャリア開発は、従業員のモチベーションやエンゲージメント向上にも大きく寄与します。明確なキャリアパスが提示されることで、従業員は自身の成長を実感し、組織への信頼感や愛着を深めることができます。これにより、離職率の低下や人材の定着が促進され、結果として企業全体の安定的な発展に繋がります。
人材育成が重要な理由
製造業において人材育成が重要な理由として以下の2点が挙げられます。
- 慢性的な人手不足
- 技術喪失の危機
以下ではこれらの3点について解説します。
慢性的な人手不足
経済産業省の「2022年版ものづくり白書」によると2001年から2021年までの20年間で日本国内の労働者人口は俗化しているにもかかわらず、製造業におけるそれは1,202万人から1,045万人と157万人も減少しています。この傾向は若年者就業者数(34歳以下)に関しても同様であり、製造業の全就業者に占める若年就業者の割合は同期間で31.4%から25.2%へと減少しています。
一方、製造業の全就業者に占める高齢就業者の割合は、4.7%から8.7%に増加しており、製造業における慢性的な人手不足と高齢化の状況は顕著であると言えます。このことから人材育成によってキャリアパスを示し、若手人材の定着率を上げることは製造業全体の喫緊の課題であると言えます。
技術喪失の危機
上述の「2022年版 ものづくり白書」でもあったように製造業における人材の高齢化は顕著な傾向です。一方で、製造業の根幹とも言える「技術」は長年の実務を通して熟練技術者に属人的に身に付いていることが多いのも事実です。そのため、現在、製造業では基幹技術の熟練技術者から若手人材への伝承が急がれています。
なお、スキルマップなどを活用して企業が重要なスキルを特定し、計画的な技術伝承を実現する「スキル管理」の考え方が製造業を中心に注目を集めているのはこのような背景のためです。

主な人材育成の手法
OJT
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、実務をとおした人材育成の手法です。主に職場内で、経験のある先輩や上司が新入社員を直接指導することで、新入社員が業務において必要となるスキルや知識を習得します。OJTの目的は、従業員が実際の業務を遂行しながら、効率的かつ実践的に必要な能力を身につけることにあります。
OJTのメリットとしては、即戦力の育成、コスト効率の良さ、業務に即したスキルの習得などが挙げられます。一方、デメリットとしては、指導者の負担増加や指導の質のばらつきが問題となる場合があります。
関連記事:OJT
OFF-JT
OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)は、現場の業務から離れた場所や時間で行われる教育・訓練の手法です。OFF-JTは従業員に対して専門的な知識や技術を体系的に提供することで、業務に直接関連しないスキルの習得を促します。
OFF-JTは、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と併用することで、実践的な業務スキルと専門的な知識の両方をバランス良く向上させることが可能です。OJTでは日常業務を通じたスキルの習得が行われる一方、OFF-JTは計画的な学習を通じて従業員の能力開発を支援します。
自己啓発
「自己啓発」は、従業員自身が積極的にスキルや知識を向上させる取り組みです。従業員が自主的に学習することで、組織全体の技術力や問題解決能力が底上げされ、生産性向上やイノベーションの促進へとつながります。
組織が自己啓発を支援するためには、学習時間の確保や学習費用の補助、キャリアパスの明確化などの仕組みを整えることが重要です。さらに、自己啓発の成果を評価し、昇進や報酬に反映させるインセンティブを提供することで、従業員のモチベーションを高めることができます。
なぜ製造業で人材育成は重要か?
日本の製造業が直面する人材育成の課題
人材不足と高齢化
製造業における人材不足と高齢化は、業界全体に深刻な影響を及ぼしています。最新のデータによると(※要出典)、日本の製造業の就業者数は2019年から2021年にかけて減少し、2022年には横ばいとなりました。とくに、若年層(34歳以下)の就業者割合が低下する一方で、高齢者(65歳以上)の割合が増加しています。この傾向は、人材不足と高齢化が進行していることを示しており、製造業の持続可能な成長に対する大きな懸念材料となっています。
これらの課題は、製造業の生産性の低下や技術継承の困難化を招いています。人材不足により、現場の負担が増加し、業務効率が低下する一方、高齢化に伴い熟練技術者の退職が進むと、技術やノウハウの継承が滞るリスクが高まります。結果として、製品の品質維持やイノベーションの推進が困難になり、企業全体の競争力が低下する恐れがあります。
技術伝承の危機
製造業において世代を超えて技術を継承していくことは、企業の競争力を維持・向上させるために極めて重要な要素です。現在、多くの製造業企業が抱える技術伝承の危機は、熟練した技術者の引退や後継者不足が主な原因となっています。
技術伝承が困難になっている具体的な原因として、まず指導する人材の不足が挙げられます。経験豊富な技術者が引退する一方で、若手社員への十分な指導が行われておらず、技術伝承が進んでいないのです。また、製造業全体で見られる人材育成の時間不足も深刻な問題です。業務の忙しさから教育に割ける時間が限られており、体系的な技術教育が行われにくい状況です。
これらの課題を解決し、技術伝承を促進するためにも、効果的な人材育成が必要です。技術伝承を行うには、企業が保有する「スキル」の可視化が不可欠です。そのためにスキルマップの有効活用や、スキルマップをシステム上で効率的に管理するスキルマネジメントシステムの導入は効果的です。
人材育成を成功させるために大切なこと
目的の明確化と社内理解の獲得
人材育成を成功に導くためには、人材育成をする目的を明確にし、その目的に対して社内で理解を得ることが大切です。自社の抱える課題や中長期的な目標も考慮に入れ、育成の目的を具体的に設定するようにしましょう。その際には、下記のポイントに留意することが重要です。
- 定量的に評価できるようにする
- 期日を決める
- 企業の方針に沿う
育成対象者の自主性を重視する
人材育成が効果を上げるためには、育成対象者となる従業員の自主性を引き出すことも重要です。そのために、従業員自らが目標を設定し、その目標達成に向かって従業員が行動できるような環境をつくる必要があります。また、自己啓発や社内外のさまざまなプロジェクトへの参加を促すことも、従業員の次週性を引き出す効果的な施策です。
中長期的な観点に立って育成計画を決める
人材育成は本来的には中長期的な視野に立って行うことで効果を発揮します。そのため、育成計画を策定する際には、売り上げなどの短期的な目標だけではなく、将来の市場変化や5年後、10年後の企業の姿を見据えることが重要です。
指導者のスキルも向上させる
人材育成が効果を上げるためには、育成対象者だけではなく教える側の教えるスキルの向上も必要不可欠です。教える側が適切な指導力やマネジメントスキルを持つことで教わる側もより積極的に学べ、成長は促進されます。そのため、指導者側の研修やトレーニングを積極的に行うことも人材育成を成功させるために必要な施策です。
スキルデータを活用して従業員のスキルを伸ばす
人材育成が効果をあげるためには、スキルデータを活用して従業員が現時点で不足しているスキルや将来的に保有していてほしいスキルを明確にして、定量的な視野から支援を行うことが重要です。スキルデータをベースに人材育成を行うことで、とくに製造業企業では技術力を底上げでき、組織の成長へと結びつけることができます。
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