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人材ポートフォリオとは? 概要、重視される理由、作成メリットや作成方法、注意点、導入企業例を解説

人材ポートフォリオとは?

人的資本経営の広がりにより、多くの企業が人材マネジメントを効果的に進める手段として「人材ポートフォリオ」を採用しています。人材ポートフォリオは、組織全体の人材構成を最適化し、競争力を高めるための重要なツールです。

本記事では、人材ポートフォリオの概要とその重要性、作成方法や作成の際の注意点、導入企業例を紹介します。

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人材ポートフォリオとは?

人材ポートフォリオとは?

人材ポートフォリオとは、最適な配置や育成を行うために、組織内の人材を系統的に分類するツールのことです。

人材ポートフォリオによって、社内の「どの部門に」「どのような人材(職種、スキル、適性、実績、社歴など)が」「何人いるか」を分析し、組織の目標達成のために必要となる人材の過不足を判断できます。不足している分は、採用や異動、従業員教育などで補います。

人材ポートフォリオを活用することによって、企業は長期的な視点で人材戦略を立案し、競争力を維持・向上できます。

動的人材ポートフォリオとは?

動的人材ポートフォリオとは、企業の経営戦略や環境の変化に合わせて人材ポートフォリオの継続的な見直しと調整を行うことです。昨今は急速に変化するビジネス環境に合わせて、企業の経営戦略も柔軟に変える必要があります。

動的人材ポートフォリオでは、一度作った人材ポートフォリオを活用しながら、採用活動や人員配置、従業員の教育計画を作成して人材の最適化を図ります。

なお、経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営に関する調査 集計結果」によると、大半の企業が動的人材ポートフォリオについて「重要性は認識しているが実行に移せていない」と回答しています。このことからも、導入が急務になっています。

出典:経済産業省「人的資本経営に関する調査 集計結果」

人材ポートフォリオが重視される理由

人材版伊藤レポートによる人的資本への言及

人材ポートフォリオは、経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」に関連して注目を集めました。

2020年9月に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」は、企業における人的資本の重要性を強調し、人材戦略の見直しを促しました。このレポートは、人的資本を企業価値の源泉として位置づけ、その戦略的な管理と開示の必要性を訴えています。

関連記事:人的資本経営とは? 注目を集める理由、実践の方法、メリット

2022年5月には、「人材版伊藤レポート2.0」が作成されました。「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営を実際に行うための具体的な活動や、活動を進めていく上でのポイントがまとめられています。

また、「人材版伊藤レポート2.0」では、「動的人材ポートフォリオ」の重要性にも触れられています。現状の人的資本を前提とするのではなく、経営戦略や長期的な企業目標からバックキャストする形で必要となる人材を確保できるよう、人材の採用・配置・育成を戦略的に行うことが推奨されています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会  報告書  ~ 人材版伊藤レポート2.0~」

人的資本経営の浸透によって日本でも人材ポートフォリオの重要性が認識されつつあります。

労働人口の減少

労働人口の減少は労働力不足に直結するため、人材ポートフォリオの重要性を高める大きな要因となっています。

国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2023)改訂版」によると、日本では少子高齢化にともない、2020年に7,509万人だった生産年齢人口(15〜64歳の労働に従事する人口)は2060年には5,078万人へと減少します。つまり、40年間で2,431万人も減少することが予想されているのです。深刻な労働力不足に対し、企業は限られた人材を最大限に活用する必要に迫られます。

人材ポートフォリオは企業の人的資源を効率的に配分し、最適化するための重要なツールです。このため、人材ポートフォリオを有効活用することで、従業員のスキルや能力に基づいた適材適所の人材配置が促進され、生産性の向上が期待できます。

関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策

働き方改革の推進

働き方改革の推進も人材ポートフォリオの重要性を高めています。

長時間労働の是正、多様な働き方の実現、在宅勤務の増加など、働き方改革の推進には従来の人材管理手法からの脱却が必須です。

人材ポートフォリオを活用した効果的な人材配置は、多様な働き方を後押しします。

ISO30414への対応

ISO30414は人的資本に関する情報開示のガイドラインを定めた国際規格です。日本では義務化こそされていないものの、東京証券取引所から上場企業へ一部項目について人的資本の開示が適用されています。

企業の人的資本を把握するためにも人材ポートフォリオは必要不可欠と言えます

参考記事:ISO30414とは? 注目される背景、取得のメリット、11領域58指標、取得企業や取得の方法

人材ポートフォリオを作成するメリット

人材の過不足を把握

人材ポートフォリオを作成することの最大のメリットは、人材の過不足を把握できることです。

人材ポートフォリオを作成する過程で、各部門・職種における現在の人員構成を可視化して、今後の経営戦略を実行していく上でどのような人材が不足しているのかを洗い出します。

どの分野でどの程度人材が不足している(あるいは過剰になっているか)といった情報は、採用計画の立案、社内異動の検討、教育計画の設計などに活用できます。企業は効率的な人材配置を実現し、長期的な競争力の維持・向上につながります。

関連記事:人員計画とは? 目的、メリット、要員計画との違い、作成のステップと注意点を解説

関連記事:要員計画とは? 目的、メリット、2つの方法、4つのステップを解説

適材適所の人材配置

人材ポートフォリオによって従業員のスキル・経験・適性を適切に分析できます。さらに分析結果を各部門・職種の要件と照らし合わせて活用することで、人材配置を最適化できます。

適材適所の人材配置は、従業員の能力を発揮させやすくするため、企業全体の生産性と効率性も向上します。また、従業員一人ひとりの強みを活かす配置は、従業員満足度の向上にもつながります。

関連記事:スキル管理とは? 目的・方法とスキルマップの活用

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従業員にあわせたキャリアパス

近年、個人のキャリアプランは多様化しています。「マネジメントをしたい」「専門性を高めたい」「ワークライフバランスを重視したい」など、目指したいキャリアは個人によってさまざまです。

上記の傾向も踏まえて、従業員のキャリアプランを把握して、個人の志向に配慮した人材配置やキャリアプランの提示を行いましょう。人材ポートフォリオを作成する際にも、企業側の意向だけではなく、従業員の意向も踏まえるとより活用の幅が広がります。

従業員の意向が尊重されなければモチベーションが低下し、満足度も低下してしまい、最悪の場合離職にもつながります。

1on1などを通じて従業員の意向を把握して、最適な人材配置の実現を目指しましょう。

関連記事:タレントマネジメントとは? 目的やメリット、方法について解説

人材ポートフォリオの作成方法

目的の設定

人材ポートフォリオ作成するためには、まずは目的を明確にします。「新規事業の展開」「グローバル化の推進」DXの実現」など、組織が目指す方向性に基づいて人材ポートフォリオの目的を定めます。

必要な人材の定義と分類

次に、組織に必要な人材を定義して分類します。目的に応じてどんなスキルや職種、人材のタイプが必要なのかを考えます。なお、企業が保有するスキル状況を確認するには「スキルマップ」の活用が効果的です。

02. スキルマップ入門

2軸4象限の考え方

人材ポートフォリオを視覚化する効果的な方法に、「2軸4象限」があります。この手法では、縦軸と横軸に重要な2つの評価基準を設定し、人材を4つの象限に分類します。

たとえば、縦軸に「創造か運用か」、横軸に「個人か組織か」と設定すると、以下のような分類が可能になります:

1.創造・個人:クリエイティブ人材

2.創造・組織:マネジメント人材

3.運用・個人:エキスパート人材

4.運用・組織:オペレート人材

この2軸4象限の分析により、組織内の人材の分布状況が把握でき、各象限に対応した人材戦略を立案できるようになります。

人材ポートフォリオの例

人材要件とは

人材要件とは、特定の職務や役割を遂行するために必要なスキル、知識、経験、資質を定義したものです。前述の2軸4象限の評価基準にあたります。

必要な学歴・資格、求められる経験年数、業務経験、技術的スキル・専門知識、ソフトスキル(コミュニケーション能力、リーダーシップなど)、個人の志向・適性などが人材要件の一例です。

関連記事:人材要件とは? 作り方や定義と目的、採用ペルソナとの違い、フレームなどを解説

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現状分析

人材の分類方法か決まったら、現状分析を行います。分類の方法は要件によって異なりますが、客観的な情報に基づいて分類しましょう。管理職や人事部の主観ではなく、適性検査や従業員へのアンケート結果を用いることが好ましいと言えます。

人材の過不足への対応方法の検討

現状分析の結果に基づき、人材の過不足への対応方法を検討します。

「幹部候補となるマネジメント人材が少ない」「ある分野の専門職が少ない」など、自社の理想と現状とのギャップを明確にして、対応を検討します。

対応方法には以下のようなものがあります。

  • 採用戦略の見直し(新卒採用、中途採用の比率調整など)
  • 社内育成プログラムの強化(研修、OJTの充実)
  • 社内異動や配置転換の実施
  • アウトソーシングや派遣社員の活用

これらの対応策を組み合わせ、最適な人材ポートフォリオを構築します。単なる数合わせではなく、組織の長期的な成長と従業員のキャリア開発を両立させる視点を持ちましょう。

人材ポートフォリオを作る際の注意点

現場の声を尊重する

人材ポートフォリオを構築する際には、現場の声を尊重するようにしましょう。現場の業務に精通している従業員や管理職の意見を取り入れることで、現実的かつ実効性の高いポートフォリオを作成できます。

組織・事業変化への柔軟な対応

人材ポートフォリオは固定的なものではなく、定期的な見直しが必要となるものです。そのため、「年に一度は見直しを行い、経営層に報告する」など、見直し自体を仕組み化しておくとよいでしょう。

予算と手間

人材ポートフォリオの構築と運用には、相応の予算と手間がかかります。担当者の人件費やデータ分析ツールの導入など、初期段階から一定の投資が必要になります。また、継続的な運用においても、定期的な評価やデータ更新などにコストがかかります。

これらの予算と手間を見積もり、経営陣の理解と承認を得ることはもちろん、従業員に対しても説明を行い、経営・現場共に納得感をもって進められるようにしましょう。

優劣をつけない

人材ポートフォリオを作成する際には、分類や役割に優劣をつけないように注意しましょう。全ての職種のすべての役割が企業には必要不可欠であり、それぞれに固有の価値があります。個々の従業員の強みを最大限に活かして、企業全体の競争力の向上を目指しましょう。

パフォーマンスマネジメントを行う

人材ポートフォリオの効果を最大化するには、パフォーマンスマネジメントが非常に重要です。

人材ポートフォリオに基づいて異動があった従業員に対しては、異動先で当該社員のスキルや能力が十分に発揮できているかを検証して、人材ポートフォリオの有効性を確認します。

【目標設定→進捗管理→評価→フィードバック】といったパフォーマンスマネジメントのサイクルを確立しましょう。

製造業の人材ポートフォリオの導入企業例

旭化成株式会社

旭化成株式会社は、総合化学メーカーです。戦略的な人材ポートフォリオ管理を行うため、不足している人材の質と量を毎年全社的に洗い出しています。この洗い出しは、事業軸と機能軸の両面から行われ、不足人材が補充されています。

採用や育成で確保できない人材は、M&Aを通じた人材獲得や社外への投資等を含めた多様な手段を講じています。

また、職場環境や社員の活力、成長に向けた行動を測定する独自のエンゲージメント調査を毎年実施し、社員個人と組織、双方の成長を目指す活動を具体化しています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集

アステラス製薬株式会社

アステラス製薬株式会社は、グローバルな製薬企業として戦略的な人的資本経営を行っています。

事業リーダーの開発支援、HRデータの高度な分析・経営への提示により、経営層や事業部門とともに人材戦略の実現を目指しています。さらに社外からGlobal head of HRを招聘しこの取り組みを加速させています。

また、全社員を対象とするグローバルな社内公募制度により、社内転職も実現するなど、社内で労働市場原理を効果的に生み出しています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集

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よくある質問

人材のポートフォリオとは何ですか?

人材ポートフォリオとは、最適な配置や育成を行うために、組織内の人材を系統的に分類するツールのことです。人材ポートフォリオによって、社内の「どの部門に」「どのような人材(職種、スキル、適性、実績、社歴など)が」「何人いるか」を分析し、組織の目標達成のために必要となる人材の過不足を判断できます。不足している分は、採用や異動、従業員教育などで補います。人材ポートフォリオを活用することによって、企業は長期的な視点で人材戦略を立案し、競争力を維持・向上できます。

人材配置計画とは何ですか?

人員配置計画とは、人材のスキル・能力・経験を総合的に判断して適切な部署に配置するための計画のことを指します。すでに在籍している従業員には、それぞれの適性や能力、希望などを基に適材適所な人員配置を行う必要があります。一方、企業の目標達成のために足りない人材を確保したり、従業員の能力開発を行ったりすることも人員配置計画には含まれます。

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