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2024.6.12
製造業では今、さまざまな工程の作業を柔軟に行うことができる多能工の育成が求められています。この記事では製造業において多能工が強く求められる背景に加え、企業が多能工化を実現することのメリット、具体的な進め方などをご紹介します。
多能工とは、さまざまな工程の作業ができるスキルを身につけ、業務内容や時期、ニーズに合わせて流動的に働くことができる従業員のことを指します。「マルチスキル」「マルチタスク」とも言い換えることができます。
多能工の育成を強化し多能工化を推進することによって、企業は多様な生産体制を組むことが可能になります。
▲「多能工化」とは一人が一つの工程を担当するのではなく、複数の工程を兼任できる人材(=多能工)が存在する状態のことを指します。
上記図からもわかるように、組織内の多能工化を推進していくためには、個々の従業員が現時点で保有しているスキルを全て可視化したうえで、不足している、あるいは今後必要とされるスキルを洗い出し、多能工を計画的に育成していかなければなりません。
多能工はもともと、トヨタ自動車で生み出された考え方です。自動車用の工作機械を一人で複数台使える「多台持ち」にはじまり、やがて一人で複数の工程を担当できる「多工程持ち」の仕組みが考案されました。現在この「多能工持ち」の考え方は、一人の従業員が流動的にさまざまな工程を担当することで、生産効率を向上させるための仕組みとして製造業全体に浸透しています。
こうした多能工化が今、特に強く求められている背景としては、昨今の製造業を取り巻く環境が大きく変化していることが挙げられます。
関連記事:なぜ製造業では人手不足が深刻なのか? データから考える人手不足の理由と対策
経済産業省による「2023年版ものづくり白書」によると、2002年から2022年までの21年間で日本国内の労働者人口は6,330万人から6,723万人へと397万人増加しています。しかし、製造業における労働者人口は1,202万人から1,044万人と約160万人も減少しています。
また、全産業に占める製造業の就業者数の割合も19%から約19%に低減。製造業から非製造業への人材の流出が読み取れます。
人手不足は製造業の喫緊の課題と言え、多能工を切実に必要としている現状がうかがえます。
昨今、消費者ニーズの多様化が加速しています。
市場の動きに適応するため、多品種少量生産への対応は、もはや避けられません。
そのため、生産サイドでは、多様化するニーズに対して製品開発や技術革新が求められています。こうした変化の影響を受け、個々の従業員が習得すべきスキルの種類が増えています。
多能工は、多様化するニーズに複数のスキルを持って応えられる貴重な人材と言えます。企業は、多能工を導入して多品種少量生産を実現させることで、競争力を維持することができるようになります。
多能工を組織内で育成することによるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、近年の市場環境を踏まえた2つの観点からご紹介します。
従業員は多能工化することで、複数の作業工程を学び、さまざまな知識と技術を獲得できます。その結果、1人の従業員が複数の業務を担当できるようになり、従業員にかかる業務負荷を平準化できます。
単能工が中心だった時代では、専門家にかかる負荷が重く、さらにその専門家が退職や病欠などで不在となったとき、作業効率が大幅に低下していました。
従業員の多能工化は、人材の不足や突発的な欠員が生じても、配置・応援による柔軟な対応を可能にします。
関連記事:業務標準化とは?業務標準化のメリットと進める手順を解説
組織内で、特定の人に技術や技能が集中してしまうケースも多々あるでしょう。極めて専門性の高い熟練工に頼らないと生産ができない状況にある場合、同じ品質を再現できる次世代の従業員を早急に育成する必要があります。
ある製品が、特別な専門性を必要とする熟練工に頼らなければ生産ができない状況にある場合、同じ品質を再現できる次世代の従業員を育成する必要があります。
熟練工の技術・技能を次世代に継承する近道は、熟練工が手掛けている工程を細かく分解し、それぞれの工程で同じ作業ができる多能工を育成することです。
多能工の育成を推進することは、組織における技術・技能の伝承の推進に確実につながります。
関連記事:技術伝承とは? 暗黙知と形式知、技能伝承との違い、行わない場合のリスクと成功させるコツ
企業が市場における競争力を維持するためには、ニーズや技術の変化に柔軟に対応する必要があります。
単能工によって構成された組織では、こうした変化への対応は難しく、事業を安定的に運営することが難しいでしょう。
多能工化を推進してニーズの変化や突発的なインシデントにも迅速に対応できるフレキシブルな組織になることで、企業は成長を続けていくことができます。
多能工化によって1人の従業員が複数の業務を担当するようになれば、おのずと自分の主担当以外の業務理解が深まります。
これにより従業員同士が互いに思いやる気持ちが芽生え、チームワークは向上するでしょう。
「チームワークの向上」という多能工化のもたらす効果は、自分の業務にのみ関心を向けがちだった単能工の時代には起こらなかったことです。多能工化は組織内に一体感と結束力をもたらします。
「労働人口の減少」「仕事と育児や介護の両立」「働き方の多様化」「長時間労働」など、現在、日本の労働環境にはさまざまな課題があります。
働き方改革は、これらの課題を解決に導くものとして注目されています。
厚生労働省が2019年に示した定義では、「働き方改革とは、働く人々が、個々の事情に応じた多様な働き方を、自分で『選択』できるようにするための改革」のことを意味増します。
多能工化によって従業員1人ひとりの労働生産性が上がり、業務負荷の標準化と労働時間が削減されることは、間違いなく製造業の「働き方改革」を推進するものです。
多能工の育成を進めていくためには、まずはじめに職場における従業員のスキルレベルを可視化することから着手するのが一般的です。そのうえでスキルのバラつきや偏りなどの分析を行い、企業として今後どのスキルを強化していくかを決定します。要するに、以下の5つのステップを踏んで進めましょう。
職場で実施している業務について、区分や工程、作業の棚卸を行う。
職場の従業員が保有しているスキルの棚卸を行う。
各スキルの評価レベルを客観的に判断できる状態で設定する。
関連記事:スキル評価とは? 目的とメリット、スキルマップとルーブリック評価の違い、作成手順など
職場で必要とされる頻度が高いスキルや共有すべきスキルを明確にする。
多能工を育成するプロセスの中で特に重要なことは、職場全体で共有すべき技能や技術を明確にすることです。その際にポイントとなるスキルの選定方法については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:製造業の多能工化を推進する3つのステップと成功企業の特徴とは
従業員の育成計画を立てて、その進捗具合を可視化する。
最後に、多能工の育成強化に取り組んだ企業の事例をご紹介いたします。電気機器製造業A社では、市場環境の変化を受けて多能工化に取り組むことにしました。具体的な背景と、取り組み内容は以下の通りです。
A社の主力となる商品は、季節や天候、景気などにより需要変動が起きやすいものでした。さらに近年、それぞれの地域のニーズが分散していく中で、多種多様な製品の生産を伸ばしていく必要に迫られていました。
A社では、今まで各生産ラインごとでバラバラに行っていたスキル管理を一箇所に集約。スキルマップも全社で統合しました。今後の生産計画と新たに統合したスキルマップを照らし合わせ、スキルの使用頻度と現所有者の数、取得の難易度などをもとに、優先的に育成すべきスキルを選定しました。それを元に育成すべきスキルの教育計画を立て、一部の部門から実験的に、多能工を育成する取組みが始まっています。
製造業を取り巻く外部環境の変化は近年特に激しく、これから先、多くの企業において多能工の育成を強化する施策の優先度はますます高くなっていくことが予測されます。多能工化の推進をしていくには、従業員のスキルを可視化することからはじめ、全社で一元的なスキル管理の仕組みを構築していくことが有効となるでしょう。
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