スキルマップとは?作り方からエクセルテンプレート、職種別項目例、トヨタ活用事例まで徹底解説

スキルマップとは従業員のスキルを管理するためのツールです。スキルマップの活用によって効率的な人事配置や人材育成が可能になります。人材不足が深刻化するいま、スキルマップは多くの企業が注目を集めています。
本記事ではスキルマップの作り方から活用方法まで、トヨタ事例、職種別項目例、無料エクセルテンプレート付きで徹底解説します。
スキルマップ(スキルマトリックス)とは?
スキルマップとは、「業務で必要なスキルを洗い出し、各従業員の持っているスキルを一覧にした表」のことです。組織内のスキルの状況を把握し、計画的な人材育成を図るために使われます。
スキルマップは、企業によっては力量表、力量管理表、技能マップと呼ぶこともあります。また、海外ではスキルマトリックス(Skills Matrix)という呼び方が一般的です。
企業の人材育成・能力開発の取り組み状況を調査した厚生労働省の「令和4年度能力開発基本調査」によると、正社員に対して計画的なOJTを実施している事業所は60.5%に上り、多くの企業が従業員の能力開発に取り組んでいることが分かります。このような計画的な人材育成を支えるツールとして、スキルマップの重要性が高まっていると言えます。
スキルマップ(スキルマトリックス)の目的
スキルや人材の見える化・可視化
部門やグループ単位でスキルマップを作ることで、経営者や管理者は組織内にどのようなスキルを持った人が何人いるのか、一覧で把握できるようになります。
スキルや人材の状況が可視化されるので、組織内で現在または将来的に不足するスキルが明確になり、組織としてどのようなスキルを強化または補充していくべきかが明らかになります。
人材育成
スキルマップを用いると、各従業員のスキルがどのレベルなのかが一目瞭然になります。従業員のスキルごとの達成状況が明確になりますので、不足している部分を補うような効果的な教育計画を作成できます。
従業員のモチベーションアップ
スキルマップを従業員に共有することによって、従業員の成長意欲やモチベーションの向上が期待できます。
- 自身に求められているスキル要件が明確になる。
- 自身のスキルの現状をパッと確認できることで、スキル向上への達成意欲が湧く。
- 他のメンバーのスキルの保有状況も確認でき、競争心が刺激される。
なお、スキルマップの従業員への共有としては、「職場に掲示する」「個別面談で見せる」といった方法がよく使われているようです。
スキルマップを導入するメリット
スキルマップの導入には多くのメリットがあります。

スキルの把握
スキルマップを作ると従業員のスキルを可視化でき、適切な人材配置を行うことができます。
たとえば、部署ごとの従業員数が多い傾向にあるラインオペレーターや現場作業員の場合、必要なスキルが多岐にわたっていたり、公的資格が必要な場合があります。このような場合には人事権を持つ人が従業員全てのスキルを把握するのは難しいため、スキルマップは従業員のスキル把握に役立ちます。
さらに、重要かつ専門的な知識が必要なスキルに対し、そのスキルの保有状況をパッとわかるようにします。このことで「限られた従業員しかそのスキルを持っていなかった」といったような潜在的なリスクにあらかじめ気付くことができます。
効果的な教育
従業員のスキルレベルを把握するとスキルの不足部分が明確になり、不足部分への集中的な教育が実現できます。さらにスキルマップと一緒に教育計画も作れば、従業員に求めているレベルへと計画的に教育を行えます。
また、従業員全体に不足している分野に対しては、個別に教育を行うのではなく講師を呼んでまとめて教育を行うなど効率的な教育計画作成も可能になります。
効率的な人材配置
従業員が保有するスキルの把握は、効率的な人事配置にも役立ちます。特に有資格者の配置が必須となる業界の業務では、従業員の資格保有状況が一覧できるスキルマップは効率的な人材配置に大いに貢献します。これまで上長の勘と経験、記憶に頼った配置が客観的なスキルデータを基に行えるようになります。 また、スキルマップから不足している人材が把握できるため、採用の際などにも役立ちます。
公平な評価
スキルマップは客観的で公平な評価の助けにもなります。スキルの評価レベルは「1〜4」などと明確に決まっています。そのため、評価を行う人の主観ではなく客観的な評価が可能となります。
また、評価を行う人も、前年の評価や他の従業員の評価がパッと参照できるので評価に悩む時間も減るでしょう。公平な評価は職場風土の向上にもつながります。
モチベーションアップ
スキルマップを導入することで、従業員は、評価の基準となる項目や自分のスキルレベルを簡単に把握できるようになります。自分の現状と求められているレベルが明確になり、目指すべき方向性もはっきりします。モチベーションもアップするでしょう。
個別面談の際にスキルが向上した部分や今後伸ばしていく部分について、スキルマップを活用した具体的な指導も可能です。
ISOなどの監査対応
前述の通り、ISO 9001などの国際マネジメント規格では力量管理が求められています。監査の際には、スキルマップを用いて力量管理を行っていることを審査員にきちんと示しましょう。
業務の効率化
スキルマップは人材育成に関するあらゆる場面で活用できるため、様々な人事業務の効率化につながります。
- 人事配置
- 採用活動
- 教育計画
- 人事評価
- ISO 9001などの定期審査
スキルマップの例
スキルマップには様々な形式がありますが、その一例として金物加工を行う製造現場のスキルマップの例を以下にご紹介します。

このスキルマップでは、横軸にスキル項目、縦軸に従業員の名前を記載した一覧表を作成しています。スキル名と名前が交わるマス目に、その従業員の持っているスキルレベルを記入します。
スキル基準は、〇×だけの場合もあれば、例のように1〜4といった数字のレベルで管理することもあります。また育成計画がある場合は、背景色を変える等、印をつけて管理します。
ISO 9001の力量管理にも活用
国際的な品質マネジメント規格であるISO 9001の要求事項では従業員の力量管理が求められています。力量管理では従業員が業務を行うのに必要なスキルを明確にすること、スキルを得るための教育計画を作ること、教育計画が実施されスキルを得ていることが必要です。
スキルマップは組織の不足しているスキルが分かるため、教育計画の作成などに非常に役立ちます。
スキルマップの作り方・手順
1. スキルマップの目的を定める
スキルマップを作る目的を明確にしましょう。従業員数やスキル項目にもよりますがスキルマップの作成は簡単ではありませんので、どのような場面で活かしたいのか目的を明確にすることが重要です。
2. スキルの洗い出し
従業員へのヒアリングや作業マニュアルをもとに業務分析や職務分析を行い、スキルマップに必要なスキルを洗い出します。
3. スキルの評価者、評価方法の策定
スキルマップの評価者や更新頻度などの評価方法を明確に策定しておきます。
4. スキルの評価基準の策定
スキルマップの評価基準を策定しましょう。評価基準は〇×でも構いませんが、1〜4などのレベル別に評価を行うと習熟度が分かりますし、部署全体の平均値の算出などより踏み込んだスキル評価が可能になります。
スキルマップのスキル項目の分類方法やスキル名、評価基準について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。

5. スキルマップを作る
実際にスキルマップを作っていきましょう。スキルマップにはExcelなどのツールを使用することが一般的です。
6. スキルマップを導入・定期更新
スキルマップが作れたら早速導入を開始しましょう。導入後、不備があった場合は修正やルールの変更を随時行います。また定期的に更新し、人材育成に役立てていきましょう。

スキルマップ導入でよくある失敗例と解決策
スキルマップの導入は多くのメリットをもたらしますが、導入された現場では様々な課題を生むことがあります。ここでは、スキルマップを導入する際に陥りがちな失敗例と、それぞれに対する対策をご紹介します。
失敗例①:項目を増やし過ぎて更新が滞る
従業員の持つスキルを詳細に把握したいという思いからスキル項目を細かく設定しすぎてしまうことがあります。網羅性を意識すればするほどスキルは解像度高く管理できる一方で、評価や更新に膨大な時間がかかり、担当者の負担が増大して運用が継続できなくなってしまうリスクがあります。
そのため、担当者の運用のしやすさを考慮して、他部署との共通性も意識しながらバランスよく項目を設定するようにします。
失敗例②:評価基準が曖昧で属人的になる
評価基準を「レベル1:基本ができる」「レベル2:応用ができる」といった抽象的に設定すると、評価者によって判断基準がばらつきが生じて、評価の公平性や一貫性が保てなくなる恐れがあります。そのため、評価基準には「作業時間○○分以内」など数値基準を併用するようにします。
失敗例③:従業員の間で温度差が生じる
スキルマップの導入はスキルマネジメントをはじめる第一歩です。しかし、スキルマップを活用したスキルマンジメントに対して従業員の間で温度差が生じることもよく見られる事象です。スキルマップの運用は現場の従業員に入力作業の手間などの負担を生じさせます。それを負担と思う従業員とスキルマップの活用によって効果的な人材配置や評価を期待する従業員との間に温度差が生まれるのです。
この温度差を解消するには、スキルマップの運用に積極的でない従業員に対してスキルマップによって得られるメリットを説明することが効果的です。
スキルマップのエクセルテンプレート
厚生労働省「職業能力評価シート」
厚生労働省のホームページでは、事務系職種やねじ製造業などの16業種についてそれぞれキャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルが公開されています。 たとえばねじ製造業では、職業能力をレベル1〜4まで区分けしています。それぞれのレベルの目安年数などが書かれたキャリアマップで、キャリアアップのイメージをつかみます。職業能力評価シートはExcelで公開されていますので、自社の業務にあった評価項目に編集して使用することができます。 また、これらのキャリアマップ、職業能力評価シートの詳細な活用方法が書かれた32ページの導入・活用マニュアルがあります。かなり充実したコンテンツなので、スキルマップの導入を目指す方はぜひ一度ご覧ください。
独立行政法人情報処理推進機構『情報システムユーザースキル標準(UISS)』
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定した「情報システムユーザースキル標準(UISS)」は、IT人材用にスキルマップを作る際に必要となる情報がまとめられています。IT人材用のスキルマップを作りたいときにはぜひこちらを参考にしてください。
→独立行政法人情報処理推進機構『情報システムユーザースキル標準(UISS)』をダウンロードする
スキルマップの活用方法
[企業側]評価結果のフィードバックと能力開発計画の作成
スキルマップが作成できたら、担当者や上司は定期的な評価を行いましょう。評価を行った後は面談などで評価結果を従業員にフィードバックすることが望ましいです。 教育計画作成の場面では、スキルマップを用いて不足しているスキルを補うような教育計画を作りましょう。なお、部門を横断した不足部分の分析には、クラウドサービスを利用すると簡単に分析できます。
[従業員側]目標の見える化
従業員は、「現在の評価」「前年から評価の上がったスキル」「今後評価を上げなければいけないスキル」を、スキルマップを見ながらパッと把握することができます。自身の目標を明確に持つことで有意義な教育を受けることができるでしょう。従業員側からスキルマップを用いて、自身の今後伸ばしていきたいスキルなどを上司に説明できれば高評価にもつながります。
スキルマップを導入している企業が多い業界
製造業
前述の通り、ISO 9001の要求事項として従業員の力量評価が求められています。ISO 9001の取得企業数は2022年現在3.7万社。このうち半数以上が建設業・製造業です。これらの業界では、多くの企業でスキルマップが導入されていることが分かります。
IT業界
IT業界でもスキルマップの導入企業が増加しています。専門性や技術力、広範な知識が必要になり、従業員のスキルレベルの把握が難しいことから導入が増えていると考えられます。

トヨタ自動車によるスキルマップ活用例
トヨタ自動車
トヨタ自動車株式会社では、以前から従業員の「多能工化(マルチタスク化)」を進めるためにスキルマップを活用しています。
多能工とは1人で複数の幅広い仕事ができる作業者のことです。多能工化した従業員には複数のスキルの必要となる業務を任せることができるため生産性が向上します。
トヨタにおける多能工化の考え方は大野耐一氏(元トヨタ自動車工業副社長)によって生み出されたと言われています。それまでの製造業では1人の作業者が1台の機械を作業することが一般的で、作業は属人化している状況でした。しかし、トヨタによる多能工化によって生産性が向上した結果、製造業を中心に従業員の多能工化の導入が進められてきました。
トヨタにおける「多能工化」の推進は、現在では「トヨタ式生産方式」と呼ばれ、「スキルマップ」活用の成功例として知られています。トヨタ式生産方式では、スキルマップを活用して従業員のスキル状況を可視化し、不足スキルを洗い出します。これにより「不足スキル」に対して従業員に最適な教育を行えるようになるため、スキル情報をベースにした効率的な人材育成が実現できます。
スキルマップを活用した多能工化の推進により、製品品質のばらつきを抑制でき、品質を高いレベルで安定した生産体制を構築できます。
→「Skillnote」を使ってスキルマップをシステム化して効率的に管理する
【職種別】スキルマップ作り方のポイント・項目例
営業職
営業職のスキルは言語化しにくい項目が多いと思われる方もいるかもしれません。しかしこういった言語化しにくいスキルを言語化し評価を行っていくことで、従業員が自分の長所や短所に気付けますのでモチベーションアップにつながります。
営業職のスキル項目の例としては下記があります。
- 企業倫理の遵守、倫理的問題発生時の解決能力
- 課題設定・解決能力
- 顧客との関係構築能力
- 交渉力
- プレゼンテーション能力
- ヒアリング能力
ITエンジニア
ITエンジニアはプログラミング能力が必須ですが、顧客対応も求められる職種です。プログラミング能力だけではなく広範なスキルをITエンジニアのスキルマップには登録するとよいでしょう。ITエンジニアの項目例は以下です。
- テスト(デバック)
- プログラミング能力
- 設計能力
- 要件定義
- リーダーシップ
- 顧客対応力
- マネジメント力
生産技術職
生産技術職は、製造の作業員に指示を出したり、新規製品や設備の導入、ときには顧客との折衝も行うため広範なスキルが求められます。企業や業界によって生産技術職の位置づけは異なりますが、スキル項目の一例を挙げます。
- 製品や設備に関する知識
- 統計学などのデータ処理能力
- コミュニケーション能力
- 課題設定・解決能力
経理職
専門職的なイメージの強い経理職では経理に関する独自の知識が問われます。また経理職に限った話ではありませんが、公的資格と組み合わせてスキル項目を設定するのも効果的です。
- 経理に関する知識と実践能力(財務諸表、原価計算、国際会計実務など)
- 法律知識(会社法、金融商品取引法など)
- 公的資格の取得(中小企業診断士、ビジネス・キャリア検定など)
スキルマップを導入する際の注意点
管理が煩雑で時間がかかる
スキルマップを作るには、管理するスキルや従業員のスキル状況の把握が必要となります。そのためスキルマップ作成には非常に時間がかかります。また、作成できてからも半年や年に1回など更新が必要です。
さらに作成を部署ごとに任せてしまうと、フォーマットや評価レベルに差異が生じ、結果的に取りまとめが難しくなります。
また、スキル項目や従業員の数が多い場合の管理、有効期限のある公的資格の管理は煩雑を極めます。
スキルマップによるスキル管理が煩雑になる場合は、専用システムを導入してクラウドで一元管理を行う方法もあるので、検討すると良いでしょう。

すぐに効果を感じにくい
スキルマップの作成や管理は煩雑な反面、すぐに効果が感じにくいものです。残念ですがスキルマップを作るだけでは人材は育ちません。教育・研修を実施するなど作成後のスキルデータの活用こそが効果を出すためには重要となります。
スキルマップの作ることだけで満足せずに、データを人材育成・配置などに積極的に活用していきましょう。もちろん定期的な更新は忘れずにスキル情報を最新の状態に保っておくことも重要です。スキルマップは業務効率化に必ずつながるツールです。スキルマップの作成・活用は中長期的な視線とともに進めていきましょう。
まとめ
スキルマップはスキルデータを活用することで効果的な人材育成・配置を促す魅力的なツールです。ぜひ導入の検討を進めていきましょう。
スキルマップによる力量情報の管理で、スキルの見える化を実現!
スキルをベースに人材配置や評価をしたくても、従業員がどんなスキルを持っているかわからない・・・
こんな悩みを持たれていませんか? そんな方におすすめなのが「スキルマップ入門」です!
「スキルマップ入門」を読めばこんなことがわかります。
- スキルマップの作り方
- スキルマップを作る際のポイント
- スキル体系の整理の仕方
- スキルマップとは何ですか?
-
スキルマップとは、「業務で必要なスキルを洗い出し、各従業員の持っているスキルを一覧にした表」のことです。組織内のスキルの状況を把握し、計画的な人材育成を図るために使われます。スキルマップは、企業によっては力量表、力量管理表、技能マップと呼ぶこともあります。また、海外ではスキルマトリックス(Skills Matrix)という呼び方が一般的です。
- スキルマップ なんのため?
-
スキルマップを作成する目的には、「スキルや人材の見える化・可視化」「人材育成」「従業員のモチベーションアップ」の大きく3つがあります。
- スキルマップは誰が作るの?
-
スキルマップを作るのは部門や部署の所属長(上司)である場合が多いと言えます。職場の上司が、部下がどのようなスキルをどのレベルで持っているかを把握・評価した上で作成します。しかし場合によっては、部下自らが作成する場合もあります。しかし、この場合も上司が記載内容を確認します。