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スキルトランスファー(スキトラ)とは? 定義、目的、メリット、5つのポイントと進め方を解説

スキルトランスファーとは?

ブラックボックス化した業務の属人化を解決して技術・技能伝承を進めたり、品質の安定化を導いたりするものとして「スキルトランスファー」が注目を集めています。

この記事では、スキルトランスファーの意味や目的、進め方、取り組む際に活用できるツールなどを紹介します。

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スキルトランスファーとは

スキルトランスファー(スキトラ)とは、特定の従業員が保有する技術・技能(あるいは、社内に蓄積された技術・技能)を従業員に引き継ぐことです。

継承の対象は、業務プロセスやツールの使用方法といった業務に関する具体的な情報だけではなく、業務に取り組む際の考え方や感覚などの抽象的な情報も含みます。

ナレッジトランスファーとの違い

スキルトランスファーの類語に、ナレッジトランスファー(ナレトラ)があります。ナレッジトランスファーとは、特定の知識やナレッジを、それを必要としている人に引き継ぐことです。スキルトランスファーよりも広い意味を持ちます。

引き継ぐナレッジは、「暗黙知」と「形式知」に分類されます。ナレッジトランスファーを進めるためには、SECIモデルを用いて暗黙知を形式知に変換することが効果的です。

関連記事:暗黙知と形式知の違いを解説。課題と実践方法をご紹介

関連記事:SECIモデルとは?ナレッジマネジメントへの活用と具体例

06. 計画的な技能・技術伝承

スキルトランスファーの目的

スキルトランスファーの目的は、属人化の解消にあります。

属人化とは、ある業務に関して、特定の人物しか「進め方を知らない」「進捗状況を把握していない」「その業務を進めるスキルを持っていない」状態のことを指します。そのため、業務の属人化が起こっている状況では、その業務を担当している従業員が退職や休職、異動などで不在になると、業務が進まなくなります。

業務の属人化が進むと、業務がブラックボックス化します。その結果、品質が不安定になったり、培われた技術・技能が喪失したりする悪影響が生じます。品質の不安定化も技術・技能の喪失も企業にとっては大きな損失です。スキルトランスファーによる属人化の解消が求められています。

関連記事:属人化とは? デメリットと原因、解消方法を解説

スキルトランスファーのメリット

スキルトランスファーには、以下のメリットがあります。

従業員の成長と技術・技能伝承の促進

即戦力ではない新人や若手従業員にベテラン従業員が知識・技術・経験を継承することで新人や若手従業員の成長が促進されます。その際、ベテラン従業員の持つコツや勘なども引き継ぐことができ、技術・技能伝承も進みます。

関連記事:【事例アリ/成功パターン解説】技術伝承とは? 暗黙知と形式知、技能伝承との違い、行わないリスクと成功させるコツ、デジタル技術活用

06. 計画的な技能・技術伝承

チーム・組織能力の向上

従業員同士が互いに不足しているスキルを補完し合うことで、チーム全体で大きな成果を生み出せます。

また、スキルトランスファーをとおして従業員同士の連携が強化されるため、チーム内のコミュニケーションも活発になります。

指導側のスキルアップ

教える側が伝承する技能や技術をわかりやすく言語化することで、自身の培ってきたスキルを客観的に整理ができるため、教える側の自己成長にもつながります。

スキルトランスファーの5つの方法

スキルトランスファーは、以下5つの方法に分類できます。

連続移転

連続移転とは、業務をとおして得たスキルやノウハウを同じような業務で活かせるようにする方法です。

引継ぎの際に前任者が後任者に対して、業務内容や注意点などを教授したり、先輩社員が後輩社員に仕事の進め方を教えたりする場合がこれに当たります。

チーム内で定期ミーティングを開催するなど、情報共有の場を積極的に設けることが連続移転を成功させるコツです。

近接移転

近接移転とは、業務をとおして得たスキルやノウハウを、その業務とは別の業務や組織で活かせるようにする方法です。たとえば、ある部署が導入したツールを別の部署でも活用するような場合がこれに当たります。

定例ミーティングを開催するなど、チーム・部門をまたいだコミュニケーション機会の創出が効果的です。

専門知移転

専門知移転とは、特定の業務を行う際の専門性の高いノウハウを、他の従業員も使えるようにする方法です。これにより、組織全体のスキルが向上します。

OJTや勉強会の開催など、高度な技術や技能を持つ従業員が専門的な知見を伝えられる場所をつくることが専門知移転の成功に寄与します。

遠隔移転

遠隔転移は、非定型業務における言語化しにくいスキルやナレッジを、他の従業員が活用できるようにする方法です。

遠隔移転の対象となる非定型業務で使用するスキルや技能は、OJTでの伝達が困難です。遠隔移転を成功させるには、視覚的な工夫を凝らしたり、教わる側が質問気軽に質問をできるような機会を積極的につくったりする必要があります。

関連記事:OJTとは? OFF-JTとの違いや運用のコツ、メリットについて解説

戦略移転

戦略移転は、専門知移転以上に活用機会の少ないノウハウを共有する方法です。

活用機会が少なく専門性が高いことから、戦略移転の対象スキルは、属人化しやすく、継承の優先順位も低くなりがちであると言えます(その分、喪失リスクが高い)。

企業の継続的成長にとって必要不可欠だと判断した技術や技能は、戦略的に伝承する機会を設けましょう。

06. 計画的な技能・技術伝承

スキルトランスファーの進め方・ポイント

スキルトランスファーを進める際には、以下のポイントを意識しましょう。

全社に方針を共有する

まずは、企業としてのスキルトランスファーに関する方針を定めて、それを全社に共有します。

方針が定まっていないと、いざ進めようと思っても部会ごとに進め方がバラバラになったり、部会をまたいだ情報共有が滞ったりしてしまいがちです。スムーズな運用のためにも、まずは全社的な方針を定めましょう。

移転しやすい(情報共有しやすい)環境をつくる

全社で方針を示しても、進行を部会ごとの担当者だけに委ねてしまえば進捗にばらつきが生じてしまいます。そこで、情報共有を円滑にするツールを導入したり、部会をまたいだ定期的ミーティングを開催したりするなど、情報共有しやすい環境を整備しましょう。

移転の対象範囲を決定

全てのスキルを移転対象にするのは、現実的ではありません。どのスキル移転の対象とするのかを決めましょう。以下のような視点は、移転対象を決める際の参考になります。

  • 生産性の向上につながるか
  • 広範囲で活かせるか
  • 業務上、必要不可欠か
  • 属人化しているか
  • 引き継ぎは容易か

この際、「何年後にどのスキルが喪失するか」をパッと把握できるスキル管理システムを活用することは効果的です。

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担当者を決める

スキルトランスァーの担当者を決めます。担当者には、移転対象の業務に関して豊富な経験と知識を持った従業員を任命します。社内に適切な人材がいない場合には、候補となる従業員をピックアップして彼らに外部研修を受講させ、担当者として育成します。

なお、移転するスキルが多い場合には、特定の従業員に負荷が集中しすぎないように配慮します。

従業員のケア(時間的・精神的側面のフォロー)

スキルトランスファーは、教える側にも教わる側にも心理的な抵抗を生むものです。教える側からすれば、「せっかく取得としたスキルを簡単に教えたくない」と思うことは自然なことでしょう。また、教わる側が「わざわざ指導を受けたくない」と感じることもそれと同様に自然なことです。

そのため、対象者には「スキルトランスファーがなぜ重要なのか」をきちんと伝え、スキルトランスファーについての理解を促します。

研修を行う

教える側となる高スキル人材は、必ずしもスキルトランスファー自体に精通しているわけではありません。スキルトランスファーの進め方がわからないこともあるでしょう。

その場合には、スキルトランスファーに関する研修を行い、手順や移転方法を伝えて教える側の不安を取り除きます。

スキルトランスファーに役立つツール

スキルトランスファーを行う際には、以下のツールを使うと良いでしょう。

チャットツール

チャットツールは、電話やメールと比べて気軽なコミュニケーションが可能です。情報共有が盛んになるため、質疑応答などがスムーズに行えます。

また、テキストが残るため、後から内容を確認できます。この点もチャットツールのメリットの一つです。

社内wiki

社内wikiは、従業員が業務に関する情報を編集・蓄積できるツールです。社内wikiを活用することで、ノウハウを体系化できます。

いつでも・誰でも情報を取り出せるように目次を作って情報を整理して、引き継ぎたい内容を抜け漏れなく記載しましょう。

オンラインストレージツール

オンラインストレージツールは、クラウド上にファイルを保存し関係者に共有できるツールです。各個人のPC(パソコン)ではなくクラウド上で管理することで、紛失を防げます。

オンラインストレージツールを活用する場合は、最新版の資料を明確にできるようにバージョン管理のできるものを採用するか、社内でバージョンを管理するルールを決めましょう。

タレントマネジメントシステム

タレントマネジメントシステムは、人材データを一元管理して人材配置や評価に活用できるシステムです。タレントマネジメントシステムに従業員が保有するスキルや業務経験を集約させることで、スキルトランスファーの担当者や対象範囲を決められます。

関連記事:タレントマネジメントシステムとは? 導入のメリットや失敗しない選び方について解説

動画マニュアル作成ツール

スキルトランスファーで操作手順を引き継ぐ際には、動画マニュアル作成ツールが効果的です。たとえば、パソコン上での操作をそのまま動画マニュアルとして作成できるため、マニュアル作成を短時間で行えます。

また、動画マニュアルを作成しておくことで、引き継ぎも楽になります。

関連記事:製造業にとって効果的なマニュアル作成とは? 作成の手順とポイントを解説

スキル管理システム

スキル管理システムとは、スキル情報を一元管理して、スキルをベースにした人材配置や育成に活用できるシステムです。システム化されたスキルマップによって、従業員のスキルを抜け漏れなく、統一フォーマットで可視化できます。複雑なスキル情報を扱う製造業企業に多く活用されています。

関連記事:【徹底解説】スキル管理システムとは? 導入メリットと効果、活用シーン、システムの種類について

スキルトランスファーを行う際にスキルマップを活用することで、引き継ぎの対象範囲や担当者の選定を計画的かつ効率的に進められます。

関連記事:【エクセルテンプレートあり】スキルマップとは? 作り方、作成するメリット、手順・項目例、目的、活用方法、テンプレ

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スキルノート編集部

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よくある質問

「スキルトランスファー」の言い換えは?

スキルトランスファーの類語に「ナレッジトランスファー」があります。「knowledge(知識)」を「transfer(移転、移動させる)」を組み合わせた語です。

「スキルトランスファー」と「ナレッジトランスファー」の違いは?

スキルトランスファーの類語に、ナレッジトランスファー(ナレトラ)があります。ナレッジトランスファーとは、特定の知識やナレッジを、それを必要としている人に引き継ぐことです。スキルトランスファーよりも広い意味を持ちます。

「スキトラ」とは何ですか?

スキルトランスファーとは、特定の従業員が保有する技術・技能(あるいは、社内に蓄積された技術・技能)を従業員に引き継ぐことです。「スキトラ」と略されることもあります。

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