SOP(標準作業手順書)は、誰が作業しても同じ品質と安全性を確保するための「作業の標準」をまとめた文書です。製造業・食品業界を中心に、多くの現場で品質トラブル防止や属人化の解消に欠かせないツールとなっています。しかし、マニュアルとの違いがあいまいだったり、作成しても現場で使われないなどの課題も少なくありません。本記事では、SOPの意味や役割、導入メリット、効果的な作り方の手順、現場で活用されるためのポイントまでを解説します。これからSOPを整備したい企業に役立つ内容です。
目次
SOP(標準作業手順書)とは
SOPの意味とは?
SOP(Standard Operating Procedure)とは、誰が業務行っても一定の品質・安全性・生産性を確保するために定めた手順書のことです。日本語では「標準作業手順書」と呼びます。
SOPは作業の流れを示すのはもちろんのこと、業務の目的・必要な技能・注意事項・品質基準などを明確化することで、作業品質のバラつきや属人化を防ぐ役割を持ちます。食品・医薬品・製造業など、品質や安全が重要視されている業界で特に必須の文書です。
SOPとマニュアルの違いとは?
SOPと混同されやすい用語にマニュアルがあります。二つの用語は一見似ていますが目的と意味が違います。
SOPは業務を標準化するために作業の具体的手順に焦点を当てた文書です。主に実務にフォーカスしており、その業務や作業に不慣れの人が作業手順を理解するために使用します。
一方、マニュアルは業務の理解を支援するための「説明書」です。そのため、作業の手順だけではなく制度・概要・背景・ノウハウなど広い内容を含みます。マニュアルは業務の全体像を知るための文書と位置づけられます。
現場ではマニュアルとSOPが混同されがちですが、SOPはより実務レベルの詳細さと再現性が求められる点がマニュアルとの大きな違いです。
SOPと取扱説明書の違いとは?
取扱説明書もSOPと混同されやすい用語ですが、SOPとは違う意味を持ちます。取扱説明書は、機械や装置、製品の正しい扱い方や安全な使用方法を利用者に伝える文書です。特定の器具や機械に限定して記述される点に特徴があります。
一方、SOPは、特定の業務プロセスを社内で標準化するために作業の具体的な手順を記載した文書です。
SOPの5つのメリット
業務効率化
SOPを整備することで、作業手順のムダや曖昧さが排除され、現場の業務効率が大きく向上します。SOPでは業務の標準化を目的として具体的な作業手順が示されているため、作業者が迷わず作業を進められます。そのため、作業者間での作業品質のばらつきの低減と判断時間や確認作業、手戻りの短縮と軽減を実現でき、品質の安定化と作業スピードの向上を両立できます。結果として、SOPの整備によって生産性向上とコスト削減の両方に寄与できます。
業務の属人化の防止
SOPは、誰が作業しても同じ結果を得られる作業手順を示した文書です。SOPがあることで、特定の担当者に依存した業務の属人化を防止し、引き継ぎや人員配置の柔軟性が高まります。人材の入れ替わりがあってもSOPに沿って作業をすることで品質や生産性が大きく崩れない体制を築くことができます。特に製造業や食品業界のような人手不足や高齢化が進む現場において、安定操業を支える重要な仕組みとなります。
教育時間の短縮
SOPは、新人育成にかかる時間を短縮することにも貢献します。新人が現場に配属されたらまずは基本的な作業手順を示したSOPを覚えてもらうことでそのあとの複雑な応用的な手順の説明や教育もスムーズに進みます。また、作業手順が明確に整理されているため、新人が自習しやすく、教育担当者の負担も軽減されます。結果として、SOPが整備されていることで新人の教育が進み、現場全体の戦力強化に寄与します。
従業員の意識向上
SOPがあることで、新人や未熟な作業者は作業手順をスムーズに習得できるようになります。また、業務の標準化を目的として手順が記載されているため、「なぜこの作業が必要なのか」や「どこにリスクがあるのか」と作業者が自ら意欲的に工夫を考えるきっかけにもなります。これにより「よりよい手順を考えよう」という機運も高まり、現場から主体的な改善提案が生まれやすくなるという好循環も期待できます。
安全性の向上
SOPには、作業に潜むリスクや注意事項、安全基準が明確に記載されるため、作業者の危険行動を防ぎ、事故・ヒヤリハットの発生を減らす効果があります。特に製造業や医薬品・食品業界のように、設備の取り扱いや衛生管理が重要な現場では、SOPの整備が安全文化の基盤となります。また、事故発生時の対応手順もSOPとして整備しておくことで、被害の拡大防止にも寄与します。SOPが整備されていることで、現場の安心と安全性を高いレベルで維持できます。
SOPの5つの手順
管理する業務の選定
SOPを作成する際は、まず「どの業務を標準化すべきか」を選定することが重要です。選定する基準としては、「品質や安全性に大きな影響を与える作業」「作業者によってやり方が異なりやすい作業」「教育に時間がかかる作業」「多くの従業員が関与する作業」などを設けて、SOPによる効果が高いと見込まれる領域から優先的に作成する対象とします。
また、工程全体をいきなり標準化してしまうのではなく、「リスクの大きい工程」「不良が起きやすい工程」などを抽出して、重要度の高い作業から着手することで成果を出しやすくなります。
目的・目標の選定
次に、SOPを作成する目的・目標を明確にします。あらかじめSOPの目的・目標を定めておくことで作成後の効果測定が容易になります。
目的・目標のよくある例としては「品質の安定化」「作業のばらつき削減」「教育時間の短縮」「業務効率化」「ミス削減」などが挙げられます。「SOPによって何を達成したいのか」という目的・目標が明確であればあるほど、SOPの記載レベルや必要な項目が定まりやすく、現場で実際に活用されやすいSOPを作成できます。SOP作成の際には定量的な目標を設定し、作成後の効果を評価しやすくして適宜改善を行える体制を整えましょう。
使用者・利用場面の選定
SOPを作成する際には、誰が・どの場面で使用するのかを想定しておく必要があります。新入社員が使うのか、熟練者向けなのか、外部スタッフが対象なのかによって、記載内容の粒度や表現方法が変わってきます。また、利用シーンを想定しておくことも重要です。製造ラインで実際に手順を確認しながら使用するのか、教育時の教材として使うのかなど、どのような利用シーンで活用するかによっても記載内容は変わってきます。
フォーマットの決定
SOPの形式やフォーマットは、作業者がその作業内容を理解しやすいものを選ぶことが重要です。作業ごとにどの形式であれば作業者が理解しやすいかを考慮した上で、文章メインの手順書にするのか、写真・イラストを活用したビジュアル中心の形式にするのか、それとも動画中心の形式にするのかを判断します。また、作業目的、必要な工具・材料、注意事項、作業手順、検査ポイントなど、どの項目を必ず盛り込むかも事前に決めておくと作成がスムーズです。
運用方法の決定
SOPは作って終わりではなく、運用して初めて効果を発揮します。そのため、SOPをどのように管理し、どのタイミングで改訂するのかを事前に決めておくことは大切です。
紙で配布するのか、デジタルで管理するのか、現場の端末で閲覧できるようにするのかなど、運用方法をあらかじめ明確にしておきます。また、工程変更や設備更新の際には必ずSOPを見直す仕組みを構築してことで、常に現場に合った最新の標準作業手順書を維持できます。定期的な教育や監査と連動させることも効果的です。
SOPを作成する際のポイント
熟練者や若手の意見を踏まえる
SOPを作成する際は、現場の熟練者だけではなく若手作業者など多様な意見を取り入れることが重要です。熟練者は作業のコツや注意点を深く理解しているため作業におけるリスクや危険なポイントや作業効率化のための気づきを可視化してくれます。
一方、若手作業者は初心者の立場からつまずきやすいポイントや難しい用語を客観的に指摘してくれます。
SOP作成の際には双方の視点を踏まえることで、実務的でありながら初心者にも理解しやすいSOPを仕上げることができます。
図や表を使用して視覚的にわかりやすくする
SOPは、文章だけでなく工程図、写真、イラスト、チェックリストなどの視覚的要素を積極的に活用するとわかりやすいSOPに仕上がります。
文章だけでの説明では理解に時間がかかって最後まで読んでもらえなかったり、どこに何が書いてあるのかわからなかったりする、解釈がひとによって異なったりする場合があります。そのため、工程図、写真、イラスト、チェックリストなどを使ってビジュアルで理解しやすくすることで、読む人によって解釈のズレが生じるのを防ぐことができます。
要点を分かりやすく記載する
SOPには、できる限り要点を分かりやすく記載することを心がけます。
SOPは、作業の目的・必要な道具・注意点・手順・確認ポイントなど、多くの情報を含める必要があります。そのため、全てを正確に記載しようとするあまり記載内容が多くなり、誰にでも判断できるレベルのことまで書き込んでしまう場合があります。これでは「本当に理解すべきこと」が膨大な記載のなかに埋もれてしまい、ミスや危険を防止できなくなります。不必要なことは記載せずに要点に絞って記載しましょう。
また、冗長な説明は避け、複雑な作業は番号付きの手順や箇条書きを用いて整理することも効果的です。また、品質基準や安全項目を一目で理解できるように配置することで、作業者が迷わず作業を進められるSOPになります。
常にアップデートして運用する
SOPは一度作成して終わりではなく、現場の変化に合わせて定期的に更新して情報を常にアップデートしておく必要があります。設備の更新、材料の変更、作業手順の改善などが発生した場合、SOPを放置すると現場とのズレが生じ、逆にトラブルの原因になりかねません。更新ルールを明確にし、見直しのタイミング(例:年に1回、工程変更時など)を決めて管理することが重要です。
ツールを使用する
SOPは、デジタルツールを活用することで効率的に作成・管理することができます。紙ではなくてデジタルで管理することで更新もしやすく常に最新の状況を維持しやすくなります。また、オンラインでの共有もしやすいため、各拠点の従業員ともリアルタイムで共有できます。
なお、SOPの作成に役立つデジタルツールとしては、googleドキュメントやnotion、Miroなどがあります。
まとめ
SOP(標準作業手順書)は、品質・安全・生産性を安定させるために必要不可欠な文書です。マニュアルや取扱説明書とは異なり、現場の具体的な手順を明確化し、誰が行っても同じ結果を再現できる点に特徴があります。SOPを整備することで、業務の標準化を促すことはもちろん、業務効率化、属人化防止、教育時間の短縮、安全性向上など多くのメリットが期待できます。
また、SOPは作成して終わりではなく、現場の改善や変化に合わせて更新し続けることが重要です。熟練者・若手双方の意見を取り入れ、図表や写真を活用し、利用者目線でわかりやすいSOPを作ることで、現場で「実際に使われる」手順書へと変わります。
組織として品質を安定させ、戦力を底上げするためにも、SOPの正しい整備と継続的な改善に取り組むことが不可欠です。
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