人員配置とは?目的、種類、6つのステップと効果的に人員配置行うポイントを解説

人員配置は企業の生産性と競争力を左右する重要な経営戦略の一つです。適切な人員配置は、生産効率の向上だけでなく、従業員の成長機会の創出やモチベーション向上にもつながります。とくに製造現場では、技術革新やデジタル化の進展により、従来の技能に加えて新たなスキルが求められていることもあり、戦略的な人員配置の重要性が増しています。
本記事では、製造業における人員配置の目的や種類、効果的に行うためのステップやポイントまで詳しく解説していきます。
目次
人員配置とは
人員配置とは、企業の経営目標達成に向けて、従業員をどこに配置するか決めることです。
一人ひとりの能力を最大限に活かすため、各従業員が持つ専門知識、技術力、経験値、キャリアビジョンなどを総合的に評価し、それぞれの特性に最も適した職務や部署に配置を目指します。
現時点での従業員の能力を活かすような人員配置はもちろん、将来的な人材育成の視点も含めた戦略的な配置計画の立案が重要となっています。
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人員配置の目的
人員配置の目的は事業目標の達成、人材育成、従業員のモチベーションの向上の3つに大別されます。どれも企業が存続するためには欠かせません。
事業目標の達成
従業員一人ひとりのポテンシャル、適性、専門スキル、実務経験、キャリアビジョンなどを詳細に分析し、最適なポジションに配置することで、新規事業の開発や、生産性の向上、品質の改善、コスト削減などの具体的な成果につながります。
また、製造現場では、複数の工程を兼任できる多能工の育成も注目されています。多能工を育成するために配置変えを行い、これまでとは違う業務を経験してもらう方法があります。
このように、部門間の連携強化や熟練工の技術伝承、人手不足への対応など、長期目線での人員配置が企業全体の競争力強化に貢献します。
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人材育成
定期的な配置転換や異動を通じて、従業員は新たな技術やスキルを習得し、幅広い業務経験を積むことができます。将来の幹部候補生の育成や、多能工化の推進など、企業にとって必要不可欠な人材の育成のための人員配置は非常に重要です。
とくに製造業では、さまざまな工程や技術に精通した柔軟な対応力を持つ人材の育成が重要であり、計画的な配置転換がその基盤となっています。
従業員のモチベーション向上
新たな職場環境や業務への挑戦は、従業員の成長意欲を刺激するためモチベーション向上につながります。
異なる部署での経験をとおして、自身の可能性を広げ、キャリアの選択肢を増やせれば従業員の自己効力感を増すことができます。また、適材適所の配置により、従業員は自身の強みを活かせる環境で働くことができ、仕事への満足度も向上します。従業員のモチベーションが向上すれば、離職率の低下や組織への帰属意識の強化につながります。
日本国内においても転職者は増加傾向で、総務省統計局の調査によると2023年の転職者は325万人と前年から12万⼈増加し、転職希望者数も1035万人と78万⼈増加しました(※)。離職理由として職場の人間関係を挙げる人も多く、離職防止のための人員配置も企業には重要な課題と言えます。
※出典:総務省統計局労働⼒⼈⼝統計室「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」
人員配置の種類
製造業における人員配置は、大きく5つの種類に分類されます。それぞれの配置方法には固有の目的と効果があり、企業の状況や目標に応じて適切に選択、組み合わせることが重要です。
異動・配置転換
異動・配置転換は、従業員の所属部署や就業場所を変更し、新たな仕事内容や職場環境を経験させる施策です。
製造業では、異なる製造ラインや工程間での配置転換により、多能工化を促進し、生産体制の柔軟性を高めることができます。また、研究開発部門と製造部門間の人事交流なども、技術革新や品質改善に効果的です。
従業員にとっては、幅広いスキルと経験を積む機会となり、キャリア形成の重要な手段です。
採用(新卒・中途)
新卒・中途採用は、企業外部から新たな人材を獲得し、適切なポジションに配置する方法です。
製造業では、技術革新への対応や事業拡大に伴い、専門的なスキルや経験を持つ人材の確保が重要です。新卒採用では、将来の中核人材の育成を見据えた配置を行い、中途採用では即戦力として活躍できる部署への配置を検討します。両者を適切に組み合わせることで、バランスの取れた人員構成を実現できます。
昇進・昇格
昇進・昇格は、従業員の職位や職責を上げ、モチベーション向上を図る人員配置です。
製造業では、技術力や管理能力の向上に応じて、監督者や管理者への昇進機会を設けることが一般的です。とくに、現場での実務経験と技術的専門性を評価した昇進制度は、従業員の成長意欲を高め、技術伝承や品質管理の強化にもつながります。また、職位に応じた権限と責任の付与や昇給により、組織の活性化も期待できます。
雇用形態の変更
雇用形態の変更は、パートタイム、アルバイト、契約社員、派遣社員など、多様な雇用形態間での転換を行う配置方法です。製造業では、生産量の変動に柔軟に対応するため、これらの雇用形態を戦略的に活用します。また、優秀な非正規社員の正社員登用など、キャリアアップの機会を提供することで、人材の定着化と技能向上を図ることができます。
働き方改革の観点からも、従業員のニーズに応じた柔軟な雇用形態の選択が重要となっています。
リストラ・雇止め
事業環境の変化や業績悪化により、人員削減が必要となる場合があります。
製造業では、景気変動や技術革新による事業構造の変化に伴い、既存人員の再配置や削減を検討せざるを得ない状況も発生します。このような場合、まず配置転換や教育訓練による雇用維持を優先的に検討し、それでも対応が困難な場合に限り、リストラや有期雇用者の雇止めを実施します。
その際は、対象者の再就職支援など、社会的責任を考慮した対応が求められます。
人員配置を行う6つのステップ
効果的な人員配置を実現するためには、体系的なアプローチが必要です。以下の6つのステップに従って進めることで、より戦略的で成果の得られやすい人員配置が可能となります。各ステップでは、現状分析から実行後のフォローまで、継続的なプロセスを踏むことが重要です。
1. 事業目標と現状の人員配置の確認
効果的な人員配置を行うためには、まず現状を正確に把握することが重要です。企業の事業目標からどの部署にどのような人材が何人必要か、場合によっては部署自体の増設も考えましょう。
一方、現状の従業員の人員配置の確認も重要です。従業員一人ひとりの勤怠データ、保有スキル、取得資格、研修履歴などの各種データを収集・分析し、人材の状況を可視化します。
従業員の現状を把握するには、スキルマップの活用が非常に効果的です。さらにスキルマップをシステム化したスキル管理システムを導入することで、より効率的なデータ管理と分析が可能となります。
スキルマップとは
スキルマップは、従業員一人ひとりが持つ技能や知識を可視化するためのツールです。縦軸に従業員名、横軸に必要なスキル項目を配置し、各スキルの習熟度を数値で表現します。各従業員の能力や経験を客観的に評価し、適切な配置判断の基礎資料とすることができます。
製造業ではとくに、機械操作能力、品質管理知識、安全管理能力など、具体的な技術スキルの評価も重要です。
また、人材データの一元管理により、部門間での情報共有や全社的な人材活用の検討も容易になります。部門横断的なスキル比較により、全社的な人材育成の方向性を検討する際の基礎資料としても活用できます。
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スキルマップは、従業員のスキルを管理するためのツールです。スキルマップの活用によって効率的な人事配置や人材育成が可能になります。
ここでは、スキルマップについて目的や作り方、手順・項目例、目的、活用方法、導入企業、テンプレートなどをご紹介します。
2.ギャップを分析して人材要件を決める
事業目標達成に必要な人材要件と、現状の人材スキルとのギャップを分析します。この分析により、不足している人材像や必要な経験、キャリア、スキル、資格などを明確化できます。
とくに製造業では、技術の進化に応じた新しいスキル要件も考慮に入れる必要があります。デジタル化やIoT導入に伴う新たなスキル要件の定義や、従来の技能と新技術の融合による複合的なスキル要件の設定も重要です。
また、グローバル化に対応するための語学力や異文化理解力など、従来の製造業では重視されなかったスキルについても検討が必要です。このギャップ分析を通じて、採用計画や教育訓練計画の方向性も明確になります。
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スキル管理とは? 目的・方法とスキルマップの活用
企業が事業を継続し存続し続けるためには、事業を行う際に必要なスキルを従業員が保有している必要があります。自社の従業員がどのようなスキルを保有しているか可視化するためには、スキル管理の取り組みが効果的です。
従業員の保有するスキルを適切に管理できれば大きな事業成果につながる可能性もあるため、スキル管理は企業にとって重要な取り組みと言えます。 この記事では、スキル管理の概要やスキル管理が重視される理由、スキル管理を行う際に重要な役割を担うスキルマップについて解説します。
3.従業員へのヒアリング
人員配置を検討する上で、従業員の意向も非常に重要です。個別面談などを通じて、キャリアビジョン、成長意欲、異動希望、職場環境や業務内容に対する満足度、将来のキャリアへの考え方などについて丁寧にヒアリングを行います。
面談では従業員の主体的なキャリア形成を支援する姿勢で臨み、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。とくに製造業では、技術の専門性が高いため、従業員の技術的な興味や挑戦意欲を丁寧に聞き取ります。また、チームのパフォーマンスの向上や効果的な技術伝承を行うためには、職場の人間関係や雰囲気も重要です。日頃から従業員と密にコミュニケーションをとるように努めましょう。
ヒアリングを通じて得られた情報は、適切に記録・管理し、今後の人材育成や職場環境改善にも活用します。
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【事例アリ/成功パターン解説】技術伝承とは? 暗黙知と形式知、技能伝承との違い、行わないリスクと成…
製造業など、ものづくりに関わる企業を中心に「技術伝承」という用語が使われています。団塊の世代の定年退職が始まった2007年以降、頻繁に使用されるようになりました。
しかし、技術伝承の当事者となる方の中には、技術伝承という言葉の意味をしっかり把握できていない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、技術伝承の概要に加えて、製造業で技術伝承が重要視される理由、実際に技術伝承を進めていく際の課題と対策を紹介します。
4.人員配置をシミュレーション
具体的な人員配置案について、様々な角度からシミュレーションを行います。
この際、人員配置図・表を作成し、配置案の妥当性や実現可能性を検証します。シミュレーションでは、業務の継続性、技術伝承、チーム構成のバランスなどを考慮し、最適な配置パターンを探ります。複数の案を比較検討し、より効果的な人員配置計画の立案を行いましょう。
製造現場では、交代制勤務のシフト調整や、繁忙期・閑散期の人員配置なども考慮に入れる必要があります。また、配置変更に伴う生産性への影響や、技術習得に必要な期間なども慎重に検討します。
シミュレーションでは、最悪のケースも想定し、リスク対策も含めた総合的な検討が重要です。可能であれば配置後の教育訓練計画や支援体制についても、具体的なプランがあると配置後の業務移行もスムーズになります。
人員配置図・表とは
人員配置図・表は、人員配置の計画・管理のためのツールです。目的によって記載する項目は変わりますが、一例としては下記が挙げられ、簡単な表であればExcelで作成も可能です。
1. 部署ごとの人数の把握 部署名、職位や雇用形態ごとの人数、在籍人数、要員要望数などを記載
部署名 | 職位 | 雇用形態 | 在籍人数 | 要望人数 |
営業 | 役職A | 正社員 | 1 | 0 |
一般社員 | 正社員 | 3 | +1 | |
派遣 | 2 | +1 |
2. 部署ごとの人員の把握→部署名、職位や雇用形態ごとの氏名、入社年などを記載
部署名 | 職位 | 雇用形態 | 名前 | 入社年 |
営業 6人 | 役職A | 正社員 | 中村大輔 | 2000年 |
一般社員 | 正社員 | 山本さくら | 2000年 | |
正社員 | 佐々木美咲 | 2010年 | ||
正社員 | 小林誠 | 2010年 | ||
派遣 | 渡辺浩二 | 2020年 | ||
派遣 | 加藤玲奈 | 2020年 |
3.部署ごとの人件費の把握→部署名、人件費、必要人員数などを記載
部署名 | 人件費予算 | 必要人員数 | コメント |
営業部 | ¥2,000,000 | 5人 | 派遣を2人補充予定 |
開発部 | ¥4,000,000 | 10人 | |
製造部 | ¥12,000,000 | 30人 | |
技術部 | ¥50,000,000 | 15人 |
他にもシフト勤務表、技能レベル、多能工化の状況なども重要な記載項目となります。また、安全衛生に関する資格や訓練履歴、品質管理に関する認証なども含めることで、より詳細な人員配置の検討が可能になります。定期的な更新により、人材の異動状況や育成状況を継続的に把握することができます。
5.人員配置計画を策定
シミュレーション結果を踏まえ、具体的な人員配置計画を策定します。計画には、配置の時期、対象者、異動先部署、必要な引継ぎ期間、教育研修計画などを明確に記載します。
また、配置に伴う処遇変更や必要な支援策についても検討します。計画策定の際は、関係部署との調整や経営層の承認を得ることも重要です。とくに製造業では、生産ラインの継続性確保に留意した計画立案が必要です。配置計画には、短期的な課題解決だけでなく、中長期的な人材育成の視点も含める必要があります。また、技術伝承のタイミングや、新技術導入に向けた人材育成なども考慮します。さらに、労働組合との協議や、法令遵守の観点からのチェックも忘れてはいけません。
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6.人員配置計画の実行とフォロー
人員配置実施後の効果測定も重要です。配置された従業員や上長への定期的なフォローアップ面談を実施し、適応状況や課題の把握に努めます。必要に応じて追加の支援や調整を行うことで、円滑な配置転換と期待される効果の実現を図ります。
従業員の心理的なケアとしては、必要に応じてメンター制度の活用や産業医との面談を行い
きめ細やかなフォローを心がけましょう。配置後の評価結果は、次回の人員配置計画にも活かし、PDCAサイクルを回していくことで、より効果的な人員配置の実現を目指します。
人員配置を効果的に行うにはデジタル化が必須
人員配置は単なる人の移動ではなく、企業の成長戦略を実現するための重要な施策です。近年は、従来の経験や勘に頼った配置ではなく、データに基づいた科学的なアプローチが求められています。
とくに管理するべきスキルの多い製造業企業では、従業員一人ひとりの特性を人間が判断し、適切な人員配置を行うことは困難を極めます。スキル管理システムなどを活用して人員配置のデジタル化を進めることで、従業員のスキルや経験などの客観的なデータに基づいた人財マネジメントを行いましょう。
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