ISO 14001の改訂(2026年版)ポイントを解説!―変更点・実効性ある運用とは?

2026年4月に「ISO 14001:2026」(※以降2026年版と表記)が発行され、国内でも同年8月20日にJIS Q 14001:2026として改正されました。改訂による変更点や自社内での対応に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

2026年9月に開催したセミナー「ISO 14001改訂ポイントを解説!―変更点を正しく理解し、実効性ある運用へ」にて、ISO審査員の養成機関であり、企業向けの内部監査員研修・コンサルティングも手掛ける株式会社テクノファの吉田宣幸氏より、改訂ポイントを分かりやすく解説いただきました。吉田氏は、規格を検討する国内委員会の委員を務め、審査員として第三者審査も長年担当しています。本イベントレポートでは内容の一部をご紹介します。

目次

今回の改訂は「大改訂」ではなく、規格の整合と意図の明確化

ISO 14001:2015(※以降2015年版と表記)の発行から11年。2024年には気候変動に関する追補1が発行されましたが、変更は4.1・4.2にそれぞれ1文が加わった程度であり、実質的には11年ぶりの改訂といえます。

今回の改訂は、もともと「追補2(Amendment)」として検討がスタートしました。しかし変更点が多く、追補として差分だけを示すと読み手にとって分かりにくくなるため、2024年の段階で改訂へと切り替えられた経緯があります。

改訂の狙いは大きく2つです。1つは、附属書SL(マネジメントシステム規格の共通文書)への整合です。附属書SL自体が改訂されたため、ISO 9001やISO 45001などと併用しても章立てや用語がそろうよう合わせたもので、6.3の新設など要求事項の追加にあたる変更も含まれます。

もう1つは、要求事項の意図の明確化です。附属書Aに書かれていた例示を要求事項本文に移すなどして、誤解されがちだった箇所の意図を示しています。概略としては、(1)気候変動以外の環境課題も対象であることの明示、(2)ライフサイクルの視点の強化、(3)新しい附属書SLの構成・用語への整合、(4)「及び/又は」の書き換えなど規格全体にわたる細かな修正、の4点が挙げられます。

押さえておきたい4つのキーワード――変わったものと、変わらなかったもの

「意図した成果」は従来通り

附属書SLの改訂に合わせ、「意図した成果」は一時「意図した結果」へ変更される予定でした。しかし「結果」では目先の話に寄ってしまい、結果を積み重ねて成果につなげるという将来を見据えたイメージが損なわれる、との議論があり、最終的に2015年版と同じ「意図した成果」に戻りました。

リスクの用語の定義が削除され「リスク及び機会」へ

2015年版では、2013年版附属書SLにリスクの定義があったため、箇条3に「リスク及び機会」の定義を置き、「潜在的で有害な影響(脅威)及び潜在的で有益な影響(機会)」と読み替える形になっていました。今回、附属書SL側でリスクの定義を使わなくてよいと決まったことで、定義は削除され、素直に「リスク及び機会」という表現に落ち着きました。

文書化した情報は保持する・維持するといった管理から「利用可能な状態に」

見た目上は大きな変更ですが、実態は変わっていません。2015年版では「維持する」は文書、「保持する」や「証拠として」とあれば、記録を指していましたが、2026年版では「利用可能な状態にする」に統一されました。区別は「証拠として」の有無で行い、あれば記録、なければ文書を指します。

ただし、吉田氏によると箇条8には「証拠として」がなくても文書と記録の両方を指す箇所があり、厳密に区別する必要はないとのことです。たとえば作業者に「どの手順書で作業していますか」と尋ねれば文書の話ですが、「10年前はどの手順書でしたか」と尋ねれば記録の話になります。同じ手順書が、場面によって文書にも記録にもなるのです。なお「誰に対して利用可能か」が明記されている箇所は、対象者に注意が必要です。

「ライフサイクル」の強調・強化

「ライフサイクル」の語は、2015年版の3か所(6.1.2に1か所、8.1に2か所)から7か所に増えました。4.3では、適用範囲を決める際の考慮事項に「組織の活動、製品及びサービスのライフサイクルにわたって」管理し影響を及ぼす権限・能力が加わっています。

6.1.2の注記では、ライフサイクルの各段階として原材料の取得、設計、生産、輸送・配送、使用、使用後の処理、最終処分が示されました。内容自体は2015年版でも規格の後半にある附属書Aに書かれていましたが、読まれないおそれがあるため本文の注記に移し、環境側面を広く捉えてほしいというメッセージを強めています。

章立ての変更は「新設」「分割」「統合」の3種類に整理できる

投影資料:各箇条の変更点(概略)


見出しレベルの変更は、次の3種類に整理できます。

  • 新設:6.3「変更の計画策定」が附属書SLの改訂に伴い追加
  • 分割:6.1.1にあった「リスク及び機会」が6.1.4として独立し、旧6.1.4「取組みの計画策定」は6.1.5へ。9.3はインプット(考慮事項)が9.3.2、アウトプット(結果)が9.3.3に分かれ、列挙もアルファベットで示されるようになった 
  • 統合:10.3「継続的改善」が10.1に統合

旧規格では6.1.1の「リスク及び機会」は、後ろにある6.1.2(環境側面)や6.1.3(順守義務)を踏まえて考える構成で順番通りではなく、理解しづらかったため、後ろへ移されて順番通りになりました。あわせて「緊急事態の決定」は6.1.2へ移りました。ここで、緊急事態は環境影響の大きいものだけに絞ってよい、と受け取らないよう注意が必要です。今回の改訂は「2015年版の要求事項を減らさない」と最初に決議されてから議論が始まっており、環境に関連する事態で、環境影響は小さくても会社へのダメージが大きいものは、引き続き緊急事態として特定する対象です。

なお、5.3のタイトルは附属書SLに合わせて「組織の」が消えて、「役割、責任及び権限」に簡素化されました。また箇条6の「計画」は訳語ルールの変更で「計画策定」になりましたが、英語原文は「planning」のまま変わっていません。

内容面の主な変更点――4.1・4.2・5.2・6.3・8.1で何が変わったか

4.1 「環境状態」の例示が追加され、「課題」が広がった

外部及び内部の課題に含める環境状態の例として、汚染レベル、天然資源の利用可能性、気候変動、生物多様性、生態系の健全性が示されました。追補1で加わった気候変動だけが環境問題だと誤解されないための追加です。例示された項目を課題に入れない場合は、その理由を説明できる状態にしておく必要があります。生物多様性が課題に入れば、環境方針やリスク及び機会、運用基準にも連動して変更が及ぶ可能性があります。 

4.2 注記に、利害関係者が「環境状態」に関するニーズを持つ可能性が示された

4.1と連動し、利害関係者が先に示した5つの環境状態に関するニーズ及び期待(要求事項)を持つ可能性がある旨が、注記として加わりました。順守義務が変われば、目標、運用基準、認識、力量、順守評価のチェックリストにも見直しが及びます。

5.2 「天然資源の保存・保全」が追加

環境方針の「環境保護」の例示に、天然資源の保存と保全が加わりました。保存は国立公園のように手つかずの状態を守ること、保全は里山のように適切に手を入れて守ることを指し、その両方を含む概念です。

6.3 「変更の計画策定」が追加

6.3は今回の改訂の大きな目玉の一つです。ISO 9001:2015で重視された「変更の計画」が附属書SLに取り入れられ、それに合わせて追加されました。ISO 9001の6.3の仕組みを、環境の観点で書き直して活用するのも一案です。

2015年版も8.1で変更の管理を求めていましたが、箇条6に置かれたことで、変更を計画段階から考慮するよう視点が引き上げられています。

設備の導入や化学薬品の切り替えなどの変更は、環境部門ではなく各部署で起こります。各部署が何を把握し、どこへ知らせ、どう対応するかを決めておく必要があり、新設の箇条として次回審査でも重点的に確認されると考えられます。

8.1 管理対象が外部から提供されるプロセス、製品又はサービスも追加

8.1は、ライフサイクルの視点がまだ十分に浸透していない典型例として挙げられた箇所です。吉田氏によると、6.1では広く捉えていても、運用の段階になると自社工場の中だけに視点が縮まる会社が散見され、2015年版で明記された外部委託したプロセスの管理も、解釈が狭すぎたといいます。

「外部委託したプロセス」が、「環境マネジメントシステムの意図した成果に関連する、外部から提供されるプロセス、製品又はサービス」に変わりました。直接の委託先だけでなく、その先のTier2・Tier3まで見る必要が出てきます。範囲は「意図した成果に関連する」ものに限定されていますが、購入品の性能だけを見ていた場合は、ライフサイクルの視点でその購入品の製造段階など、見る範囲の見直しが必要です。

組織への影響:まず既存運用の点検と、附属書Aの再確認から

組織に求められるのは、大きく2つです。1つは、明確化された要求事項を踏まえた既存運用の点検。もう1つは、今回大幅に充実した附属書Aの再確認です。附属書Aには、6.3の変更の例として新製品・新サービスの投入、技術仕様の変更、人的資源の変更、事業の中断などが列挙されています。

点検の切り口として、6.3では次の2点を問い直すとよいでしょう。

  • 分担は大丈夫か:各部署が何を把握し、どこへ知らせ、どう対応するかが決まっているか
  • 知らせ先のメンバーは認識しているか:購買や設計で生じた変更が、環境マネジメントシステム(EMS)の管轄部署に確実に届くか

審査員も次回審査で重点的に確認する可能性が高いため、実態として整備したうえで審査に臨むことが重要です。なお、本記事で取り上げたのは大きな変更点のみです。細かな変更は他にもあるため、規格本文や附属書Aでの確認をおすすめします。

改訂に関するよくある質問~どう行動に落とし込むのか?~

セミナーでは、参加者から事前に寄せられた質問にも吉田氏に回答いただきました。その一部をご紹介します。

質問①:変更は大きくないとのことですが何もしなくていいのか?

回答:「何もしなくていいわけではありません。今回お話しした、明確化された部分を踏まえて、今の運用を見直していただく必要があります。自社の解釈と同じであれば変更は不要ですが、誤解していた部分があれば合わせて変える必要があります。」

質問②:3年間の移行期間の中で何をすればよいのか?

回答:「環境マニュアルを改訂して運用し、PDCAが一巡してから審査を受けることになります。毎年の審査のうち、どのタイミングで移行するかを決め、それまでにPDCAが一通り回るよう逆算して準備してください。内部監査員は新しい規格を知っている必要があるので、変更点を誰にどう学んでもらうか、力量管理もしっかり行っていただきたいと思います。移行審査前の内部監査では、規格の変更点と、それに合わせて変えた社内ルールの変更点を確認しておくことが必要です。」

質問③:環境マネジメントシステムの運用をどのように周知すると効果的に環境活動してもらえるか?

回答:「金属くずを有価物として回収したいのに一般ごみに捨てられてしまう、というご相談をいただきました。7.3(認識)では、取り組むことのメリットを分かってもらうことが求められています。有価物の回収箱に入れれば会社の収入になり、賞与などで皆さんに還元される、と伝われば協力が得やすくなるでしょう。また7.4.2(内部コミュニケーション)の観点で、社内にアイデアを募集するのも有効です。良いアイデアが集まるうえ、会社が大事にしているテーマだと伝わる教育効果もあります。」

まとめ

今回の改訂は大改訂ではありません。ただし、意図が明確化された部分を自社の解釈と照らし合わせ、ずれがあれば運用を見直す必要があります。まず着手したいのは、6.3で求められる「変更を各部署でどう察知し、どこへ知らせるか」の確認と、8.1で求められる「外部から提供されるものをどこまで見るか」の見直しです。そのうえで、充実した附属書Aを読み直し、移行審査から逆算して準備を進めていきましょう。

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